11:言いたい人には言わせておこう
二日後の朝。
登校すると、教壇の近くに春宮くんがいた。
春宮くんは今日もクラスメイトの輪の中心で、楽しそうにおしゃべりしている。
一方、白銀くんはうつむいてスマホをいじっていた。
――本当に、この二人って対照的だよね。太陽と月って感じ。
ともあれ、いまのわたしは、白銀くんに渡したいものがある。
わたしは自分の席に座って、カバンの中身を机に移動した。
空になったカバンを机の横のフックにかけ、小さな包みを持って立ち上がる。
そのまま白銀くんに近づこうとして、ためらった。
白銀くんはSEASONのメンバーで、学校でも多くのファンがいる。
そんな彼に教室で声をかけてしまったら、変な噂を立てられるかも……。
うーん、どうしよう。
やっぱり、昼休みになるまで待とうかな?
迷っていると、不意に白銀くんが顔を上げて、こっちを見た。
「?」
白銀くんは怪訝そうな顔をしている。
「なんで立ってるの?」と、目が言っていた。
「あ、いや……」
反射的に言いかけて、口を閉じる。
――なんでわたし、ビクビクしてるんだろ。
ただ、クラスメイトに話しかけるだけ。
それだけのことなのに、なんでいちいち人目を気にしなきゃいけないの。
――ああもう、面倒くさい!
言いたい人には言わせておけばいいんだ!!
わたしは思い切って足を踏み出した。
教室をずんずん進んで、白銀くんの前に立つ。
「渡したいものがあるんだ。ちょっと付き合ってもらえるかな」
「いいよ」
白銀くんはスマホをポケットに入れて立ち上がった。
ボッチな地味子と、アイドルの白銀くんが連れ立って教室を出ていく姿を見て、クラスメイトたちがざわつく。
「なんで白銀くんと立切さんが?」「もしかして……告白?」「え、ありえないでしょ。玉砕確定じゃん」なんてヒソヒソ声が聞こえる。
わたしは聞こえなかったフリをして、廊下を進んだ。
人気のない校舎の端っこまで行って、足を止める。
「ごめん、白銀くん。この後、変な噂が立つかも」
「気にしなくていいよ。おれも気にしない」
白銀くんは無表情で、淡々とそう言った。
無表情だと怒っているように見えるけれど、彼は特に怒ってない。
ただ、素が無表情なだけだと、それなりに交流を重ねたいまのわたしは知っている。
「うん、そうしてくれると助かるよ。はい、これ。約束の破魔鈴」
「ありがとう」
わたしが差し出した包みを受け取って、白銀くんは微かに笑った。
「あ、笑った」
「え?」
白銀くんは瞬時に笑みを消し、再びの無表情でわたしを見た。
「いや、その、ごめん。白銀くんは滅多に笑わないでしょう? ただ嬉しかっただけなの」
わたしは慌てて手を振った。
「……いや。こっちこそ、ごめん。感情を表に出すのは、苦手で」
白銀くんは自分の頬をつまんだ。
それから、ムニムニと頬を動かす。
どうやら、力ずくで表情筋を動かそうとしているみたい。
「昔からそうなんだ。これでも、だいぶマシになったんだけど。光成と知り合うまでは、『人形みたいで怖い』とか言われてたし……」
白銀くんはしばらく頬を動かした後で、諦めたように手を下ろした。




