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ゴースト・ガード!~超人気配信グループを男装女子がお守りします~  作者: 天咲リンネ


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01:目には目を、悪霊には拳を

「はあ……ゴールデンウィーク、終わっちゃった。わたし、神社から一歩も出てない。ただ家でゴロゴロしてただけ……」


 ゴールデンウィーク明けの水曜日。

 わたし――立切たちきりあげはは肩を落として、朝の通学路をトボトボ歩いていた。


「ねえ、クロ。わたし、決めたよ。今日は、今日こそは、誰かに挨拶する! ラインしたり、休日に一緒に遊べるような、友達第一号を作ってみせるんだから!」

 顔を上げて、ぐっと拳を握ったとき。


「きゃっ!」

 水色のランドセルを背負った小さな女の子が、電信柱の前で急に転んだ。


 ――大丈夫かな?

 反射的にそっちを見たとき、電信柱の陰に黒い何かが引っ込むのが見えた。


「!」

 思わず立ち止まって、目を凝らす。

 電信柱の陰でうようよと不気味に蠢いているのは、墨をぶちまけたように真っ黒な『手』。


「クロ、あれって……」

「悪霊になりかけた『念』だな」

 わたしの左肩にいる黒い狐――クロが淡々と言った。

 クロの額には赤い紋様が浮かんでいて、体長は子猫くらい。


「いったーい!」

 転んだ女の子の膝には、血がにじんでいる。


「大丈夫? 絆創膏、あるよ!」

 ラベンダー色のランドセルを背負った女の子が駆け寄ってきて、転んだ女の子の手当てを始めた。


「あげは。当然、祓うんだろう?」

 冷静に見えて実は相当怒っているらしく、クロは金色の目でわたしを見つめた。

 クロはただの狐じゃない。

 わたしのお父さんが宮司を務めてる立切たちきり神社の神使しんしなんだ。


 霊体のクロが見えるのはわたしの親族だけ。

 女子中学生の肩の上に黒い狐がいたら、普通は驚くよね?

 でも、道行く人が誰も無反応なのは、そういう理由なの。


「もちろん。子どもに怪我をさせるヤツは許せないもん」

 ランドセルを背負った女の子たちが去るのを見届けてから、わたしは電信柱に歩み寄った。

 お腹の底から霊力を練り、右拳へ集中させる。

『目には目を、悪霊には拳を』がうちの神社のモットーだ。


「ふんっ!」

 怒りを込め、右拳を電信柱の陰に向かって思いっきり叩きつける!

 黒い手のような『念』はバサッ! と、大量の灰をぶちまけたような音を立てて弾け飛び、消滅した。


「お見事」

「この程度のザコなら余裕だよ。さ、行こう」

 わたしはカバンを持ち直し、再び歩き出した。




 わたしの実家は「立切神社」っていう、縁切りとしてそれなりに有名な神社。

 そのせいで、「あの子と仲良くすると、友達とケンカするらしいよ」「良い縁まで切っちゃうんだって」なんてウワサを信じてる子が結構いる。


 おかげでわたしは、今日も順調にボッチ。


「おい、あげは。今日こそ誰かに挨拶して、友達作るんじゃなかったのか? なんで教室に着くなりスマホをいじってるんだ。朝の決意表明はどこに行った」

 自分の席でスマホをいじっていると、机の上にいるクロが呆れたように言った。


「うう……だって、しょうがないじゃない。みんな誰かとお喋りしてるし。空気読まないと、友達になるどころかハブられちゃうよ」

 楽しそうにお喋りしている近くの女子グループを見ながら、わたしは小声で言った。


「もうすでにハブられてるようなものじゃないか」

「は、ハブられてなんかないもん! ただ、友達がいないだけだもん!」

 ムキになって、言い返していると。


「おはよう、立切さん」

 澄んだ声が聞こえて、わたしは慌てて顔を上げた。

 教室の隅っこにいるわたしに挨拶してくれたのは、春宮光成はるみやこうせいくん。


 眩しいほどのキラキラオーラ。

 春の陽だまりをそのまま形にしたような笑顔。

 彼は四人組の超人気配信グループ『SEASON』のメンバーで、学校中の王子様だ。

 それなのに、彼はボッチのわたしにも、笑顔で挨拶してくれるの。

 だからわたしは、こっそり彼を推してるんだ。


 SEASONの配信だって、毎回ばっちり見てるよ!

 だから、彼が挨拶してくれたのは、すごく嬉しいことなんだけど……。


「お、おはよう、春宮くん……」

 つい、笑顔が引きつってしまう。

 何故って、わたしの目には、彼のキラキラした笑顔とは正反対のものがハッキリ見えてしまっているから。


 ――また憑かれてる。


 春宮くんの肩や背中には、腐ったヘドロの中に目玉の大群を浮かべたような、ドロドロとした黒い塊がベッタリとついていた。

 それは、人気者の彼をねたむ人たちの負の感情や、ファンの過剰な執着や独占欲がまざりあった『念』だ。


 春宮くんは優しいからか、念や悪霊に憑かれやすい霊媒体質みたいなんだよね。

 ゴールデンウィークの前にもコッソリ祓ってあげたんだけど、また憑かれちゃってるよ……。


「どうしたの? 元気ないね。体調悪い?」

 春宮くんは心配そうに首を傾げた。

 動きに合わせて、さらりと、彼の薄い茶髪が揺れる。


「う、ううん、元気だよ」

 ――むしろ、体調が悪いのは大量の『念』に憑かれている春宮くんのほうでは?

 心の中でそう呟いた、そのとき。


「春宮くーん! おっはよー!」

 クラスメイトの岩清水いわしみずさんが、元気に駆け寄ってきた。

 長い髪をツインテールにした岩清水さんは春宮くんの大ファンだ。

 春宮くんがSEASONとして活動し始めた頃から、ずっと彼を推しているらしい。

読んでいただき、誠にありがとうございます。

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