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死んではじめるビブライア  作者: 細川波人
一章 ハルネア
27/30

9 異世界市場


 二日目のおおよその流れは一日目とほとんど変わらない。朝食作り、洗濯、掃除。テレーゼは有言実行でエリゼの仕事を一切手伝うことなく、リビングか自室で本か新聞かを読み続けていた。

 これで本当に自堕落に過ごしているようだったのなら、文句の一つぐらい言えたのかもしれないが、どうにも休みは休みでも休んでいるようではなかった。時折自室に戻り何やらどこかに連絡を取っていたり、目元をほぐしながら書き物をしていたりと仕事はしているようだった。そのため、結局は肩身の狭い思いで俺は家事を終わらせた。


 そうこうして忙しい時間が過ぎてあっという間に日が昇る。昼食を終えて片付けを済ませたところで家事は一段落。ようやく自由な時間がやってくる。


 念願の俺の転生者として自由行動だ。その手始めは!


「テレーゼお姉様。おこづかいをいただけるでしょうか」


 午後一時。エリゼ・オーレンシュケンの体を借りた有畑奏真は慎ましく微笑みながら、心苦しさと不甲斐なさを噛みしめてそんな演技を貫いていた。


 説明しよう。いや、させてください。俺がこんな風にテレーゼに頭を下げている理由を。不本意な形で奪うこととなったエリゼの体。現在俺はエリゼの体や生活を借りている立場。そんな借りてる側の分際で、勝手にお金や消耗品を使うなんてとてもじゃないができない。エリゼに顔向けできなくなる。

 なので惨めな気持ちを抱き心を痛めながらもテレーゼに頼み込んでいる。テレーゼにならお金を貰ってもいいのかと思われるだろうが、そこは一日中家事で貢献している褒美と理由を付加すれば、ギリギリ罪悪感は生まれない。……嘘。申し訳ないとは思ってる。来世では必ずこの義理は返すから。


 目を閉じてテレーゼにこの思いを届かせようと祈ると、下げていた頭の上でほぼ即答でツンとした声がした。


「いいだろう」


「えっ。嘘」


 テレーゼのことだから歯牙にもかけずに突っぱねられるぐらいには覚悟をしていたが、何の理由も聞かれずに承諾。あまりの呆気なさにこちらの覚悟が空回りする。


「いいって。そんなに簡単に?」


「食費が足りなくなったとかそんな話だろう。おおかた、一昨日の洞窟での迷子で財布でも落としたか」


 ……。


「そうと言っておく」


「自分の失態に抵抗を見せるな」


「そうです。私が! エリゼが落としました!」


 語尾に向かって口調を強めて悔し顔。全ての責任をこの体の中にはいないエリゼに押し付けているような気分だ。しかし、そうでも言わなければテレーゼは納得しない。だから、せめて全ての言葉の棘を俺のハートで受け止める。


「やれやれだな。無能はなにもスキルや魔法の技術の如何(いかん)によってだけ与えられる蔑称ではない。日々の振る舞いも考えることだ」


「はい……」


 痛い。痛い。胸が痛すぎる。でも、頼るしかできないのが今の何も持っていない俺。そんな自分が一番痛い。


 テレーゼはリビングに置いてあった黒い鞄からこれまた黒い財布を取り出してから、冷たい硬貨を何枚か俺の手の中に押し込んだ。開いて確認してみると色は金で重厚感がある。日本の硬貨よりも重さも価値も明らかに上だろう。


「お前が買い出しに行かなければ私の腹が空く。ただ、次はない。覚えておけ」


「ごめんなさい」


 これがエリゼの立場としてなのか、エリゼに居座る俺の振る舞いの謝罪なのかわからなくなっていた。けれど、そのテレーゼらしい返しには不思議と不快感はない。今はただ、まだ見ぬ人間世界に踏み入る興奮が勝っていて、手のひらに乗った硬貨を強く握り締めていた。


