24:初ライブは大波乱!
日曜日の午後二時。
ショッピングモールの吹き抜けは、一階から三階まで、人でびっしりと埋め尽くされていた。
この日のために、SEASONのみんなは完璧に仕上げてきた。
ライブ開始と同時に放たれたその圧倒的なオーラに、会場全体が熱狂に包まれている。
四曲目が終わると、玲央先輩がマイクを握った。
「みんな、今日は集まってくれてありがとう!」
芯のある魅力的な声が、ショッピングモール全体に響き渡る。
ステージ上の玲央先輩は、ゲームに出てくる騎士のような恰好をしていた。
「次はいよいよラストだけど、最後まで盛り上がる準備はいいか~!?」
キャー!! と、観客席のみんなが大声を上げ、派手なうちわやライトを振る。
「じゃあ、ここで、みんなにスペシャルゲストを紹介します! オレたちの配信を見てる人なら知ってるかも? そうそう、心霊スポット巡り企画に同行してもらったあいつだよ、あいつ!」
玲央先輩がステージ袖のわたしをチラリと見て、笑う。
誰かわかった人がたくさんいるらしく、「え、嘘!?」「ほんとに!?」と観客席からは大きなどよめきが上がった。
「知ってる人はオレたちと一緒に名前を呼んで! じゃあ行くぜ、せーの!!」
「「「「キリヤ―!!!」」」
SEASONと大勢の観客たちが、一斉にキリヤの名前を呼ぶ。
わあぁぁぁぁ! と、地鳴りのような歓声と拍手が上がる。
「…………!!」
こんなに大勢の人がわたしを待っていると思うと、不安と緊張で身体が震えた。
怖い。上手く踊れなかったらどうしよう。
でも、みんなが待ってるんだ!!
この三週間、あんなに必死で頑張ったんだから、きっとできる!!
わたしは深呼吸してから胸元のマイクのスイッチを入れ、とびきりの笑顔を作ってステージに飛び出した。
「こんにちは~!! キリヤで~す!!」
両手を振りながらステージに出た瞬間、歓声が爆発した。
「きゃーーー!!」
「キリヤーー!!」
観客席の中のファンたちが、感激した様子でわたしに手を振ってる。
ひえええええ!!
本当にキリヤって、人気なんだ!!
わたしは内心冷や汗を流しながら、玲央先輩や他のみんなと笑顔でトークを続けた。
――あっ。
観客席の最前列にルネちゃんがいた。
わたしと目が合うと、ルネちゃんは『玲央様最高!』と書いてあるうちわを、くるっとひっくり返した。
派手なうちわには蛍光ピンクで『キリヤ頑張れ!』と書いてあって、わたしは思わず笑ってしまった。
――うん、わたし、やるよ、ルネちゃん!
全力で頑張るから、ちゃんと見ててね!!
「じゃあラスト一曲! 行くぜ、『君はスターライト』!!」
玲央先輩が右手を上げた瞬間、観客たちはピタッと口を閉じた。
聞き慣れたイントロが流れ始める。
軽く足を開いて顔を伏せ、踊り始めるタイミングを待っていたそのとき、嫌な気配がした。
「!!」
まだ顔を上げるタイミングじゃなかったけど、わたしは反射的に顔を上げた。
吹き抜けになっている二階から、ねっとりとした眼差しでこっちを見ている女性客たちは、SEASONのファンなのだろう。
でも、ただのファンじゃない。
「自分のものにしたい」とか、「わたしだけを見てほしい」とか……そういう、厄介な感情を持ったファンだ。
スマホやパソコンの画面越しじゃない、本物のSEASONを見て、興奮してしまったのか。
彼女たちから生まれた強い感情が、黒い淀みとなって噴き上がった。
黒い霧のような淀みは会場にいる、何百人ものファンたちの感情と共鳴し――巨大な黒い『念』となって襲い掛かってくる!!
――うわあっ、最悪っ!! どうしよう!?
ゲストとして出演している以上、ステージを放り出すわけにはいかない。
となれば――難しいけど、踊りながら、なんとか祓うしかないっ!!
『♪君がくれた「おはよう」で 一日が光り出す』
司先輩が一歩前に出て、澄んだ綺麗な声でソロパートを歌い始める。
観客たちはウットリした顔でスマホを向けたり、うちわを振ったりしてる。
――このライブを、念なんかに邪魔させるわけにはいかない!
『♪なんでだろう 胸の奥が あたたかいよ』
次に歌い始めた春宮くんの声に合わせて、わたしは右腕を鋭く突き出した。
――ガツンッ!
普通の人には見えていない黒い塊を、リズムに乗せてぶん殴る。
『♪目が合えば つい照れ笑いしてしまうけど』
歌っている白銀くんの横に移動して、交互にキックを繰り出す。
白銀くんの足を掴もうとする執着の念を、空中で鮮やかに蹴り砕いた。
続いて、右、左!
念が、念がまとわりついてくるせいで、身体が重いぃ!!
それでも必死で身体を動かした。
右足で念を蹴り、左肘で突いてターンを決める。
『♪今日はもう うつむいたりしないから』
玲央先輩の歌声に合わせ、必死で念を祓っているわたしを、白銀くんがどこか不安そうな目で見た。
人一倍霊感が強い彼は、嫌な気配を感じ取ってるみたい。
――大丈夫! わたしが絶対なんとかする!!
わたしは片目をつむって、白銀くんにそのメッセージを伝えた。
『♪君はスターライト ぼくを照らす光』
曲がサビに入り、わたしたちは踊りながら華麗にフォーメーションを変える。
『♪世界で一番 眩しい笑顔を見せて』
1番のサビが終わって会場の熱狂が頂点に達したとき、巨大な悪意の渦がステージを飲み込もうと膨れ上がった。
――これは、踊りながら祓うのは無理だ……!!
全身全霊を込めた拳の一撃じゃないと、どうにもならないレベルの念だ。
――でも、ダンスを止めるわけにはいかない……!!
絶体絶命のピンチに困り果てたそのとき。
観客席の真ん中あたりから、巨大な黒い狐が突然ヌッと現れた。
――えっ、クロ!?
わたしには内緒で、こっそりついてきてたんだ!?
予想外の登場に驚いたけど、わたしは歓喜した。
クロが来てくれたなら、もう安心だ!
いつもは霊力の節約のためにミニサイズになってるけど、本当のクロはとても大きくて、強いもの!!
「……フン、世話が焼ける」
クロの身体の周りに、ぼうっと、白い炎が灯った。
白い炎はステージに迫っていた念の塊を包み込んで噴き上がり、瞬く間に浄化した。
念のせいで黒く霞んでいた視界が、一気にクリアになる。
重かった身体が、羽が生えたように軽くなった。
――ありがとう、クロ!!
これでやっと、わたしもダンスに集中することができた。
SEASONのみんなと呼吸を合わせて身体を動かし、飛び、跳ねる。
『♪この手をつないで 歩いていこう』
わたしは最後の一音に合わせて両手を広げ、SEASONのみんなと一緒に会心の決めポーズをとった。
『♪いま、最高の瞬間を 君と刻もう』
一瞬の静寂の後。
ショッピングモール全体が揺れるほどの、今日一番の拍手が降り注いだ。
観客席ではルネちゃんが目を潤ませて、うちわを激しく振っている。
息を弾ませながら隣を見ると、白銀くんが「お疲れ様」というように、優しい目で微笑んでくれた。




