13:いざ、蛇目山トンネルへ
一週間後の土曜日。
キリヤに変身したわたしはSEASONのみんなと車に乗り、蛇目山へ向かった。
心霊スポット巡りの1回目はコノエ公園、2回目は海。
これまでは何事もなく平和に終わった。
でも、3回目となる今日の舞台は、白銀くんが心配していた蛇目山トンネルだ。
蛇目山トンネルは事故が多発している、ガチの心霊スポット。
見た目はただのトンネルなのに、まるで巨大な怪物が口を開けて、わたしたちを飲み込もうと待ち構えているようだった。
「…………」
わたしは、ごくん、と唾を飲み込んだ。
入り口の前に立っているだけなのに、全身に鳥肌が立っている。
この中にいる『モノ』に対して、身体が勝手に恐怖を感じているんだ。
それはみんな同じらしく、春宮くんや司先輩はさっきからずっと黙っているし、白銀くんの顔色は青い。
わたしの左肩にいるクロは耳をピンと立て、険しい顔でトンネルを睨みつけていた。
「へー、ここが蛇目山トンネルかあ。雰囲気あるじゃん」
霊感ゼロの玲央先輩だけが楽しそうだ。
「どうだろう、立切さん。見た感じ、危なそう?」
「はい」
ビデオカメラを持った和臣さんに聞かれて、わたしは即答した。
「和臣さんは入口で待機していてください。何かあったらすぐ警察や救急を呼べるように」
「……そんなにヤバいの? 配信やめたほうがいいのかな……」
「えー、ここまで来てそれはナシでしょう」
迷いを見せた和臣さんに、玲央先輩が不満そうな声を上げた。
「みんな今日の配信を楽しみにしてるんです。告知した後の反響、和臣さんも見たでしょう? いまさら中止とか無理ですって――」
「それでも、止めたほうがいいです!」
珍しく、白銀くんが大声を上げた。
「多少炎上してもいいじゃないですか! おれは動画の再生数よりも、みんなの安全のほうが大事です! ここは、ここだけは、行かないほうがいいです!!」
玲央先輩に詰め寄って、白銀くんは必死に訴えた。
「深冬もなんか感じてるわけ?」
「はい。それが何かはわからないけど……ここには、良くないモノがいます。絶対」
「玲央。あげはちゃんも深冬も危ないって言ってるんだし、止めるべきじゃない~?」
「ちゃんと謝れば視聴者のみんなもわかってくれますよ、きっと」
「うーん……」
司先輩たちにも言われて、玲央先輩は困ったように頭を掻いた。
「でもさあ、せっかくここまで来たんだし。オレは行きたいんだけど。入口だけでも見てみない?」
「……どうする?」
わたしたちはみんなで集まって相談し、やがて一つの結論を出した。
「わかりました、みんなで行きましょう。ただし、わたしの指示には従ってもらいます。わたしが危険だと判断したら、配信は止めて引き返してください。約束ですからね」
玲央先輩の目をまっすぐに見つめて言うと、玲央先輩はうなずいた。
「わかった。じゃ、決まりな。司、今日の撮影役はオレがやるわ」
玲央先輩は自分のスマホをいじり始めた。
みんなで話し合って「行く」と決めたものの、白銀くんは不安そうにうつむいている。
「白銀くん。心配しなくても大丈夫だよ。何が出ようとわたしが対処する。通学路にいた悪霊だって、問題なく祓ってみせたでしょ?」
除霊を頼まれた次の日に、わたしは白銀くんの目の前で悪霊を祓った。
でも、あの悪霊は弱かった。
このトンネルにいる悪霊とは、比べ物にならないくらいに。
「……本当に、大丈夫そう?」
「うん。任せて」
わたしは自信たっぷりにうなずいた。
本当は自信なんて全然ないけど、不安がってる白銀くんに、そんなこと言えるわけがない。
「……わかった。立切さんを信じる」
――信じる。
その一言が、わたしの心に火をつけた。
「ありがとう。頑張るね!」
それから少しして、玲央先輩がスマホ片手に配信を始めた。
「はーい、みんな、お待たせー! 心霊スポット巡りも今日でラスト! ってわけで、今日は激ヤバってウワサの蛇目山トンネルに突撃しちゃうよー! 最後までちゃんと見てねー!」
玲央先輩が笑顔で手を振ると、物凄い速さでコメントが流れ始めた。
『ここマジでヤバいよ! 気をつけて!』
『幽霊出たらどうすんの!?』
『あんまり怖いとこ行かないで~泣』
玲央先輩はニヤッと笑って、スマホのカメラをわたしに向けた。
「みんな心配してくれてありがとー! でも、大丈夫。危なそうだったら引き返すし、オレたちには最強の助っ人がいるから! な、キリヤ!」
「はい。おれが必ずみんなを守ります!」
『キリヤ』として笑顔を作り、拳を握ってみせると、コメントの流れが加速した。
『キリヤくんカッコいい~!』
『マジでイケメン』
『キリヤがいるなら安心かも!』
「他のメンバーの様子も確認してみようか! まずは司~!」
玲央先輩はハイテンションを維持したまま、今度は司先輩にカメラを向けた。
「……うん、みんな、こんばんは~。ボク、全然平気だよ~? ちょっと寒いだけだから……ね? 大丈夫、大丈夫……」
司先輩の笑顔は微妙に引きつっているし、声も上ずってる。
『司くんガンバ―!』
『怖がる司くん可愛いー! がんばってー!』
コメント欄は大盛り上がりだ。
「光成、深冬、どうよ?」
玲央先輩が二人にカメラを向けた。
「……ちょっと怖いけど、頑張ります!」
本当は怖くて堪らないはずなのに、春宮くんは気丈に微笑んだ。
「おれも。気は乗らないけど、頑張る」
春宮くんの姿に励まされたのか、白銀くんもうなずいた。
『きゃ~光成くんカワイ~!』
『二人ともがんばれ~!!』……コメントの流れが速すぎて、もう読み取れない。
「じゃあ、張り切って行ってみよー! 蛇目山トンネル、突入ー!」
玲央先輩がスマホを構え、先頭に立って歩き出す。
司先輩は唇を引き結び、春宮くんは不安そうにお腹の前で手を組んでいる。
白銀くんは恐怖に耐えるように、両手を握りしめていた。
「クロ……いるよね、ここ」
わたしはみんなと一緒に歩きながら、クロに小声で確認した。
「いる。強烈な怨念が渦巻いている。くれぐれも油断するなよ、あげは」
「うん」
わたしたちはゆっくりとトンネル内に入っていった。
電灯が灯っているけど、なんだかやけに暗く感じる。
わたしたちの足音や話し声が壁に反響して、奇妙に歪んで聞こえるのも不気味だった。