* 


 灰色の舗装された通路。脇に等間隔で並んでいる街灯。それらを下地にして建ち並ぶ高さの均一な建物たち。

 俺は今そんな中を人の行き来の多い方を目指して歩いている。親切な案内板は無視。感情の赴くままに。


「……新鮮だけどまだ想像の範囲内か」


 建物が浮いていたり、あり得ない形状だったりはしない。色合いも落ち着いていてまだギリギリ疎外感はない。


「通りすぎる人たちも普通か。亜人系やエルフなんかは今のところいないし、ついでに剣を腰から携えた人とかも今のところ見かけてない。こっちから、向こうの世界に逆輸入しても普通に溶け込めそうか」


 人の身なりを見てから、今度は治安を探るために路上を観察してみる。ホームレスはいない。ゴミも散乱しておらずゴミ箱もきちんと配置。それを使用する人たちのマナーも適切。これまでの転生と比較すると圧倒的に危険性の少ないスタート地点だ。


 ――武器も持たずに生活できるほどの異世界。衛生面、安全面、共に良好。オオカミもいなければスライムもいない。


「ワン!」


 犬はいる。


 見渡した限り犬の姿はなかったが少し遠いところから声は聞こえた。この人の多い表通りではなく、裏路地にでも迷い込んでいるのだろう。


「かなり治安のいい街に転生できたのか。もしくは、そもそもこの世界自体治安の水準が高いのか」


 子供たちが遊びながら走り去っていく。その姿に心の芯に残っていた警戒心が解きほぐされていく気がした。


「ふぅ。簡単には受け入れられないけど、ちゃんと安全圏か。でも、事前情報だと敵が多すぎるんだよ。複雑だ」


 エリゼから無許可で借りている肩掛けポーチが揺れる。中には、この異世界の情報の詰まった新聞という名のパンフレットと、テレーゼから頂いた金貨の入った財布のみ。


「急務は転生ポイントの獲得と武器の調達。あとはこれも忘れられない。差し迫った最重要課題、晩御飯の食材の調達」


 要点をまとめながら指を折って他の住宅などよりもやや低い軒先を通過する。すると、ちょっとした人波と合流し、頭上で右から左に橋渡しされた装飾の下を潜り抜けた。


 人が多いな。暗殺のリスクは高まるけれど、住民たちが向かう場所なんて一つだろう。この町の中心地。繁華街だ。


 ぼんやりとただ前を歩いていた人の背中を追って進んでいく。さて、この人たちは俺をどんな世界観へと(いざな)ってくれるのか。


 広くはなかった通路が突如として開けた。左右に視界を遮るように建っていた建物がなくなり、周囲を歩いていた人たちも、紅茶に入れた砂糖のように拡散していったからだ。


 一段階世界が明るくなり、元々目立ちのはっきりとしているエリゼの目蓋がさらに高く持ち上がった。


「これが……」


 自分の足元から中心に世界が広がっていく。何の変哲もないはずの石畳から、並んでいるテントのような店の数々へ。賑わう人々。見せ物の躍り。陽気な音楽が空気さえも明るく染める。


 空気。光。音。活気。鮮明だ。赤も青も黄色も、黒や白だって。全ての色がこれまで見てきてた色とは別の鮮やかさに感じる。


「ははっ。ははは! これがリアル異世界!」


 目の前に広がっているのは建物で囲われた巨大な市場。噴水やベンチ、植え込みなんかもあるが、それ以上に目を惹くのは数々のカラフルなテント。野菜や肉、魚などの入れられた木箱や、山積みにされた鮮やかな食材。さらには既に調理された香りと共に湯気を放つ料理まで。まだまだそれだけじゃない。宝石、アクセサリー、骨董品、本や衣服にエトセトラ。ざっくばらんに各々がいきいきと売りたいものを売っている。

 つい息を飲んで通行人も無視してその光景に手を伸ばしていた。意味はない。ただこの景色に手が届いているという感覚が欲しかっただけだ。


「本当に始まった! ようやくだ!」


 一時間で脅威に襲われ殺され続けたチュートリアルから、ようやくまともに始まった異世界転生。恵まれた境遇じゃない。死ぬリスクもまだ高い。それでも、目の前の当たり前に出会えると思っていた光景に胸がどうしようもなく揺さぶられる。


