03:白銀くんの頼み事
「こんな寂しい場所じゃなくて、教室で食べればいいのに」
昼休み。
特別校舎の横にある非常階段でお弁当を食べていると、わたしの横で丸まったクロが言った。
「クロはボッチの気持ちがぜんぜんわかってない! あんな賑やかな場所で食べられるわけないでしょ! みんな友達と楽しそうに笑ってるのに、一人でご飯食べてたら泣きたくなっちゃうよ!」
「あげはも友達作ればいいじゃないか」
「それができれば苦労しないの!」
「……さっきから、誰と話してるの?」
クロとぎゃんぎゃん言い合ってると、誰かの声が聞こえた。
――えっ、誰か来た!?
急いでお弁当を置いて立ち上がる。
凪いだ湖面のような無表情で階段を上ってきたのは、白銀くんだ。
「え、あ、いや……家族と電話してたの! それより、どうしたの? わたしに何か用?」
「聞きたいことがあるんだ。今朝、光成に何かしなかった?」
わたしがいる踊り場の二段下で立ち止まって、白銀くんはわたしを見つめた。
「な、何かって?」
冷や汗がわたしの頬を流れていく。
「光成、最近ずっと調子悪そうだった。なのに立切さんが指を振ったあと、急に元気になったんだ。嫌な気配も消えてたし。もしかして、立切さんが何か……お祓いみたいなことをしたんじゃないかと思ったんだ」
「『みたいなこと』じゃなくて、本当に祓ったんだよ」
白銀くんが真剣な顔をしてるから、わたしは正直に答えた。
「わたし、立切神社の娘だから。小さいときからお祓いの訓練してるんだ。あんまり強いのは無理だけど、たいていの念や悪霊は祓えるよ」
「……そう。本当にお祓いができるんだ……」
白銀くんはうつむいて、なにか考え込んでいる。
「どうしたの?」
「立切さんは、おれたちが『SEASON』として動画を上げてるのは知ってる?」
「もちろん。この学校に通ってる生徒の中で、知らない人はいないと思うよ。わたしも見てる。前回はゴールデンウィークのスペシャル企画として、視聴者からのリクエストを募ってたよね。何するか決まったの?」
「うん。心霊スポット巡り」
「えぇっ!?」
すっとんきょうな声が口から出た。
「心霊スポット巡りって……ただでさえ憑かれやすい体質なのに、春宮くん、大丈夫なの!?」
「心霊スポットに本物の霊がいたらまずいな。自分から取り憑かれにいくようなものだ」
わたしの足元で、クロが呟いた。
「やっぱり光成って、憑かれやすいの?」
白銀くんは真顔で尋ねてきた。
『やっぱり』っていうことは、白銀くんも春宮くんが憑かれやすい体質だと気づいてたみたい。
白銀くんと春宮くんが幼馴染であることは、ファンの間では周知の事実だ。
これまでの長い付き合いの間に、何回かトラブルがあったのかも?
「うん! わたしが見てきた人の中で、一番憑かれてる! 悪いことは言わないから、止めたほうがいいと思うよ!?」
「……無理だ。あれだけ大々的にリクエストを募っておいて、やっぱり止めた、なんてことになったら炎上するだろうし」
白銀くんは沈黙した後で、首を振った。
「おれと違って、他の三人は乗り気だから。特に、リーダーの玲央先輩が乗り気なんだよ。玲央先輩は霊感ゼロだから、危機感が全然ないんだよな。おれがいくら止めたほうがいいって言っても、幽霊なんかいるわけないだろって感じで……全然聞いてくれないんだ」
白銀くんは憂鬱そうに、ため息をついた。
「……白銀くんには霊感があるの?」
ずっと前から気になっていたことを、わたしは聞いた。
「うん。たまに、ぼやっとした影が見えたりするし。嫌な気配がすると肌がピリピリしたり、体調が悪くなったりする。いままでも、他のメンバーが危ない場所に行きそうになったら止めてきた。でも、今回は止められそうにない」
白銀くんは階段を上って、わたしと同じ踊り場に立った。
「先輩たちは、ただの心霊スポット巡りだと思ってはしゃいでる。夏を先取りする良い企画だって……でも、おれにはわかる。最後に行く予定の『蛇目山トンネル』には『何か』がいる」
いつもクールな彼にはめずらしく、少しだけ声が震えている気がする。
「お願いだ。護衛役として、おれたちと一緒に来てほしい。光成や先輩たちは、おれの大事な友達なんだ」
そう言って、白銀くんは頭を下げた。




