07:宝物の写真
土曜日の午後十時過ぎ。
キリヤに変身したわたしはクロを肩に乗せて、司先輩と一緒に外に出た。
司先輩の家の前には、黒くて大きな車が停まっている。
「すごい。テレビで見た芸能人の送迎車みたいです」
「ふふ、いいでしょ~? 事務所を立ち上げたときに、お父さんが買ったんだ~。さあ、乗って乗って」
司先輩がスライドドアを開けると、中にいた三人が一斉にこっちを見た。
「あげ――じゃない、キリヤ! こんばんは!」
玲央先輩が笑顔で手を上げた。
玲央先輩の後ろの席には、春宮くんと白銀くんが座っている。
「こんばんは。お邪魔します」
おずおずと車内に足を踏み入れたものの……どこに座ればいいんだろう?
「こっちにおいでよ」
わたしの気持ちを見透かしたように、春宮くんが隣の席をポンポンと叩いた。
――え、そこって……春宮くんと白銀くんの間の席だよ!?
でも、せっかく春宮くんが誘ってくれたのに嫌です、なんて言えるわけがなくて。
わたしはクラスの王子様二人に挟まれるという、とんでもない席に座った。
「立切さん。親御さんはSNSに写真を上げたり、動画を撮ることに反対されたりしなかった?」
カチンコチンに固まっていると、運転席にいる和臣さんが質問してきた。
「はい。お父さんもお母さんも、わたしがしたいようにすればいいって言ってました」
「それは良かった。じゃあ、出発前にSEASONと一緒に告知用の写真撮ってもらってもいい? 身元が特定されないよう十分配慮するけど、嫌なら無理にとは言わないよ」
「写真、ですか……」
「別にいいんじゃないか? 減るものでもないし。いまの姿を見て、お前があげはだと気づく者はいないだろう」
わたしの膝の上で毛づくろいしながら、クロが言った。
う、うーん……。
もし正体がバレたら、家族や神社に迷惑がかかる。
でも、和臣さんは配慮すると言ってくれたし……特定されないなら、アリ……かなあ?
わたしだって、SEASONの役にたてたら嬉しいし。
正直に言うと……わたしも、SEASONのみんなとの写真、ほしい。
「……わかりました。特定できない形にしてもらえるなら、いいですよ」
「よし、じゃあ五人で写真撮るぞ。司、隣に来い。光成、深冬。入りきらねーから、もっと寄って。もっと!」
玲央先輩は自分のスマホに自撮り棒を取りつけて、みんなに指示を出した。
「ちょっとごめんね」
玲央先輩の指示に従って、春宮くんが身体を寄せてきた。
さらに反対側からは、白銀くんの肩がぴったりと密着してくる。
――ち、近い! 近すぎますって!!
「あげはちゃん、表情硬いよ! 笑って笑って!」
「は、はいっ」
玲央先輩に言われて、わたしはなんとか笑顔を作った。
カシャッ! とシャッター音がする。
「よし、いい感じ。もう離れていいぜ」
玲央先輩がスマホを下ろすと、春宮くんと白銀くんは身体を引いた。
お、終わったぁ……。
わたしは、ぶはあ、と大きく息を吐き出した。
緊張しすぎて、自分でも気づかないうちに息を止めちゃってたよ。
「ほら、いい写真だろ?」
玲央先輩が座席から身を乗り出して、撮った写真を見せてくれた。
玲央先輩と司先輩はポーズを決め、春宮くんは微笑み、白銀くんはいつもの無表情。
わたしは春宮くんと白銀くんの間で、照れたような困ったような、なんとも複雑な顔で笑っている。
SEASONとわたしが五人で映ってる、世界でたった一枚だけの、特別な写真。
「……玲央先輩。この写真、後でわたしにも送ってもらえませんか?」
「いいよ。いま送るわ」
少しして玲央先輩から送られてきた写真を、わたしは『宝物』のフォルダに入れた。