 人の流れに流されて一歩前へ。さらに一歩、もう一歩。テンポが上がって歩きに、そしてついには小走りに。

 市場のテントの前一つ一つに興味津々で立ち止まりながら、時おり手に取ってから他に興味が移って即座に戻してまた次へ。店員は期待したような目を向けてくる。その店員に見事な笑顔で肩透かしを食らわせて隣の店へ。


「ははっ」


 笑いが止まらない。隣の人から珍しいものでも見るような目線を浴びた。それで笑い声は堪えたものの、この表情だけは抑えられない。


 ウサギ? オオカミ? ハチ? ゾンビ? そんな実感の沸かなかった異世界転生じゃない。一時間のタイムリミットから解放されて、人として味わう初めての世界。ただの日常の一コマがこんなにも心踊る。


 理性が「先に安全確保はいいのか?」なんて言っていた。けれど、今の俺はどうしようもなく嬉しくて、感動していた。あの地獄の転生部屋からの解放感。たったそれだけで、俺は正論を投げ飛ばして、ただ理由もなく思うがままに走り続けていた。



 買い物もしたいし、他の生物で文字通り味わうことを忘れた食事も堪能したい。日本との差を探して異世界感をとことん満喫したい。しかし、最初に必要なのは安全確保。


「なんて冷静になったのは、あれから一時間後となる」


 特に財布の紐を解くわけでもなく、ただ観光や世界観を味わうためだけに歩き回り一時間。ようやく、遠くに投げられていた理性がブーメランのように戻ってきて頭に突き刺さった。


「さて。いまさらだけど、関わりたくない人間のティア表でも作っておこうか」


 市場の中央にある噴水の縁に腰を下ろして、周囲の人たちのタイプを探っていく。


 まず多く目につくのが一般的な平民クラス。武器を持っておらず懐事情も落ち着いていそうな人たちだ。


「これは危険度Bってところか」


 何の特徴もなさそうな市民は意外なことに危険だ。想像してほしい。よくあるゲームの強キャラはどんなものか。ただ筋肉がついている夜盗のような外見の奴は序盤のモブだろう。しかし、普通の平民は、実は黒幕で強敵になって立ち塞がったりする展開もしばしば存在する。つまり孕んでいる危険性は見かけばかりの奴よりも上。


「現に同じ要領でエリゼはウッツに騙されて死にかけたわけだし」


 きっとあのウッツも最初はどこにでもいる平民Aだったのだろう。わかる。俺もいろんな本を読んでなかったら騙される。


 感慨深く頷いてエリゼに同調した。騙される気持ちはよくわかる。


「あと関わりたくないのは見るからに地位の高い相手か。直接的な戦闘力もだし、人を使った情報戦なんかも怖い。危険度A」


 今のところ視界にはいない貴族を頭に思い浮かべる。エリゼに関わってくる貴族なんて基本は敵か味方のどちらかだ。二分の一の確率で悪い展開になるのであれば関わらないのが得策だろう。


 ただここまで来たら、警戒しすぎて疑心暗鬼なだけと思われそうだ。しかし、残念。確実で安全な相手だって存在する。それがこのタイプの人間だ!


 細い腰を持ち上げて、駆け足ぎみにそこへと向かう。紛れもない危険度なしの安全安心のその相手の元へ。


「んん。あー。よし。すみませーん。野菜見せてくださーい」


「はいはい。どうぞぉ」


 そう! 八百屋だ!


