5 転生のルール
《転生ポイント6》 《生を諦めますか?》 YES NO
「NO」
ぶっきらぼうに言い放つと、そうですかと感慨もなくウィンドウが消えていった。
暖炉に照らされたように穏やかなオレンジ色が揺れていた。何度やってこようとも変わることなく死の味だけを噛み締める転生部屋。
異世界転生二度目の死。慣れることのない恐怖が残っていて、体の内側を焼いていた。
死んだ瞬間に一瞬で生き返る感覚。ほんの数秒前までは血が足りなくて、肉が足りなくて死んだというのに、次の瞬間には五体満足の万全の状態。その差に精神が耐えきれず、内臓に激しい痛みをもたらしている。夢に似ている。悪夢を見たあとに息を切らして目を覚ますような感覚。しかし、こちらはあれ以上に逃げ場がない。
「う……くっ」
落ち着きを取り戻すまで歯を食いしばり口を抑えて耐える。何も考えないようにするが、どうしても最後の千切られた自分の腕が頭に過る。今はこうして人間の腕が付いているわけではあるが、あのときの俺の腕はウサギの愛くるしい腕でしかなかった。その喪失感を自分とは別のモノと切り離して考えることはできない。
肘より上から雑に千切られた腕。血が白い斑を避けるように垂れて地面に吸われていて……。
「白い斑……」
記憶が一気に引き戻される。黒い毛の中に一つだけ落とされた白い斑。特徴的な模様だったわけではないが、特徴的なアンバランスさではあった。
トラウマの中から引きずり出された情報が、踠いていた俺に微かな冷静さを甦らせる。頭を上げて正面を見つめると、トラウマ以外の光景が瞳の中で再生される。
「あの腕……見覚えがある」
自分の物ではなく、ただのモノと成り果てたウサギの腕を思い出して気が付いた引っ掛かり。自分の体だったため気付いていなかったが、あの腕には確かに見覚えがあったのだ。
一応元いた世界の記憶から頭をひっくり返すように探って、気分が落ちてから今度は異世界での記憶を探る。
「思い出した! あれだ! 一度目の転生で出会ったウサギ。あの腕は特徴的だったから覚えてる」
最初の転生でウサギとして話しかけると、敵意剥き出しで首元へ噛みついてきたウサギ。その毛は真っ黒なのだがその腕の一点だけ何かを間違ったかのように白い斑が落とされていた。あの筋肉質な分厚い体格も、今回の俺の転生したウサギと近い。
「そういうことか……。そういうことなのか?」
机に肘をつきながら唇の先に指を当てた。
異世界ものは大きく二つに分類される。一つが記憶や人格を引き継ぎ、別の世界から新しい命として生まれ変わるもの。そしてもう一つが体はそのままに異世界に移動させられるもの。俺はこれまで前者だと思って動いていたが、これにも少し枝分かれしたものがあったようだ。
「多分これ、異世界に生きている生物に俺の魂が入れ込まれている」
まったく新しい体で転生したり、新しく子供として産まれてきているわけではなかったのだ。既にある生き物と体の所有権を入れ換える。そんな話だったのだ。
「だからリスポーン地点も厳密には同じじゃない!」
自然と声音が明るくなっていた。当然だ。リスポーン位置が変われば、無限にオオカミ地獄にアタックしなくてもいいのだから。
「これまではあのリスポーン地点の近くにいたウサギに転生してたんだ。それが偶然オオカミの多く生息する地帯だったから噛み殺されていた。けど、その付近の生き物と入れ替わるんだったらやり方もある。ウサギや小動物なら危ないけど、オオカミだったら危険はない。だって、あの場にいたオオカミのどれかに転生することになるんだから!」
あの場にはあれだけ多くのオオカミが生息していた。つまり天敵の心配はない。それにあそこにいたオオカミのどれかに転生すれば、もれなく仲間も付いてくる。
食料も豊富。水もある。仲間もいる。これで難易度は一気にイージーに。
「転生ポイントの獲得や減少については少し懸念は残るけど、生き残るのが最善だ。――もう死にたくなんかない」
立ち上がってビブライアの元まで駆け出した。興奮のせいで足取りがおぼつかない。しかし、この部屋の俺がどれだけ惨めな姿であろうと、見ている人もいないので関係なし。
ブックスタンドにしがみついてからページを捲る。最初のタイトルとルールのページは無視して一気に目的のページに。そこにあった肉食動物の名の一つを迷うことなく指差した。
今度こそ俺の異世界ライフの幕が上がる。
「転生!」




