15:ゴースト・ガード?
「わたしが祓ってやろうか?」
唇を噛んだわたしを見て、クロが冷静に言った。
実は、わたしよりもクロの方がずっと強いんだよね。
だって、クロは神様の使いだもの。
「ううん、わたしが祓う! みんなを守るって約束したもの! お願いクロ、霊力ちょうだい!!」
わたしは痛みを堪えて、クロに右の手のひらを向けた。
「仕方ないな」
クロは右の前足を上げて、わたしの手のひらに重ねた。
クロと合わせた手のひらから物凄い霊力が流れ込んできて、身体がカーッと熱くなる。
わたしの身体から溢れた霊力が、ビリビリと辺りの空気を震わせる。
霊感のある白銀くんの目には、わたしが発光しているように見えるかもしれない。
――よーし、これならいけるっ!!
「ありがとう、クロ!!」
わたしは右手を強く握りしめ、走り出した。
再び迫ってきた無数の黒い『手』を紙一重で避けながら、巨大悪霊に突進する。
「消えろおぉっ!!」
叫んで飛びかかり、巨大悪霊の核に全身全霊で右拳を叩き込む!!
――ドォォォォォン!!
凄まじい衝撃波がトンネル内を吹き抜け、巨大悪霊の『核』は粉々に砕け散った。
――ギィイイイイイイアアアアアアアアアアアア!!!
断末魔の叫びが響き渡る。
わたしの拳を中心に白い光が爆発し、トンネルいっぱいに広がった。
巨大悪霊は光に飲み込まれ、浄化されていく。
やがて光が収まる頃には、トンネル内に充満していた冷気や悪臭は、嘘みたいに綺麗さっぱり消え去っていた。
そして、何事もなかったように、トンネル内の電気がついた。
「大丈夫だ。もう近くに悪霊はいない」
明るくなっても油断せずに辺りを見回していると、クロが言った。
「そっか。クロがそう言うなら安心だね……」
わたしは大きく息を吐いた。
――ああ、さすがに疲れた。
攻撃をガードした腕はジンジンしてるし、背中は痛いし、もう体力も霊力も残ってないよ。できることなら倒れてしまいたい。
でも、最後まできっちり守らなきゃ!
「みんな、無事!?」
わたしは力の入らない足に鞭打って、みんなの元へ走った。
「うん。無事だよ、一応」
玲央先輩が「一応」と言ったのは、春宮くんがいまだに気絶しているからだ。
司先輩と白銀くんは、白銀くんの腕の中で眠る春宮くんを心配そうに見つめている。
「そういうあげはちゃんは大丈夫? 背中を強打したように見えたけど、平気なの?」
「ちょっと痛いですけど、大丈夫です。トンネルにいた悪霊も、なんとか祓えました。もう心配はいりません」
「良かった。あとは光成が目を覚ましてくれれば……」
そう言いながら、玲央先輩が春宮くんを見た、まさにそのとき。
「ん……」
小さな呻き声をあげて、春宮くんが身じろぎした。
「光成! 起きたか?」
白銀くんが声をかけると、春宮くんは額を押さえながら身体を起こした。
「あれ……ぼく、気を失ってた? いまはどういう状況?」
「立切さんが悪霊を祓ってくれた。もう大丈夫だ」
「そっか。立切さん、ありがとう」
春宮くんはまだ少し青い顔で微笑んだ。
「どういたしまして……」
微笑む春宮くんを見た途端、張りつめていた糸が切れた。
すとんとその場に座り込むと、みんなが慌てたような顔でわたしを見た。
「あげはちゃん!?」
「大丈夫!?」
「大丈夫です。安心したら力が抜けて……はは。皆さんが無事で、本当に良かった……」
涙ぐみながら微笑むと、みんな、なんともいえない顔をした。
心配そうな、戸惑ったような――すごく複雑な顔。
「……あげはちゃん。車まで送るから、乗って」
玲央先輩がわたしに背を向けて、中腰の姿勢になった。
「えっ。いえ、大丈夫です。立てますから」
「つべこべ言わない。頑張ってくれたご褒美ってことで、乗ってよ。お礼がしたいんだ」
「……そういうことでしたら……はい」
わたしは恐る恐る、玲央先輩の肩に腕をかけ、その背中に乗った。
「じゃあ行こうか。和臣さんも配信が切れて心配してるだろうし、今度こそ本当に撤収だ」
玲央先輩はわたしを背負って立ち上がり、歩き出した。
春宮くんたちは三人で会話しながら、わたしたちの後をついてきている。
「……あのさ、あげはちゃん」
しばらくして、玲央先輩が小声で言った。
「その……これまで、幽霊なんていないとか、お祓いなんてピンとこないとか言って、ごめんな。あげはちゃんは立てなくなるくらい頑張ってくれたのにさ」
わたしはいま背負われているから、玲央先輩の顔は見えない。
でも、声の調子からして、気まずそうな顔をしてるんだろうな。
「謝らなくてもいいですよ。でも、これからは、あんまり危ないことはしないでくださいね」
「うん。いきなり吹っ飛んだあげはちゃんや、気絶した光成や怯え切ったみんなを見て、さすがにオレも反省した。もしまた心霊系のネタをやるとしても、学校の七不思議とか、そこまで危なくなさそうなやつにするよ」
「うーん。危なくないなら、いい……ですかねぇ……」
護衛役としては、もう二度とやらないで、といいたいところだけど。
配信者としては、動画の再生回数も大事だろうしなあ……。
「でも、今度はわたしが先に現地に行って調査します。危ないようなら行かせませんから」
「お。そういうってことは、頼まなくても付き合ってくれる気なんだ?」
玲央先輩の声は、ちょっと嬉しそう。
「もちろんですよ。わたしの役目は悪霊や念から皆さんを守ることですから」
「見えない敵から守ってくれる護衛……か。さながら、あげはちゃんはオレらのゴースト・ガードだな」
「ゴースト・ガード?」
聞き慣れない言葉に、わたしはキョトンとした。
「でも、それだと逆に『幽霊を守る』って感じがしません? ゴースト・バスターのほうが正しいと思うんですが」
「細かいことは気にすんな。かっこよければそれでいいんだよ」
あっけらかんとした口調で言ってから、玲央先輩はわたしを背負い直し、再びトンネルの出口に向かって歩き始めた。




