08:コノエ公園にて
コノエ公園は郊外にある公園だ。
「危ないから」っていう理由で遊具が撤去された結果、誰も寄りつかなくなって寂れちゃった公園。
「もうすぐ11時だな。みんな、心の準備はいいか?」
街灯がポツンと灯るだけの不気味な場所でも、玲央先輩は元気いっぱいだ。
本当に霊がいたとしても、玲央先輩の明るさに浄化されちゃうんじゃないだろうか?
「撮影の準備はまだだけど、心の準備はできてるよ~」
スマホをいじりながら、司先輩がのんびりした声で言った。
「大丈夫です」
「……はい」
みんながそれぞれ返事をする中、白銀くんだけテンションが低い。
「白銀くん、心配しなくても大丈夫だよ。ここには何もいないみたいだから」
わたしの左肩の上で、クロは退屈そうにあくびをしている。
もしも悪霊がいるなら、クロがこんなにリラックスしてるわけないもんね。
「そうなの? 良かった」
安心したらしく、白銀くんの表情がほんの少しだけ緩んだ。
「よし、できた。みんな、お待たせ~。そろそろ配信始めるよ~」
司先輩は配信用のスマホをスタンドに固定し、和臣さんがビデオカメラを構えた。SEASONの撮影は、いつもこんなふうに、ライブ用と編集用の複数台体制で行っているそうだ。
「はい」
わたしは事前の打ち合わせ通り、四人から少し離れた場所に立って深呼吸した。
これからわたしは『キリヤ』になる。
一人称は『おれ』にして、同い年の白銀くんたちにも敬語を使うつもりだ。正体隠しとキャラ作りのために。
「いくよ~。5、4、3……」
司先輩がカウントダウンと一緒に指を折り、そして配信が始まった。
「みんな、おはようこんにちはこんばんはー!」
「「「SEASONでーす!」」」
玲央先輩の挨拶に続いて、三人は一瞬で配信者の顔になり、スマホに向かって手を振った。
――すごい!!
その豹変ぶりに、わたしは驚愕してしまった。
みんな、いままでとは、ガラッと雰囲気が違う!
これがプロの実力……!!
『きゃー、待ってました!』
『玲央、今日もカッコいい!』
『夜の公園とか怖すぎ! みんな気をつけて!』
スマホの画面の中では、コメントがものすごい勢いで流れている。
夜遅いのに、たくさんの人が見てるんだな。
さすが、チャンネル登録者数100万人超えのSEASONだ。
「――うん、心霊スポットって危ないよねー。だから、今日はSNSで告知した通り、強力な助っ人にきてもらいました! じゃーん! 霊能力者のキリヤくんでーす!」
玲央先輩が、わたしに向かって両手を伸ばす。
「キリヤくん、来て来て~」
司先輩に笑顔で手招きされて、わたしはドキドキしながら四人の傍に行った。
「は、初めまして。キリヤです! 今日はよろしくお願いします!」
わたしはペコっと頭を下げた。
いまどんなコメントが流れてるのかは……あんまり想像したくないかも。怖いし。
「じゃあ早速、公園内を歩いていきましょー! さーて、噂の幽霊はいるかなー?」
SEASONのメンバーがそれぞれ挨拶した後で、玲央先輩が歩き出した。
雑談したり、たまに怯えたりしながら、わたしたちは公園内をぐるりと一周した。
公園の入り口まで戻ってきたけど、特に何も起きなかった。
――と、思いきや。
「うわあっ!?」
後ろから春宮くんの悲鳴が聞こえた。
――えっ、まさか幽霊がいたの!?
クロは何の反応もしてないし、わたしも何も感じなかったのに!?
「どうしたんですか!?」
わたしは急いで駆け寄った。
春宮くんは驚いた顔をしていて、その隣にいる白銀くんは何故か、冷たい目である一点を見ている。
不思議に思って、白銀くんの視線を追ってみると。
「……なんですかこれ。糸?」
春宮くんの頭上に、半透明の糸が垂れ下がっていた。
糸の先に付いていたのは……。
「……こんにゃく?」
暗闇の中でゆらゆらと揺れていたのは、板こんにゃくだった。
「イエーイ、ドッキリ大成功ー! みんな、いまの見た? 光成のビビり顔、スクショチャンスだったでしょ! オレのおかげ!」
ドヤ顔で胸を張る玲央先輩の手には釣り竿が握られていた。
もちろん、釣り竿の先についているのは、板こんにゃくだ。
「ふん。どうせそんなことだろうと思ったわ。ここには何の気配もないからな」
クロが呆れたように言った。
「なあ司、いまのちゃんと撮ったよな?」
「撮ったよ。コメントもたくさん来てる。でも、わざと驚かせるのは悪趣味じゃない~?」
司先輩は苦笑いしている。
「いや、だって、有名な心霊スポットだっていうのに何も起きねーんだもん。配信者としては、盛り上げたいじゃん?」
「もう、玲央先輩! 本気で怖かったんですからねっ!」
「……玲央先輩。そういう『お化け屋敷の定番』みたいなのは、もうやめてください」
春宮くんは怒り、白銀くんはため息をついた。
「あはは、ごめんごめん! 板こんにゃくは後でちゃんと食べるし、光成は後でジュースおごるから許して!」
「パフェも追加で」
「じゃあおれはコンビニで一番高いアイスにします」
「なんで深冬にもおごることになってんのっ!? お前は何の被害も受けてねーじゃん!」
「おれだって、いきなり光成に叫ばれて、無駄に驚かされたので被害者です」
「あーもうわかった、おごるよ、おごればいいんだろ!」
四人の楽しそうなやり取りを見守っていると、白銀くんがこっちを見た。
「キリヤも何か食べる? いまなら玲央先輩が何でもおごってくれるらしいよ」
白銀くんの目線移動に合わせて、司先輩がカメラを向けてきた。
「いいんですか、先輩。ありがとうございます!」
この場の空気を壊さないように、わたしはテンションを上げてお礼を言った。
「おい!? キリヤにもおごらなきゃいけないわけ!?」
「ぼくを驚かせた罰はそれくらい重いんですよ」
春宮くんは腰に手を当て、わざと偉そうに振る舞っている。
「わかった、わかりましたぁ!」
頭を抱えて情けない声をあげた玲央先輩を見て、他のみんなが一斉に笑う。
動画のコメント欄も、凄い勢いで流れてる。
「あはははっ」
気づけばわたしも、みんなと一緒に笑っていた。




