1 転生書庫ビブライア
息をしろ。
たった今死んだばかりの相手に向かってかけるにしては不自然な言葉が頭の中に響いていた。
息なんてしたくてもできない。体は穴だらけになって、俺の魂はあの体から抜け落ちてドロドロに砕けて消えてしまった。だから、今さら呼吸なんてして酸素を取り込む必要なんてないだろう。それにしても誰がそんな今さらなことを。
息をしろ!!
って、これ俺の声じゃん!!
ばっと目を見開くと目の前に白黒以外の色が映りこんだ。そして、ようやくこれが自分の体からの悲鳴だと気がついて大きく息を吸った。
空気が足りなくて苦しいはずの胸は、張り裂けそうなほど暴れまわっており、そこに新鮮な空気を送り込むと、また一つ苦しさが現れる。一つ一つ死者から生者の姿に戻るように、感覚が取り戻されていく。取り戻されていくのは主に苦しさばかりではあったが、その苦しさこそが生きている証ではあった。
ドッドッド。と耳元で血が行き来する音がしている。聴覚も取り戻した。心臓の音が近くで鳴っている秒針の音の間隔に近づいていき、今度はそれを通り越す少し手前で一定の調子を取り戻す。
視界も少しずつだが広がり鮮明に変わっていく。俯いた先にあるのは暗い色合いの茶色い机の面。それを落ち着きのあるオレンジがかった明かりが照らしている。
「はぁはぁはぁ……んはぁ」
空気の行き来で乾いた喉を唾を飲み込んで落ち着かせる。まだ心臓はうるさい。体から流れ出た汗は服の下で蒸れている。けれど、それでもようやく俺らしく分析するだけの頭は戻ってきていた。
「夢オチってやつか。ちょっとリアルすぎるけど。痛みとかすごくてトラウマだよ。夢なのに」
苦しくて机に押し付けていた頭を上げた。ひどい夢を見ていて背中だったり腹だったりに痛みの記憶が残っているようだが、服を捲ってみても体はきれいなもので変わりはない。息苦しさは、夢に体が反応して無意識に息を止めていたせいだろう。夢で死んでも実際には死なないのが普通だとは思うが、こんな重度の睡眠時無呼吸症候群みたいなものが勃発すれば、それもまた一つあり得る話なんだろう。
「いや? 夢なのか?」
これまでが夢だったと思えるような現実的な無傷の肉体はある。ただ一つ。一つだけこれまでの体ではあり得ないものもあってしまった。
「何これ?」
《転生ポイント6》 《生を諦めますか?》 YES NO
いつの間にか視界に浮かんでいたのは長方形の青いウィンドウ。非現実的すぎて触って確かめようと手を伸ばすも、簡単にすり抜けられて指に触れることはない。
医者がするにしては手がこみすぎていて、コンプライアンスの欠片もない文面だ。それにこの最初の文面。『転生ポイント』なんて、今の状況を物語るような文字も浮かんでいる。
自分を中心に部屋が回る。本棚、机、本、照明、棚……。普段寝ている俺の部屋じゃない。
「転生……したってことかー」
はぁー、と長く息をつくと歪んでいた世界が戻ってくる。生きていられることへの安堵。それと同時に失ってしまった自分という一つの命への喪失感。そのどちらもが同じぐらいの配分で吐き出される。
倦怠感とトラウマとなった記憶から頭を伏せる。けれど、物騒で不安を覚える文面が目障りで、俺は俯いたまま目の前にある質問への答えを出す。
「NOだよ。折角転生したなら精一杯楽しむよ」
すると、「ですよねー」と言いたげに早足でウィンドウが消えていった。
*
転生した瞬間に動き回れるほどの気力はなく、顎を机に乗せたままぼんやりと景色を眺めていた。
机の右側にはは青黒い羽ペンとアメジストらしき結晶の生えたインク瓶があり、その奥にオレンジ色の温みのある光を放つ楕円状のテーブルランプ。そこから視線をやや左に向ければ、俺の心臓に規則的な動きを思い出させてくれたありがたい木製の置時計があり、さらに左端にはこちらを向いた本立てがあって、失くしてしまったとでも言いたげに真ん中の一つを開けていた。
並ぶ本の背表紙を目を細めて見つめる。辛うじて文字として認識できる並びのそれは持ちうる知識では解読することはできない。
