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ゴースト・ガード!~超人気配信グループを男装女子がお守りします~  作者: 天咲リンネ


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23/26

23:スパルタレッスン

 二週間後の放課後。


「ちょっと、あげは! 動きが雑になってるわよ!」

 今日もダンススタジオに、岩清水さんの鋭い怒声が響き渡っていた。

 ダンススタジオにいるのはSEASONの四人とわたし。

 そして、パイプ椅子に座って、メガホンを握っている岩清水さん。

 あれから岩清水さんはSEASONのマネージャーみたいなことをやってて、わたしのダンス練習にも付き合ってくれてるんだ。


「はいっ! すみません!」

「謝るひまがあったら動く! 玲央様はね、そのステップのときに少しだけ顎を引いて、最高にクールな表情をするの。あんたがその隣でポカーンとしてたら、玲央様の美しいダンスが台無しでしょ!」

「岩清水さん、厳しいな〜。でも言ってることは的確だよ。あげはちゃん、今のところもう一回やってみようか」

 司先輩がスマホを操作して、流れ続けている音楽を戻した。


「立切さん。岩清水さんが言ってるのは、重心の移動のことだ」

 白銀くんがわたしの隣に来て、手本を見せてくれた。


「おれの手を見て。タン・タタン・タン、でこうなって、ここから一気に引く」

「うんうん、白銀くんは完璧。問題は、その横にいるロボットみたいな動きの女子よ!」

「うう……すみません……」

 わたし、運動神経は良いほうだと思ってたんだけどなあ……。

 ションボリ肩を落としていると、春宮くんが近づいてきた。


「あんまり気にしなくていいからね。立切さんはよく頑張ってくれてるもの。フリは三日もかからずに覚えてくれたし、ダンスも日々上達してる。ちゃんと努力は伝わってるよ」

「光成、甘やかすのは止めろ。みんなが見るのは努力の『過程』じゃなく『結果』なんだ。ゲスト出演とはいえ、オレらと一緒にステージに立つ以上、妥協は許さないから。もう一回。サビの頭から行くぞ」

「……はい」

 いつもと違って、ニコリともしない玲央先輩を見て、春宮くんはおとなしく自分のポジションに戻った。

 再び曲が流れ始める。

 壁一面の大きな鏡には、汗だくで髪を振り乱すわたしと、真剣な顔でステップを踏むSEASONが映っている。


「あげはちゃん。さっきのフリ、ワンテンポ遅れたよな? 自分でも気づいてる?」

 玲央先輩は、ダンス練習になると本当に『鬼』だ。

 指先の角度一つ、ミリ単位のズレも許さない。

 だからこそ、SEASONのダンスをみんなが絶賛するわけなんだけど……さすがに、三十分ずっと踊りっぱなしは、キツイ。


「はい、すみません。もう一回お願いします……!」

 わたしはガクガクする膝を押さえつつ、額の汗をリストバンドで拭った。


「ちょっと待って、玲央、スパルタすぎ。一回休憩して、水分取ろう?」

 司先輩が取りなしてくれて、いったん休憩ということになった。

 わたしは壁際に移動して座り込み、タオルで汗を拭った。

 岩清水さんにスポーツドリンクを渡された玲央先輩は少し離れた場所で、白銀くんと話している。


「ごめんね~、あげはちゃん。玲央がスパルタで~」

 飲みかけのスポーツドリンク片手に、わたしの隣で司先輩が苦笑した。


「いえ、大丈夫です。それだけライブを成功させたい、真剣だってことですから」

「そうよ、あげは。ライブまであと四日しかないんだから、玲央様のチェックが厳しくなるのも当たり前でしょ」

 全員にスポーツドリンクを配り終えた岩清水さんが歩いてきて、わたしを見下ろしながら腰に手を当てた。


「あんた、キリヤなんでしょ? 悪霊をぶっ飛ばして、視聴者のみんなを痺れさせた、あの格好良いキリヤなんでしょ? だったら、ダンスでもみんなを痺れさせてみせなさいよ。言っとくけど、いまのままじゃ『まあそこそこ、それなり』っていう、無難な評価で終わるわよ? 90点で終わっていいの?」

「良くない。どうせ踊るなら、100点――ううん、120点がいい!」

 わたしは弾かれたように立ち上がり、岩清水さんの目をまっすぐに見つめ返した。


「だったらもっと頑張りなさい! 120点だって思えるまでは、容赦なくダメ出ししてやるからね!」

「うん、お願い、ルネちゃん!」

「へあっ?」

 岩清水さん――もとい、ルネちゃんは顔を真っ赤にして、挙動不審になった。


「な、なんでいきなり名前で呼ぶのよっ!? あたし、下の名前で呼んでいいなんて一回も言ってないんだけど!?」

「だって、ルネちゃんはわたしのこと『あげは』って呼んでるじゃない。そろそろわたしも呼んでいいかなって。わたしたち、もう友達でしょ?」

「ともだ……!?」

「え、違った?」

 首を傾げると、ルネちゃんはうつむいて、何やらモゴモゴ言って。

 それから、顔を赤くしたまま、春宮くんと司先輩をキッとにらみつけた。


「なんで笑ってるんですかっ!?」

「いやあ~。微笑ましいな~って」

「うん。岩清水さんって、正直ちょっと苦手だったんだけど。いまの岩清水さんは素敵だと思うよ。屋上で立切さんの悪口言ったのも、昨日ちゃんと謝ったんだってね?」

 春宮くんが笑うと、ルネちゃんは目を丸くした。


「な、なんで知って……!?」

「立切さんに聞いたから」

「なんで言うのよ!?」

「ごめんなさいっ」

 だって、嬉しくて、みんなに報告せずにはいられなかったんだもん!


「ちなみに、ボクも聞いたよ~。謝れてえらいね、ルネちゃん。玲央も見直したって言ってた」

「~~っ。あたし、トイレ行ってくるわ! あげは、さっき間違えたとこ、復習しときなさいね!」

 ルネちゃんは顔を赤くしたまま逃げていく。

 わたしは司先輩たちと顔を見合わせて、三人でくすくす笑った。


 ――ねえ、ルネちゃん。

 わたし、知ってるんだ。

 昨日の夜、ルネちゃんがコッソリ立切神社に来て「この前のお願い、やっぱり取り消してください! あたしが間違ってました!」って必死にお願いしてたこと。

 その様子を目撃してたクロが教えてくれたんだよ。

 最初はわたしのこと、嫌いだったかもしれないけど。

 この二週間、一緒に過ごすうちに、少しは認めてくれたんだって思ってもいいよね?


「そろそろ休憩終わりでいいか?」

 司先輩たちに間違った個所をチェックしてもらったところで、玲央先輩と白銀くんが歩いてきた。


「はい。大丈夫です。引き続き、よろしくお願いします!」

 まっすぐに背を伸ばしてそう言うと、玲央先輩は目を瞬いた。


「……意外だな。そろそろ『もう無理』って音を上げるかと思ったけど、あげはちゃんの目、まだキラキラじゃん。やる気満々って感じ」

「もちろんですよ。SEASONのステージにお邪魔させてもらうんですから、中途半端なダンスはできません」

「よく言った。それでこそあげはちゃん」

 玲央先輩は心底楽しそうに、嬉しそうに笑った。


「じゃ、最後までついてきてよ?」

「はい!」

 わたしは力強く床を蹴り、自分のポジションへと走り出した。

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