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千の蕾  作者: 峯岸 昴
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第4話

 翌日の夜。


 隼人は決意を固め、再びあの公園のベンチに座っていた。


 真っ白なワンピースを着た美香が、少し息を切らして駆け寄ってくる。


「話って……?」


 小首を傾げる彼女の瞳には、柔らかな期待が滲んでいた。

 喉が渇く。こんなにも無防備な彼女に、残酷な言葉を突きつけなければならない。


 拳をきつく握り締めた。


「……別れよう」


 夜風が止まった。美香の頬から、スッと血の気が引いていく。

 凍りついたような沈黙の後、震えを押し殺した小さな声が響いた。


「それは、あなたが決めることじゃない」


 怒りでも悲鳴でもないその言葉が、隼人の胸に鋭く突き刺さる。


「私、一人で付き合ってたの?」

「違う!」

「じゃあ、一人で終わらせないで。理由を教えて」


 父親への引け目も、将来への不安も、話せば彼女は受け止めてくれるだろう。

 それが分かっていながら、隼人は最後まで自分の弱さを見せられなかった。


「……俺じゃ、美香を幸せにできない」


 美香はゆっくりと首を振る。


「それ、誰が決めたの? お父さん?」

「そう言うことじゃないんだ!」

「じゃあ誰?」


 答えられない隼人を真っ直ぐに見つめ、ついに彼女の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。


「私は、隼人と一緒にいたい。お金や仕事の肩書きだけで幸せが決まるなら、私、最初からあなたを好きになってない」


 胸が張り裂けそうだった。

 今すぐ抱きしめたかった。

 だが、ここで優しくすれば、彼女はまた親との間で苦しむ。


「……ごめん」


 それだけを残し、ベンチから立ち上がった。


「隼人!」


 背後から嗚咽が聞こえても、一度も振り返らなかった。

 


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