06:お披露目
三十分後、わたしはリビング前の廊下にいた。
クロはわたしの足元でおとなしくしている。さっきの失敗もあって、これから人前では話しかけないつもりだ。クロもちゃんとわかってくれた。
「それでは、お待ちかねのお披露目タイムで~す! あげはちゃ~ん、入ってきて~!」
司先輩の声を受けて、リビングに入ると。
「うおっ、マジかよ!?」
玲央先輩はソファからずり落ちそうになり、その隣で、春宮くんは激しく咳き込んだ。
どうやら、飲んでたサイダーを噴きそうになったみたい。
白銀くんはそこまで大げさな反応をしなかったけど、驚いてはいるらしく、目が丸くなってた。
「ホントにあげはちゃん?」
玲央先輩は立ち上がってわたしに近づき、わたしの顔をまじまじと見つめた。
「あの……あんまり見つめられると恥ずかしいんですけど……」
わたしはもじもじしながら言った。
わたしはいま、短い黒髪のウィッグを被ってる。
胸元が平坦に見えるインナーに、少し大きめサイズのパーカーを着てるから、どこからどう見ても『男の子』だ。
「すげえな。もし街で会っても、あげはちゃんだって絶対気づかないわ。普通にイケメンじゃん……」
司先輩の素晴らしいメイク技術に、玲央先輩は感心しきっている。
「うん。驚いた。これなら問題ないと思うよ」
春宮くんも近づいてきて、ニッコリ笑った。
玲央先輩も春宮くんもこっちに来てくれたのに、白銀くんだけはソファに座ったまま動こうしない。
「どうかな、白銀くん。やっぱり変、かな?」
不安になって聞いてみると、白銀くんはハッとしたように視線を泳がせた。
「……いや。変じゃない。その……いいと思う。男子にしか見えない」
ぶっきらぼうにそう言って、彼はふいっと顔を背けちゃった。
「変装は完璧だな。ところで、名前はどうする? 本名を呼ぶわけにはいかないだろ?」
玲央先輩に聞かれて、わたしは顎に手を当てた。
「そうですね……立切のキリを取って、『キリヤ』というのはどうでしょう?」
「キリヤか。格好良いじゃん、いいと思うよ! じゃあ予定通り、明日の夜はみんなでコノエ公園に行くから。司、和臣さんに話はしといてくれたよな?」
「もちろん~」
そのまま、玲央先輩と司先輩は明日の打ち合わせを始めた。
「春宮くん。和臣さんって、誰?」
真剣な顔で話している先輩たちの邪魔にならないよう、わたしは小声で聞いた。
「司先輩のお父さんだよ。元々映像関係やマネジメントの仕事をしていたんだけど、ぼくたちのために事務所を立ち上げてくれたんだ」
「じゃあ、司先輩のお父さんが事務所の社長さんなんだ?」
「うん。和臣さんはマネージャーもしてくれてて、現場にはいつも同行してくれるんだよ。動画の編集とかもしてくれてるんだ。司先輩も機械には強いから、手伝ったりしてるみたい」
「司先輩は裏方もやってるんだね。そういえば、撮影係も司先輩が担当してることが多いよね」
「詳しいね?」
「ふふふ。ファンですから」
こっそり胸を張っていると、玲央先輩がこっちを見た。
「あげはちゃんは司にメイクしてもらった後、そのまま司と車に乗ってね。ちなみに、オレたちも一緒に乗るから」
「わかりました」
SEASONと同じ車に乗るのか……なんか、ドキドキしちゃうな。
「そうだ、あげはちゃん。心霊スポット巡りが終わったら、あげはちゃんには何かお礼をしないといけないね~ってみんなと話してたんだ。何がいいか考えておいてね~。できるだけ叶えるから~」
司先輩が、おっとりと笑った。
「ええっ? お礼なんて、そんな……」
「遠慮しなくていいよ。危険なことに付き合ってもらう分、ちゃんとお礼はしたいから」
春宮くんも微笑んだ。
お礼かあ……もしかして、お願いしたらSEASONの限定グッズとか、もらえるのかな!?
「考えるのは後でいいよ、立切さん。まずは『無事に』終わらせないといけないんだから」
白銀くんの冷静な言葉は、浮かれかけたわたしの頭を一瞬で冷やした。
――そうだ。お礼なんて、そんなことを考えるのは後でいい。
「もー、深冬はまたそんなこと言って。危険なことなんて何もないって。あげはちゃんを連れて行くのは万が一に備えて、『一応』だよ。お前があんまり言うから連れて行くんだぜ?」
玲央先輩はポンと白銀くんの頭を叩いたけど、白銀くんの顔は晴れない。
「大丈夫だよ、白銀くん。何があってもわたしが絶対、みんなを守るから!」
わたしは白銀くんの前に立って、きっぱり言った。
「…………」
白銀くんは軽く目を見張ってから、ほんのちょっとだけ笑った。
「うん。頼りにしてる」




