09:お昼はみんなで
月曜日の朝。
教室に入ると、賑やかな女子の声が耳に飛び込んできた。
「ねえ、見た? SEASONの配信!」
「コノエ公園で生配信してたやつでしょ、見た見た! キリヤ、マジでイケメンだったよね! もしかしてレギュラー入りするのかな!?」
「いやー、それはどうかなあ? 夏川先輩は臨時の助っ人だって言ってたし」
「でもレギュラー入りしてほしいなあ。だってイケメンだし」
「もー、ミホったら、そればっかり!」
……ふふ。ふふふふふ!
自分の席に座りながら、わたしはニヤニヤが止まらなかった。
みんなが絶賛しているキリヤの正体がわたしだなんて、誰も気づいてない。
「何を一人で笑っているんだ、気持ち悪い。締まりのない顔をするな」
机の上から、クロが冷ややかな視線を向けてきた。
「だって、クロ。こんなに褒められることなんて、人生で一度もなかったんだよ? やっぱり嬉しいじゃん!」
クロと会話していると、隣の席の眼鏡をかけた女子――相田さんがこっちを見た。
――あっ、挨拶するチャンスだ!!
「おは……」
「おはよう」って挨拶して、それから仲良くなれたら嬉しい、と思ったのに。
相田さんは「ヤバい奴と目が合った」みたいな感じで、怯えたように顔を背けてしまった。
――また挨拶できなかった。友達作りって、難しいなあ……。
がっくりと肩を落としたそのとき、「おはよう」という声が聞こえた。
顔を上げると、教室の入り口の近くで、春宮くんが岩清水さんたちに囲まれていた。
「おはよう、春宮くん。ねえねえ、キリヤについて聞きたいんだけど!」
「キリヤって中学生なの? うちの学校に通ってる?」
「芸能人? どこの事務所の人?」
「秘密なんだ。ごめん」
質問攻めにされて、春宮くんは困ったように笑っている。
その視線が、一瞬だけわたしと重なった。
彼はいたずらっぽく片目をつむって、すぐに女子たちとの会話に戻った。
……し、心臓に悪い。
わたしはうつむき、両手で顔を覆った。
きっといま、わたしの顔は真っ赤だと思うから。
昼休み。
いつものように、わたしはお弁当を持って席を立った。
今日も一人、静かな階段の踊り場で「ボッチ飯」をする。
――はずだったのに。
「立切さん。ちょっと待って」
廊下に出たところで、呼び止められた。
振り返ると、そこには春宮くんが立っていた。
「春宮くん。どうしたの?」
「深冬に聞いたんだけど、立切さんって、お昼は一人でご飯を食べてるんでしょう? もしよかったら、今日はぼくたちと一緒に食べない?」
「えっ!?」
昼休みの屋上は、SEASONの聖域だと言われている。
行っちゃダメってわけじゃないんだけど、SEASONに遠慮して、みんなが近づかないようにしてるんだ。
「先輩たちも待ってるんだ。深冬も立切さんと話したいって言ってたよ。ぼくも同じ気持ち。だから、来てくれると嬉しいな」
「うん、行く!」
春宮くんの優しい笑顔に誘われて、わたしは大きく頷いた。
教室棟の屋上に行くと、玲央先輩と司先輩が給水塔の陰で談笑していた。
「わあ、ほんとに来てくれた。あげはちゃ~ん、こっちこっち~」
司先輩は話を中断し、ニコニコしながら手を振ってくれた。
「やっほー、あげはちゃん。ようこそ屋上へ! っつっても、別にオレらの場所じゃねーんだけどなー。まあとにかく、座って」
「お邪魔します」
わたしは先輩たちに招かれるまま、屋上の地面に座った。
少し遅れて白銀くんもやってきたから、みんなでお弁当を食べ始めた。
「お、あげはちゃんのウィンナー、タコさんじゃん。可愛いな」
「こっちはカニなんですよ」
玲央先輩に話を振られたわたしは、カニの形のウィンナーを箸でつまんでみせた。
「おお、ほんとにカニだ。すげー」
お母さん、今日もウィンナーを変形させてくれてありがとう!
おかげで話題ができました!
「あげはちゃんのお弁当、小さいね~。それだけの量で足りるの~?」
司先輩のお弁当箱は、わたしのお弁当箱の2倍はありそう。
司先輩って、実は食欲旺盛なんだよね。よくファンから食べ物を貢がれてるし。
「足りますよ。一人でご飯食べてると、そんなにお腹空かないんです」
「え、一人? あげはちゃんって、いっつも一人でご飯食べてるの?」
玲央先輩の驚き顔が、わたしの胸を抉る。
「……そうです……」
うう、人気者の玲央先輩にボッチの悲しみはわからないんだ……。
「じゃあ、これからオレたちと一緒に食う?」
「えっ? でも、お邪魔でしょう?」
「邪魔なら初めから言わないって。オレはあげはちゃんと一緒に食べたいから、誘ってんの」
「…………」
わたしは無言で、他のみんなを見た。
玲央先輩の言葉を否定しようとする人はいない。
みんな、微笑んだり、優しい目でわたしを見てる。
「……皆さんがいいなら……わたしも。皆さんと一緒に食べたい、です」
「じゃあ決まりだね~。明日も待ってるから〜」
司先輩の穏やかな微笑みが、心にしみる。
「ありがとうございます。これから行く心霊スポットでどんなにヤバい霊が出ても、わたしが絶対守ってみせますから!!」
「あはは。頼りにしてる~」
――ああ、おいしい……。一人で食べるより、ずっと……。
みんなと楽しくおしゃべりしながら、わたしは感動のあまり泣きそうだった。




