22:ツンデレ少女
次の日の放課後。
わたしは春宮くんと白銀くんと一緒に、駅前にあるレンタルスタジオに向かった。
「ここ知ってるわ。有名な配信者がよく使うスタジオでしょ? 動画に出てたの、見たことある」
わたしの隣で、岩清水さんが言った。
「うん。結構有名なスタジオだけど……なんで岩清水さんがついてきてるの?」
「玲央様に許可もらってるも~ん」
白銀くんの冷たい眼差しも、マイペースな岩清水さんにはどこ吹く風だ。
「玲央先輩、なんで許可出したんだ……」
「まあまあ。賑やかでいいじゃない」
春宮くんが苦笑しながらフォローを入れた。
スタジオの廊下で春宮くんたちと別れ、わたしと岩清水さんは女子更衣室で着替えた。
「ダッサ! あんた、それ、学校のジャージじゃない!」
わたしを見て叫んだ岩清水さんは、オシャレなストリート系ブランドの服を着こなしている。
ピンクで英語のロゴが入った、派手なやつ。
しかも、ツインテールのリボンまで、服の色に合わせてピンクに変えるという徹底ぶり。
「ダメかな? 動きやすいと思ったんだけど……」
「もー、あんた、相手が誰だかわかってるの!? チャンネル登録者数150万人越えのSEASONよSEASON! 超人気配信者と一緒に練習するんだから、ちょっとはオシャレにも気を遣いなさいよ! 仕方ないわね、これ、あたしの予備だけど貸してあげる! あたしとほとんど身長同じだし、着れるでしょ!」
大きなカバンから黄色の服を引っ張り出して、岩清水さんはわたしの手に押しつけた。
「いいの? 練習したら汗で汚れるよ?」
「あんたまさか、洗濯もせずに返すつもりなの?」
岩清水さんは「信じられない」という顔をしている。
「いや、もちろん、ちゃんと洗濯して返すつもりだけどさ! でも、大事な服にわたしの汗が染み込んだりしたら嫌なんじゃないの? 岩清水さんって、わたしのこと嫌いなんでしょ? なんでここまでしてくれるの?」
「SEASONのために決まってるでしょ。仮にも一緒にステージに立つ女が、ダサい名前入りジャージで練習するなんて許せるものですか。SEASONの格まで落ちるっての!」
岩清水さんの言葉は、わたしの心臓に突き刺さった。
「たしかにそうかも……わたしのせいでSEASONまで安く見られるのは嫌だし……。ごめん、岩清水さん。わたしが間違ってた。この服、借りるね」
わたしはジャージを脱いで、黄色い服に袖を通した。
服からは、自分の家とは違う洗剤の香りがする。
「ねえ、岩清水さん。もしよかったら、この後、ショッピングに付き合ってくれない?」
「はあ? なんであたしが――」
「だって、岩清水さん、センスいいから」
「!」
「岩清水さんって可愛いし、オシャレだし。アドバイスほしいんだ。お願い」
「……し、仕方ないわねえ。そういうことなら、まあ……付き合ってあげるわよ」
岩清水さんは顔を赤らめて、コホンと咳払いした。
「ちょっと、向こう向いて。そのままじゃ、踊るときに髪が邪魔でしょ? ポニーテールにしてあげる」
「ありがとう。岩清水さんって気が利くし、優しいんだね」
「な、ななな、何よおっ。褒めたって何も出ないわよ!? 飴食べる!?」
岩清水さんはカバンからイチゴの飴を取り出し、ずいっと差し出してきた。
その顔は、ものの見事に真っ赤だ。
――岩清水さんって、意外と可愛いかも。
「ありがとう」
わたしは笑って、差し出された飴を受け取った。
「お待たせしました!」
『Aスタジオ』と書かれたドアを開けて中に入ると、壁一面の巨大な鏡に、眩しいライトがわたしたちを出迎えた。
岩清水さんから借りたのは、鮮やかなイエローのオーバーサイズTシャツに、黒のラインが入ったショートパンツ。
セミロングの髪もポニーテールにして、自分でも驚くくらい「ダンサーっぽい」格好だ。
鏡の前でおしゃべりしていた白銀くんと春宮くんが、同時にこちらを振り返る。
二人とも、オシャレなブランド服を着てる。
これは、一人だけジャージだったら、完全に浮いてたな。
岩清水さんには感謝しなきゃ。
「わあ、立切さん、可愛い!」
春宮くんがパッと顔を輝かせて近寄ってきた。
「明るい黄色、立切さんの雰囲気にすごく合ってるよ。深冬もそう思うでしょ?」
「うん。いいと思う」
白銀くんはうなずいた。
「それ、実はあたしの服なんだけどね。ダッサいジャージを着ようとしてたから、予備の服を貸してあげたのよ」
「そうなんだ? 岩清水さん、優しいんだね」
「おれも、ちょっとだけ見直した」
「な、なな、なによお。二人までそんな……飴食べる!?」
岩清水さんは顔を赤くしながら、ポケットからさっと飴を取り出した。
「え、飴? ありがとう」
「いや、おれ、イチゴ味は苦手――」
断ろうとした白銀くんのわき腹を、春宮くんがすかさず肘で突いた。
「……ありがとう」
素直に飴を受け取った白銀くんを見て、つい笑いそうになっていると、春宮くんが言った。
「じゃあ先輩たちが来るまでストレッチと、アイソレーションやろうか」
「アイソレーション?」
「ダンスの基礎練習のことだよ。首だけ、肩だけ、胸だけ、みたいに、体の一部だけを動かすんだ。こんな感じで」
春宮くんは身体を止めた状態で、首をカクッとスライドさせてみせた。
「おお、すごい! わたし、初心者だから迷惑かけるかもしれないけど、色々教えてね!」
「うん、もちろん。でも……」
春宮くんの表情が急に曇った。
「でも?」
「……ダンスのことになると、玲央先輩は『鬼』になるから。ぼくたちと一緒のステージに立ちたいなら、本気で頑張ってね」
「本当に、一切妥協してくれないからな……おれも最初は泣きそうになった」
「白銀くんが泣きそうになるレベル……!?」
さすがに怖くなった――けど。
「何よ。やめるの? あんたの覚悟ってしょせんその程度なわけ? だとしたらガッカリなんだけど」
岩清水さんの失望したような顔が、わたしのやる気に火をつけた。
「ううん、やる! どんなに厳しくても食らいついて、絶対みんなとステージに立ってみせる!!」




