18:岩清水さんの願い事
中学に上がってから、わたしは早起きして神社の掃除を手伝うようになった。
月曜日の午前七時。
クロとおしゃべりしながら境内で竹箒を動かしていると、砂利を踏む音が聞こえた。
――あれ、珍しいな。こんな早い時間に参拝客?
わたしは反射的にそっちを向いて、息をのんだ。
ツインテールに結んだ赤いリボン、フリフリのミニスカート、花の飾りがついた靴。
――あの派手な女子は、絶対、岩清水さんだ!
わたしは竹箒を抱えて、急いで社務所の陰に隠れた。
「なんで隠れるんだ?」
「いや、なんとなく、気まずくて……岩清水さんとは話したこともないし……」
自分の意思をちゃんと持ってて、バツグンに可愛い岩清水さんは、わたしには眩しすぎて……正直、ちょっと苦手なんだよね。
岩清水さんは手水舎で口と手を清めた後、拝殿の前に立った。
「神様、聞いて。あたしのお願い、絶対叶えて」
岩清水さんは見たこともないほど真剣な顔でお賽銭箱に百円玉を入れ、二回お辞儀をしてから、パンパンと手を打って叫んだ。
「立切あげはと、SEASONの縁を、いますぐ切ってください!」
ええええ!?
岩清水さん、なんてこと願うの!?
それに、願い事は声に出さず心の中で唱えるのがマナーだよ!?
「あいつったら、いつの間にかSEASONのみんなと仲良くなって、毎日毎日、屋上で楽しそうにして! しかも春宮くんとラインしてるって、どういうことなの!? あたしはライン交換、断られたのに!」
岩清水さんは鬼のような形相で、一気にまくし立てた。
「絶対許さないわ! だから神様、立切あげはとSEASONの縁を切って、その縁をあたしにちょーだい!!」
「いや、立切神社は縁結びは請け負ってないぞ。仮に請け負っていたとしても、他人の縁を横から強奪するような真似、あるじさまが許すわけないんだが……」
クロは完全に呆れてるみたい。
「あいつが仲良くなれるんなら、あたしだってみんなと仲良くなれるだろうし! 絶対、あたしのほうが春宮くんに相応しいもの!」
え、春宮くんに相応しいって、どういうこと?
わたしと春宮くんはただの友達なんだけど……なにか誤解されてない?
「っていうわけで神様、お願いね!」
散々叫んでスッキリしたのか、岩清水さんは最後にペコリと深くお辞儀をして去っていった。
「……ねえ、クロ。岩清水さんのお願い、叶えたりしないよね?」
社務所の陰から出て、わたしは恐る恐る尋ねた。
「当たり前だろう。あるじさまが切るのは悪縁であって、良縁ではない」
「良かった」
……それにしても、まさか岩清水さんがこんなお願いをするなんて、思わなかったな。