 たくましい腕を捲り上げた男性に向かって、俺は警戒心ゼロで声をかけた。


 八百屋。ここまで言えばもうわかるだろう。みんなの記憶に八百屋が強ボスに変化した記憶があるだろうか。ないはずだ。力を隠しているパターンなんかはありそうではあるが、それが敵に回るなんて展開はものすごく少ない。平民が百人いたら一人は危険人物は混ざるだろうが、八百屋は違う。八百屋は百人集まろうと八百屋しかいない。野菜を売ってくれるだけの無害で有益な存在なんだ。

 持論を展開しながら笑顔で野菜を見つめる。これが初めての買い物だ。気分が上がらないわけもない。


 景気よく挨拶をしてくれた八百屋が、まじまじと顔を近付けてくる。貴族のエリゼがこんなところにいるのだ。信じられないのかもしれない。


「んん? エリゼちゃんじゃねぇですかい」


「そうだよ。エリゼだよ」


「どうしやした。今日は口調が違いやすが」


「は、はい?」


 貴族の優越感に浸っていたところを予想外の指摘で現実に戻された。この八百屋とエリゼは知り合いだったのだ。


 でも、何でだ。話し方は洞窟で話していたエリゼの口調を真似している。変だったか? 今の?


「いやいや、いつもはもっと貴族様らしく、その威厳のある口調だったじゃないですかい。それが今日、ようやくエリゼ様本来のおしとやかな口調になってたもので。何て言うか……、あっしも信用されたのかーって」


「あー、そういうこと……だったのだな」


「無理して戻さなくてもいいんですぜ……」


 丸顔の八百屋に指摘にハッとして息が止まった。忘れていた。洞窟内での最初のエリゼは貴族らしい堅苦しい話し方をしていた。あのエリゼの性格と外観に似合わない強がった口調が外出用だったのだ。多く接していたのが素の方だったので、完全に忘れてしまっていた。もっと会話には気を付けないとボロが出る。


 改めて喉元を意識する。喉の上の方ではなく下の方で音を出す感じだ。プラスで声に重さを出すために喉を広げて……。


「すまない。少し油断していてな」


 いつの日かに聞いたような強がった声が出た。声帯模写の完成度は百点。同じ喉だろなんてツッコミはいらない。


「あー、わざわざ戻さなくても好きに話してくれて構いませんがね。まっ、貴族様ともなれば外聞も気になるのはわかりやすがねぇ」


 なんとか誤魔化せたようだったが、八百屋は少し寂しげに肩を竦めていた。口調は戻したがその堅苦しい言い回しが距離を作ったように思われたのかもしれない。それでも口調を柔らかくするつもりはなかった。


「にしても、今日はいつもよりお早い。何か急ぎの用事ですかい?」


「まあ、急ぎの用事というわけではないが、このあとに用事は控えていてな。早めにするべきことはしておこうとな」


「そうですかい。貴族様の話は深入り厳禁。訊きやせんよ。ほら、何を買います?」


 あえて濁した会話にも深入りはしてこない八百屋にほんの少しだけ罪悪感を抱きながらも、気を紛らわせるように目の前の野菜に顔を近付けた。


 うーん。どうするか。テレーゼの嫌いそうなものを……。


 ざっと木箱の中に並ぶ野菜たちを眺めてみる。そこには色とりどりの異世界の野菜がふんだんに溢れている。……かと思いきや、蓋を開けば意外と普通。そもそも家で在庫を確認したときにも見たことのある野菜ばかりだったのである意味想定通りだ。

ジャガイモ、トマト、キャベツ。オーソドックスなところは取り揃えられている。


「でも、珍しいものもあるか。これとか」


 勝手に箱に手を突っ込んで一つの野菜を取り出した。キャベツぐらいの大きさの花。先端にかけて紫がかった白い花弁は、一枚一枚がとても大きく子供の手のひらぐらいはありそうだ。


「うーん? 食べれる……のか?」


「食べれないものを並べたりはしませんって。まあ、貴族のお方はあんまし食べないかもですけど、そのフーレは安いし腹持ちがいい。歯応えがしっかりあって、そのわりに舌触りは滑らかで、甘味もある」


