04:SEASONとの初対面
放課後。
白銀くんがわたしを連れていったのは、校舎の端にある空き教室だった。
教室の中からSEASON三人の話し声がする。どうやら白銀くん以外のメンバーはすでに集まってるらしい。
――うぅ、緊張するなぁ……心臓がバクバク言ってるよ。
「そんなに緊張しなくても」
胸に手を当てて深呼吸していると、わたしの左肩の上でクロが言った。
「そんなの無理だよ。憧れの人たちと会うんだよ? クロは黙ってて」
前にいる白銀くんに聞こえないように、わたしは小声で囁いた。
「失礼します。立切さんを連れてきました」
と言って、白銀くんが空き教室のドアを開けた瞬間――
「おっ、来た来た! キミがあげはちゃん?」
椅子を引いて立ち上がったのは、癖のある跳ねた髪に、整った顔立ちをした美少年。
「初めまして。SEASONのリーダー、2年の夏川玲央でーす。いやあ、こんな可愛い子が来てくれるなんて嬉しいなあ。親しみを込めて、オレのことは玲央先輩って呼んでね!」
ええっ!?
出会って一秒で、下の名前で呼ぶ許可をもらっちゃったよ!
「こんにちは~。同じく2年の秋城司です~。よろしくね~」
戸惑っている間に秋城先輩が立ち上がり、おっとりした感じで笑った。
柔らかそうな猫っ毛に、すっと通った鼻筋。
顔のパーツの大きさも配置も、全てが完璧だ。
「立切さん。来てくれてありがとう」
最後に立ち上がったのは、春宮くん。
「同じクラスだし、いまさら自己紹介しなくてもいいかもしれないけど、一応ね。春宮光成です。改めて、よろしく」
そう言って、春宮くんは爽やかに微笑んだ。
「……白銀深冬」
みんなが挨拶しているのを見て、自分もしなければと思ったらしく、白銀くんがボソッと言った。
「は、初めまして。いや、春宮くんと白銀くんは初めましてじゃないけど。とにかく、1年の立切あげはです。よろしくお願いしますっ」
四人が放つキラキラオーラに圧倒されながら、わたしは頭を下げた。
「んじゃ、さっそくだけど。あげはちゃんは立切神社の娘で、お祓いができるんだよね?」
全員が着席した後で、玲央先輩が質問してきた。
「はい」
「んー。疑っちゃって悪いんだけどさあ、それってホント?」
玲央先輩は首を傾げた。
「オレは深冬と違って霊感ないからさ。お祓いとか言われても、いまいちピンとこねーんだよなあ。動画とか見てても、ただそれっぽいことやってるだけじゃねーの? って思っちゃう」
「でも、実際にぼくの肩は軽くなりましたよ。あれは立切さんがお祓いしてくれたからなんだよね?」
春宮くんがフォローを入れてくれた。
「うん。悪い『念』が憑いてたから、祓ったの」
「じゃあさ、オレにもやってみてよ。あげはちゃんがお祓いしてくれたら、肩が軽くなるんだろ? そしたら実感として信じられるし!」
玲央先輩は期待に満ちた目でわたしを見つめた。
――そう言われても……。
わたしはじっと玲央先輩を見返してから、首を振った。
「……すみませんが、無理です。玲央先輩には何も憑いてないので、祓えません」
「えー。じゃあ証明できないじゃん。やっぱり――」
「玲央、そこまで~」
秋城先輩が片手を上げて、玲央先輩の言葉をさえぎった。
「いまここで『やっぱり信じられないから、この話はなしで』なんて言ったら、わざわざ来てくれた立切さんにも、立切さんを紹介してくれた深冬にも失礼だよ~?」
「うっ」
痛いところを突かれたかのように、玲央先輩は上体を軽く引いた。
「ボクだって霊とか見えないけどさあ。可愛い後輩の言うことは信じなきゃダメでしょ~」
「可愛いかどうかはわかりませんが。信じてもらえないのは傷つきます」
白銀くんは怒りも悲しみも見せず、無表情で淡々と言った。
「……そっか。そうだよな。ごめん」
玲央先輩はきまり悪そうに頭を掻いた。
「おれはいいので、立切さんに謝ってください」
「ごめん、あげはちゃん」
「いえ、大丈夫です。疑われるのはよくあることなので」
むしろ、すんなり信じてくれる人のほうが珍しい。
「ありがと。じゃあ改めて、頼むよ、あげはちゃん。オレたちの護衛として、心霊スポット巡りに付き合ってくれ」
「わかりました」
四人から見つめられて、わたしは頷いた。
「ただし、条件があります。わたしが皆さんと一緒に行くことは内緒にしてほしいんです。白銀くんと相談したんですけど、わたしは正体を隠すために男装しようと思ってるんです」
「男装?」
白銀くんを除く三人は、ビックリした顔をしてる。
「はい。SEASONのファンは、ほとんど女子でしょう? 護衛役とはいえ、いきなり知らない女子が登場したら、やっぱり嫌だと思うんですよ」
春宮くんを巡って、バチバチに争っていた今朝の女子たちの様子を思い出す。
もしもわたしが素の『立切あげは』としてSEASONの動画に登場したら、間違いなく大騒ぎになっちゃう。
わたしにとってもSEASONにとっても、厄介ごとが増えるだけだ。
「わたしだってファンに叩かれるのは嫌ですし、目立ちたくないんです。だから思い切って、男子のフリをしようと思うんです」
「へ~、男子のフリか~、面白そう~。そういうことなら、ボクが力になれると思うよ~」
秋城先輩は意味深な笑みを浮かべてから、玲央先輩に目を向けた。
「ねえ、玲央。反対する理由なんてないよね~?」
「ああ。むしろ大賛成だわ。男装したあげはちゃん、見てみたいし。光成もそれで構わないよな?」
「はい」
「オッケー。男装の件は決まりだな」
それからわたしたちは三十分ほど話して、とりあえず今日は解散という流れになった。
「そうだ、あげはちゃん。ライン教えてもらってもいい? これから詳しい打ち合わせとかしたいし、連絡先交換しよう」
教室を出る前に、玲央先輩はふと思いついたような口調でそう言った。
「えっ!?」
ライン交換!?
いまをときめくSEASONのリーダーと!?
「ダメなの?」
固まっているわたしを見て、玲央先輩はキョトンとしてる。
「あっ、いえ! ダメじゃないです、全然大丈夫です!」
わたしはブンブン首を振り、スカートのポケットからスマホを取り出した。