それでも興味本位で本に手を伸ばすが、不思議なことに薄い空気一枚を挟んでその上を滑る。
「触ることもできない……か。何が何やら」
頭を悩ませ俯き、顎が滑って額を机に打ちつけた。
一般的な転生と言われればどんなものが思い浮かぶだろうか。家族に迎え入れられながらのスタートだろうか。女神やゼウスっぽい神による解説付きの親切なスタートだろうか。どちらにしても、少なからず世界に適応するために必要な知識が得られるスタートラインに立つものが一般的だろう。しかし、実際はどうだろう。字も読めなければ、謎の力によって物にまで触れられないときている。スタートラインとしてはあまりにも不親切な設計だ。
「ナビゲーターの必要性を改めて実感させられるよ。あるのとないのだと混乱の度合いが違う……」
心の声ならぬ本音や弱気。けれど、実際わからないことが多すぎて頭が擦り切れそうになっているのが現状だ。
《転生ポイント6》 《生を諦めますか?》
「転生ポイント……、あの意味もいまだに不明だし」
それでも、このまま摩訶不思議な書斎にいるのはやはり不安だった。動き出すのにも勇気はいるが、とどまり続けるほどの勇気はいらない。
触れることができる椅子を引いて立ち上がり、少し高い視点から部屋を一望する。一望できるだけの広さと障害物の少なさだ。動線の確保がきちんとなされた部屋は、住んでいた者の几帳面さを物語っている。
「誰が住んでいたんだろね」
つきっぱなしの照明に、動き続けている時計。この二つからこの部屋は主が離れて間もない状態なのは想像ができるが、いまいちその主の姿は想像できなかった。
「そして、そこに転生してきた有畑奏真。順当に考えれば、ここの持ち主と取り替えられたってところか。中身だけを入れ換えるのが通例だと思っていたよ」
こんなシチュエーションでの転生は、基本的に虐められていた生徒や立場の弱い下っ端使用人なんかが、特殊能力を持った異世界人と入れ替わるみたいなのがお約束だろう。けれど、残念なことに今の俺は泥棒にも負けるような一般男。逆に向こうで死んでいる俺とこっちの強者が入れ替わっているのであれば、逆異世界転生なんかが起こっているかもしれないが、わかりっこないのでそちらは考えないでおく。
ひとまずはこの状況を正しく整理していくのが大切だろう。転生した。そこを最前提とし、次の動きを考えよう。
眉間にシワを寄せて先程のようなウィンドウを思い浮かべる。異世界に来たのであれば、自分のステータスを知るための便利機能がついているのが当然だろう。
…………。
「ステータスの確認は不可と。次にいこう」
この異世界では、俺の予備知識が雑念にしかならないのだと証明はできた。推測はあくまで推測だ。その一つが外れたぐらいで躓いているほど軟弱じゃない。
机のちょうど目の前に置かれた、意味深な本とブックスタンドは無視して足を扉へと向かわせる。情報を集めるにはこの部屋だけでは不十分。直に世界を見て、人と会話をして、これからの方針を定めていく。
新しい世界へと飛び出そうとドアノブに手を伸ばす。伸ばして……握って……。
「…………?」
……ドアノブに触れられない。――扉が開けない。触れられないんだ。
もう一度掴もうとして試す。今度は両手で輪を作り滑る余地を与えないようにしてドアノブに向かって輪を狭める。親指が重なり、徐々に狭まり、最終的に左右の親指の付け根に辿り着く。しかし、本来あるはずのドアノブの冷たい感触は手の中に存在せず、空気を押し潰すだけに終わっていた。
握られた両手の中に汗が滲む。ひょっとしたらが徐々に確信へと変わり、今の置かれている状況に察しがつく。
本が触れられないのはまだいい。けれど、扉が触れないのは問題だ。死活問題なんだ。
この部屋には窓はなく、扉も一つしか見当たらない。壁には扉と同じように触れられない謎仕様の本の群れ。干渉することの叶わない壁が俺の四方を塞いでいる。
「監禁されてるんだけど」
カチ……カチ……カチ。
テンションと共に静まり返った部屋の中で呑気に時計の秒針だけが動き続け、それが徐々に俺に焦りを植え付けていく。
