21:まさかの展開
「何よそれ! ずるい! あんたなんかがSEASONの隣に立っていいわけないんだから!!」
岩清水さんの剣幕に、何も言えずにいると。
「ずるいって、何が?」
白銀くんが冷静に言って立ち上がり、岩清水さんに近づいた。
「心霊スポット巡りのとき、『一緒に来てほしい』って立切さんに頼んだのはおれなんだけど。おれに文句を言いたいの?」
「えっ、白銀くんが? そ、それじゃあ……文句は言えないけど。でも、一緒にステージに立つのはやりすぎでしょ!」
「何がやりすぎなのかな~?」
わたしの隣にいた司先輩が、のんびりとした口調で言いながら立ち上がる。
「あげはちゃんがステージに立つのは、ボクたちがそれを望んだから。本人もやりたいって言ってくれたし、何の問題もないと思うんだけどな~?」
「そんなの納得できませんよ!!」
「納得できても、できなくても」
春宮くんが立ち上がって、困ったように笑った。
「岩清水さんの感情は、ぼくたちには関係ないことだよね?」
「……っ!」
「だってさ。ぼくたちのライブに誰を呼ぶか。誰と仲良くするか。誰とステージに立つか。全部、ぼくたちが決めることだよ?」
何も言い返せなくて、岩清水さんは唇を噛んでいる。
「それに、『あんたなんか』って言い方、好きじゃないな。ぼくは立切さんのこと、尊敬してるんだけど。岩清水さんは立切さんと同じことができるの? もしまた蛇目山トンネルに行くってなったら、ぼくたちの盾になって戦ってくれる?」
「え……む、無理……」
岩清水さんは青ざめて後ずさった。
「普通はそうだよね。立切さんは?」
「行くよ。わたしはみんなのゴースト・ガードだもん。どこにだって行くし、何度だって守ってみせる」
決意を込めてうなずくと、春宮くんは微笑んだ。
「これでわかったでしょ、岩清水さん。ぼくは岩清水さんより、立切さんのほうがずっと好き」
「……!!」
岩清水さんは目を剥いて硬直した。
――す、好きって……。
わたしは驚きのあまり、何も言えない。
「……あたしのほうがずっと好きなのに……SEASONとして活動し始めたときから、ずっと春宮くんのこと推してたのに……」
みるみるうちに、岩清水さんの目に涙が溜まっていく。
「光成。それって、『女の子として』じゃなくて、『人として』好きなんだよな?」
見かねたらしく、玲央先輩が苦笑しながら言った。
「はい」
キョトンとして、春宮くんがうなずく。
「うん。天然って怖いわ」
玲央先輩は立ち上がり、岩清水さんに近づいた。
「岩清水さんだっけ? キミがSEASONのファンだってことはわかったよ、ありがとう。でも、オレらのファンだっていうなら、オレらが大事にしてる子のことは大事にしてよ。あげはちゃんのことを見下すような言い方は二度としないで。それと、キリヤの正体があげはちゃんだってことは誰にも言わないで。もし誰かに言ったり、SNSで広めたりしたら、オレはリーダーとしてそれなりの対処をさせてもらうから」
「……はい」
岩清水さんは暗い顔でうつむいている。
大好きな春宮くんに「岩清水さんよりもわたしのほうが好き」って言われたことが、よっぽどショックだったみたい。
「なあみんな。悪いけど、岩清水さんと二人だけにしてくれる?」
玲央先輩はいつもの軽い笑顔じゃなく、真剣な顔で言った。
「……わかりました」
わたしは空になったお弁当箱を持ち、他のみんなと一緒に屋上を出た。
「……大丈夫ですかね。なんか……わたしのせいでこんなことになって、申し訳ないです」
「気にしなくていいよ」
落ち込んでいるわたしを見て、白銀くんが慰めてくれた。
「そうそう。別に、悪いことをしたわけじゃないんだからさ」
春宮くんもそう言ってくれたけど、司先輩は苦笑した。
「う~ん。ボクも、あげはちゃんに反省点はないと思うけどさ~。光成は反省したほうがいいかもね~。自分のファンだって言ってくれてる子に、『あげはちゃんのほうが好き』なんて言ったら、傷つくに決まってるでしょ~。アイドルとして、言葉はオブラートに包もうね~」
「……すみません。立切さんのことを悪く言われて、ついむきになってしまいました」
春宮くんは反省した様子でうつむいた。
「まあ、光成の気持ちもわかるけどね~」
司先輩は春宮くんの肩をポンと叩き、わたしを見た。
「岩清水さんのことは、玲央に任せとけば大丈夫だと思うよ~。玲央はこれまで、何人ものアンチをファンに変えてきたからね~」
「……でも……」
「そんな顔しないで~。あげはちゃんが悲しい顔をしてると、ボクまで悲しくなるからさ~。ほら、気にしない、気にしない~」
魔法の杖でも振るように、司先輩は人差し指を振ってみせた。
「……はい」
心がふっと軽くなったような気がして、わたしは小さく笑った。
昼休み終了直前に、岩清水さんは教室に戻ってきた。
何か決意したような顔で、ずんずん歩いてくる!
「立切さん。ちょっと来て」
「……はい」
一体、何を言われるんだろう。
わたしはごくりと唾を飲んで、岩清水さんの後についていった。
岩清水さんは廊下の端っこまでわたしを連れて行き、くるっと半回転して、わたしに向き直った。
そして、深く頭を下げた。
「さっきは、失礼なことを言っちゃってごめんなさい!」
「……え?」
頭を下げる岩清水さんの姿が衝撃的すぎて、ポカンとしてしまう。
「いくら羨ましいからって、最低だったわ。もう二度と言わない。それに、立切さんがキリヤだってことは誰にも言わないって約束する。だから、あたしのこと許してくれる……?」
上目遣いにわたしを見つめる岩清水さんの瞳はウルウルと潤んでいる。
「う、うん。いいよ」
「よし、言質は取った」
わたしがうなずくと、岩清水さんは一瞬で涙をひっこめた。
「これで仲直り完了ね。後で玲央様に報告しなくちゃ」
「玲央『様』?」
「ああ。あたし、推し変したのよ。これからは玲央様を推すことにしたわ。『ルネちゃんの情熱は、オレを支えるために使ってよ』なんて言われたら、もう従うしかないじゃない!」
岩清水さんは赤く染まった頬を押さえ、悶えるように首を振った。
――春宮くんの熱烈なファンだった岩清水さんを自分のファンにしちゃうなんて……玲央先輩、すごいな。
岩清水さんの変貌ぶりに呆然としていると、岩清水さんはハッとしたように手を下ろし、咳払いした。
「こほんっ。でも、誰を推してもあたしがSEASONのファンだってことは変わらないから。あんたが『SEASONにふさわしいキリヤ』になれるか、監視してあげるわ! 少なくとも、あたしの玲央様が恥をかくようなダンス、絶対に許さないんだから!!」
「え……えええ!?」