「面白いな」


 花を飾りとして乗せるのはよくあるだろうが、食べることを目的とした花はあまりイメージにない。それに腹持ちがいいなんて、花に付加される言葉とは思えなかった。


「じゃあ、こっちのはなんだ」


 次に指差したのは木の棒のようなもの。いや、棒というよりは根だろうか。見た目は茶色くて細い硬そうな大根だ。


「そっちはロロック。皮ごと輪切りにしてから焼いて、その内側だけを食べるんですぜ。ちょっとしょっぱくて、もっちりしている。小腹が空いたらまずこれを薦めますぜ」


 ほう。俺の冷凍庫に常駐していたフライドポテトみたいなものか。


 商売上手な八百屋は身振り手振りで食感を伝えながら、その豊満な頬の肉を使っての感情を表現。この気を許したくなる感じは、スキルとは違ったこの人天性の才能だ。


 貴族が食べるようなものじゃないってのが面白いか。テレーゼも食べたことがないかもしれない。試してみよう。


「じゃあ、これとそれを」


「はいはい。銅貨三枚ですよ」


 さて。ここからが本題。


 なんだかんだで最初にこの八百屋に買い物をしに来たのには理由がある。その理由は金の価値を知ること。テレーゼから貰ったのは金貨らしきもの八枚。その金貨で庶民的な物をどれぐらい買えるかを物差しとして、金銭感覚を整えようとしていたのだ。

 わからないからこそ、最初は試すようにテレーゼから貰った金貨八枚全てを八百屋の差し出された分厚い手の上に乗せてみた。


「ちょっ、エリゼちゃん」


 けれど、その金貨が日に触れるよりも前に、八百屋がこちらの手を上から包んでいた。


「そりゃあ、駄目ですぜ。確かにこの市場の周りは治安がいい。けど、日中の人目に付く場所でこんな大金見せるのはまずいでしょう。ほら」


 店主の左手と俺の右手で金貨を挟んだまま、器用に手が返される。中の金貨七枚が落ちてくる重さがあって、それが白い指の間から少し見えた。


「毎度のことだからあっしも用意はしておきやすよ。ただお姉様に言っといてくだせぇ」


「何と伝えればいい?」


「たまには銀貨も持ち歩くようにと」


 丸い体を木箱の向こうに引っ込めて、今度は茶色い布の袋を取り出してきてこちらに手渡してくる。それを流れで受け取ると細腕が重さで軋んだ。焦って袋の口を開いてみると、中には数えきれないほどの銀貨とトッピングのように乗っている銅貨があった。


「お釣りの銀貨四十九枚と銅貨七枚。ちょっと待ってくだせぇね。いいやつ選んで袋に入れやすから」


「ああ。頼む」


 店主が丁寧に野菜を吟味するのを背景に、金の入った袋を見つめる。


 一般的に庶民的な野菜と言われれば百円中盤程度。それを二つ買っておおよそ三百円。


 金貨一枚のお釣りで銀貨が四十九枚返ってきた。金貨一枚の価値は銀貨の五十枚分。そして、おそらく銀貨一枚は銅貨十枚の価値。野菜二つで消費したのは銅貨三枚。野菜の二つ合わせた値段は三百円ほどとすると、銅貨の価値はおおよそ百円と同等と推測できる。


 銅貨が百円。銀貨が千円。そしてその銀貨五十枚で金貨一枚だから金貨一枚五万円……。


「テレーゼお姉様……。おこづかいねだられてどんだけ大金渡しちゃってるんだよ」


 エリゼ・オーレンシュケン。姉のテレーゼからおこづかいを貰う。その金額、円換算でおよそ四十万。


「はーい。どうぞ。またご贔屓に」


 店主の声が遠く感じた。手に持った野菜の入れられた袋よりもなぜか重量感のある肩掛けポーチ。


 テレーゼのお嬢様気質。育ちの良さ。そして、妹にねだられて大金を難なく渡すその気概。


「テレーゼお姉様。肉と魚どっちが好きかな」


 と、買い物の初めと終わりで全く真逆の感情を抱いている自分はなんて単純なんだろうか。


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