02:見られちゃった!
「おはよう、春宮くん!」
「配信見たよ! 四人のダンス、超~カッコよかった!」
「またフォロワー増えたんじゃない? もうすぐ150万いきそうだよね!」
岩清水さんに負けじと、次々と女子たちが春宮くんを取り囲む。
春宮くんを巡って、互いに無言の火花を散らす女子たちを前に、わたしはただ黙り込むしかない。
スクールカーストのトップに位置する女子たちの会話に割り込んで「わたしも配信見たよ! 実はわたしもSEASONのファンなの!」なんて言う度胸はないもん。
わたしが石像化している間に、春宮くんは女子集団に連れて行かれちゃった。
ロッカーの前で女子たちと楽しそうにおしゃべりしながら、春宮くんは不意に右肩を押さえた。
「どうしたの?」
不思議に思ったらしく、クラスメイトの女子が聞いた。
「なんだか最近、肩が重いんだよね」
「えー、大丈夫? あ、もしかしてあたしたちファンの愛が肩にのしかかってるのかな?」
岩清水さんは自分の頬に人差し指を押し当てて、こてんと首を傾げた。
「ぶりっ子するな!」って陰口を叩く人もいるけど、本人は全然気にしてないっぽい。
岩清水さんはめちゃくちゃ可愛くて男子にモテるから、誰かに悪口を言われても鼻で笑ってるの。
その最強メンタル、見習いたい。
「そうかも」
春宮くんは岩清水さんに合わせて笑ってるけど、その顔はちょっと辛そう。
「あげは、助けないのか? お前は春宮のファンだろう。いつも配信を見てるじゃないか」
肩の上から、クロが聞いてきた。
「助けたいけど……いま行ったら、岩清水さんたちに睨まれちゃいそう」
「ほう。困ってる春宮よりも自分優先か。さっき春宮はお前のことを心配してたのにな」
クロの視線は氷のように冷たい。
「うっ。いや、もちろん、春宮くんが一人になったタイミングを見計らって祓うつもりだよ?」
「じゃあ、そのタイミングとやらが来るまで春宮は憑かれたままか。あいつは人気者だから、なかなか一人にならないのにな。下手をすれば放課後まであのままか。お前の『推しへの愛』は、しょせんその程度なんだな」
「~~っ。わかった、行くよ! 神社の娘として、彼の隠れファンとして、放っておけないもんね!」
わたしは思い切って立ち上がり、春宮くんの横を通って、
――悪い念、飛んでけ!
すれ違いざま、右手の人差し指と中指を立て、一直線に空を切った。
パチンッ! と、わたしにしか聞こえない音がして、春宮くんに取り憑いていた気持ち悪い目玉の大群が、きれいさっぱり消え去った。
「……あれ? 急に肩が軽くなった気がする」
「え、ほんと? 良かったねえ」
――よし、成功!
春宮くんたちの会話を聞きながら、わたしはこっそりガッツポーズ。
それから自分の席に戻ろうとして……その途中で、気づいた。
SEASONのメンバーの一人――白銀深冬くんが、こっちを見てることに。
窓から差し込む太陽の光を浴びて輝く、サラサラの髪。
長い睫毛に守られた、大きな目。
人形みたいに綺麗な顔をした彼は、何故かじーっと、わたしを見てる!!
「ねえクロ、もしかして見られてたのかな!?」
わたしは大急ぎで自分の席に戻り、クロと小声で会話した。
白銀くんって、ちょっと怖いんだよね!
たまに、クロが乗ってるわたしの左肩を見てるときがあるし!
ハッキリ見えてるわけじゃなさそうだけど、そこに何かが『いる』ことは感じてるっぽいんだよ。
多分、普通の人より霊感が強いんだろうな。
「いや、たとえ見ていたとしても、あげはが何をしたかなんてわからないだろう。ただ虚空に向かって指先を振っただけにしか見えないはずだ」
「でもそれって、ただの怪しい人だよね!? 『何してんだあいつ』って思われたってことだよね!?」
「多分な」
「だから人前では祓いたくなかったのにー!」
わたしは頭を抱えて机に突っ伏した。
「……すまん」
反省したように、クロは三角の耳を垂らしてそう言った。




