10:衝撃の事実
お弁当を食べ終えて先輩たちと別れ、わたしたち一年グループは三人で廊下を歩いていた。
「立切さんって、意外と普通の人だったんだね」
教室に戻る途中、春宮くんが唐突にそんなことを言った。
「え? どういう意味?」
わたしは思わず足を止めて、春宮くんを見た。
「あ、失礼だったかな、ごめん。気にしないで」
「気になるよ。教えて」
食い下がると、春宮くんは気まずそうに頬を掻いて言った。
「うーん。実はね。正直に言うと……立切さんはちょっと変わった人だと思ってたんだ」
「変わった人? どこが?」
「だって、いつも一人でブツブツしゃべってるでしょ?」
「え……?」
わたしは固まってしまった。
――いや、一人でしゃべってたわけじゃなくて、クロとしゃべってたんだけど……。
でも、みんなにクロは見えてないから、一人でブツブツしゃべってたように見えるんだ。
「みんなが言う通り、ちょっと危ない、関わっちゃいけない人なのかなあって思ってたんだよね。そんなことなかったのにね。ごめんね」
「!!」
わたしがボッチだったのは、縁切り神社の娘だからとか、嫌われていたとかじゃなくて。
『一人でしゃべり続けている不気味な女子』だと思われていたから……!?
凄まじいショックを受けて、わたしはへなへなと廊下に座り込んだ。
「立切さん!? 大丈夫!?」
春宮くんは慌ててわたしのそばにしゃがんだ。
「だ、大丈夫……不気味な子だって思ってたのに、それでも優しくしてくれてありがとう。そうだ。春宮くんに渡したいものがあったんだ」
わたしはどうにか立ち上がり、スカートのポケットから小さな包みを取り出した。
「これ、うちの神社の破魔鈴。お父さんが特別に祈祷した鈴で、邪念や悪霊を跳ね除ける力があるの。霊障からも守ってくれるはずだよ」
「霊障?」
春宮くんは包みを受け取って、首を傾げた。
「邪念や悪霊は負の感情の塊みたいなものだから。近づかれたり、取り憑かれたりすると、心や身体の不調を招くんだよ。そういう現象をまとめて『霊による障り』――つまり『霊障』って呼ぶの。春宮くんは特に取り憑かれやすい体質みたいだから、お守りに持っておいてほしい」
「うん、わかった。開けてもいい?」
「もちろん」
春宮くんが包みを開けると、そこにはビー玉よりも少し大きいくらいの、銀色の鈴が一つ。
鈴には赤い紐がついていて、キーホルダーにもできるんだ。
春宮くんが鈴を振ると、チリンと、冷たく澄んだ音が廊下に響いた。
「……ありがとう、立切さん。大事にするね。これから肌身離さず持つことにするよ」
春宮くんは繊細なガラス細工を扱うように、優しく鈴を握って微笑んだ。
どうやら、すごく喜んでもらえたみたい。
「えへへ」
春宮くんと和やかに微笑み合っていると、これまでずっと黙っていた白銀くんが口を開いた。
「立切さん。おれにもその鈴、もらえないかな。おれも霊感があるせいで、色々苦労してるから」
「わかった。お父さんに頼んでみるよ」
「ありがとう。よろしく」
心なしか、白銀くんは嬉しそうだった。
「ねえ、クロ」
自分の席に戻った後、わたしは大真面目な顔でクロに呼びかけた。
クロはわたしの机の上にちょこんと座り、金色の瞳でわたしを見上げている。
「わかっている。もう学校についてくるなと言いたいのだろう?」
「うん。明日からは一人で登校したい。クロがいると、どうしてもしゃべっちゃうもん。そしてますます変な人だと思われる……!!」
わたしは慄きながら、両手で顔を覆った。
「……そうだな。あげはももう中学生だ。あまり過保護なのも良くないだろうし、これからわたしは神社で過ごすことにする」
「ありがとう、クロ!」
「ただし、何か問題があればすぐに呼べよ」
「うん! クロ、大好き!!」
わたしは両腕でクロを包み込んで頬擦りした。
「……見て。また立切さんが一人で何かやってる。こわ……」
「しっ。見ちゃダメ!」
近くの女子グループが何か言ってるけど、聞こえないふりをした。




