16:過去のトラウマ
家に帰る前に、わたしたちはみんなでコンビニに行った。
今日で心霊スポット巡り終了ということで、和臣さんが高級アイスを買ってくれたんだ。
和臣さんは抹茶、春宮くんはバニラ、玲央先輩とわたしはチョコ、司先輩はイチゴ、白銀くんはチョコクッキー。みんなそれぞれ好みが違って面白い。
「うわ。見たことがない数のDMが来てる」
駐車場に停めた車の中で、玲央先輩がつぶやいた。
わたしの前の座席に座っている玲央先輩は、アイスを食べながらSNSをチェックしているみたい。
「おれもです」
「ぼくも」
「ボクにも来てるよ~。いきなり配信が切れちゃったから、視聴者もパニックになったみたいだね~。SEASONがトレンド入りしてるよ~。こんな形でのトレンド入りは嫌だなぁ~」
玲央先輩の隣で、司先輩は苦笑いしてる。
わたしはチョコアイスを食べながら、運転席にいる和臣さんを見た。
和臣さんは真剣な顔でスマホをいじっている。
SNSで無事だと告知した後も、問い合わせや、心配するファンへの対応に追われているんだろうな。マネージャーって、大変そう。
「ところで、あの後、何があったの? 気絶してたから全然覚えてなくて」
わたしの左隣に座っている春宮くんが質問してきた。
「なんかねえ、黒くて大きいボールみたいなのが襲い掛かってきたんだよ~」
わたしが答えるよりも先に、司先輩が言った。
そっか、司先輩には『黒くて大きいボール』みたいに見えたんだ。
「ボールなんて生易しいものじゃないですよ。人間の顔や手をめちゃくちゃにくっつけたような……恐ろしい怪物でした。多分、トンネルで事故死した人たちの怨念の集合体だと思います」
思い出してゾッとしたらしく、わたしの右隣にいる白銀くんは自分の腕を撫でた。
ああ、やっぱり、白銀くんが一番よく見えてたんだな。
怨念の集合体っていう推測も、バッチリ当たってるし。
クロの話によると、あれは「怨念の集合体に低級霊や浮遊霊がくっついて変異した悪霊」だったらしいから。
「なにそれ、怖っ! 気絶しといて良かったかも……」
春宮くんは震え上がっている。
「やっぱり深冬は霊感強いんだね~。ボク、普通の人間で良かった~。そんな怖いやつ、ハッキリ見たくないし~」
「オレは見たかったなー。戦うあげはちゃんはかっこよかったけどさ、肝心の相手が見えないって、悲しいぜ? あー、深冬が羨ましい」
「……おれは見えない先輩が心底羨ましいですよ。心霊スポット巡りはこれきりにしてくださいね。立切さんがいなかったら、本当に危なかったんですから」
「はーい。あげはちゃんとも、ガチの心霊ネタはやめるって約束しました」
白銀くんにジト目でにらまれて、玲央先輩は降参するように手を上げた。
「……『ガチの』じゃないやつは、やる気なんですか?」
「わかんない。視聴者の反応次第だな!」
「……もういいです。この話はまた後にしましょう」
白銀くんは深いため息をついてから、わたしを見た。
「立切さん。おれたちを守ってくれて、本当にありがとう」
「あげはちゃんはボクらのヒーローだね~。いや、ボクらのゴースト・ガードって言ったほうがいいかな〜」
司先輩はいたずらっぽく笑った。
どうやら、司先輩はわたしと玲央先輩の会話を聞いてたみたい。
「ゴースト・ガード?」
「なんですかそれ?」
「ゴースト・ガードっていうのは――」
司先輩が白銀くんたちに説明している間に、わたしは空になったアイスのカップとスプーンをビニール袋に入れた。
しばらくして全員がアイスを食べ終えると、玲央先輩が急に振り返った。
「なあ、あげはちゃん。戦いの最中、なんか変なこと言ってたよな? 『クロ』ってなんのこと?」
「あ、それボクも気になった~」
振り返った司先輩に続いて、白銀くんや春宮くんもわたしを見た。
「えーと……」
どうしよう。
話してもいいのかな?
――あげはの嘘つき。黒い狐なんていないじゃん。
昔のことを思い出して、ズキン、と胸が痛くなった。
小学生の頃、わたしはクロのことを友達に話したことがある。
でも、信じてくれなかった上に「あげはは嘘つきだ」って言いふらされたんだよね。
――あの子さあ、神社の娘だからって、調子に乗ってるよね。
――この前は、校庭に女の子の幽霊がいるとか言ってたよ。幽霊なんているわけないのに、バカみたい。
――みんなの気を引きたいだけなんだよ。目立ちたがり屋。嘘つき!
「…………」
奥歯を噛んでうつむいていると、白銀くんが静かに言った。
「言いたくないなら、言わなくていいけど……」
「『でも、教えてくれたら嬉しいな~』って、深冬の顔に書いてあるよ~」
「そんなことないですよ。いや、少しはありますけど……」
「ねえ、立切さん。誰にも言わないって約束するから、教えてくれない?」
「オレも知りたいなー」
春宮くんも、玲央先輩も――みんなが、わたしを見てる。
昔のクラスメイトたちの目は、冷たくて怖かった。
でも、いまわたしに向けられている目は、怖くない。
それはきっと、みんなが純粋な興味を持って、わたしのことを知ろうとしてくれているから。
「……わかりました。話します」
勇気を出して、わたしは背筋を伸ばした。