「いやいやいや。落ち着こう。これだけ立派な部屋なんだから、この家に他に誰かいる可能性はある。言葉が通じない可能性はあるけれど、誰かが書斎にいるのに放置なんてしないはずだ。誰か! 誰かいませんか!」
大声を出して人を探そうと試みる。耳を澄ませ、人の足音や声を探す。しかし、あるのは自分の困窮した声の記憶だけ。部屋の構造のせいなのか、本が音を吸っているのかはわからないがまともに音も響かない。
異質な部屋すぎる。触れて動かせる物なんて机と椅子だけしかない。こんな状況に転生させられてどうすればいいのだろうか。
「最初から詰んでるなんて。……いや、まだアレがあるな」
残された微かな希望へと目を光らせて睨む。唯一触れていなかった部屋の中央に位置している本。その異質さに賭けて人の反応のない扉に背を向けて振り返る。そこには読めと言わんばかりにこちらに茶色い表紙を向けた本が一つ。
『転生書庫ビブライア』
「――日本語だ」
意味ありげに目立つ箇所に配置された本と、この部屋で唯一無二の馴染みのある日本語のタイトルの本。そして、またしても書かれている『転生』の文字。まさにこの場所でこの死にたての有畑奏真に向けるためだけに置かれたような本だった。
「読めってことか」
腰よりもやや高い位置に置かれたビブライア。それはこれまで見てきた本とは少し異なった形状を模している。
まず最初に目を引くのはその大きさだろう。茶色い丈夫な表紙は、世間一般でよくお目にかかる文庫本なんて携帯できるような大きさじゃない。
「巨人が持ったら文庫本。人が持ったらなんだろう? 携行不可本?」
幼稚園児のリュックサックには入らない。ランドセルにも不可、高校の通学鞄でようやくサイズが並ぶ。携行するにはアタッシュケースが必須となるだろう。しかし、誰もアタッシュケースに入りきるとは言わない。厚みも並みじゃないのだ。千ページを越える本ぐらい図書館で一度は目にしたことはあるだろう。あの持ちにくくて読みにくそうな本という呼称が正しいのかもわからないあの品。当然この本はそれぐらいの分厚さがあるのだが、「千ページほどの分厚さがある大きい本」だけで留まらないのが異世界流。
「何でただでさえ分厚い本を二冊くっ付けてるのかな。ここまでくると悪意感じるけど。それにわざわざ逆方向にくっ付けなくていいんじゃない。前半は左に開いて、後半は一回閉じて真ん中ぐらいから右に開いていくの? それともひっくり返すの?」
あろうことかこの本は二冊が合体した形状をしている。片方だけで前述したようなサイズなのに、それが重ねられて結合されている。しかも、向きは逆という徹底された不便さ。忍耐力を試されているのだろうか。
「まあ、読みにくかろうが、読むしかやることがないんだけどね。こっちの茶色い方が表でいいのかな」
ひっくり返せば、下の黒い方がスタートになるのだろうが、こうして意図的に置かれていると考えると、こちら側から読む代物なのだろう。なので、誰の意図かは知らないが、その思惑にまんまと乗せられながら、最初のページを指先で左に送る。
一ページ目。巨大なページの中央やや上に表紙と同じタイトルが一つ。その下に作者の一つでも書いてあればよかったのだが、タイトル以外の情報はなく、ただただ空白で占められている。
「……次」
特に思うところなくページを送る。すると今度は開いてすぐに目に入る右側のページにそれなりの文量が規律よく並んでいた。
1 《この書庫では様々な生物への転生が可能となっております。転生する際には転生対象の名の記載されたページを開き、転生の意思を示してください。なお、転生の際には転生ポイントは消費いたしません》
2 《この書庫の閲覧権は所有している転生ポイントの数値により定まります。転生ポイントが要求値に満たない場合には閲覧はできません》
3 《転生ポイントは貢献度により加算もしくは減算されていきます。転生ポイントは種族変更いかんに関わらず、引き継ぎとなっております》
4 《転生ポイントの使用に関しましては、転生後にて可能となっております。また、使用した転生ポイントはいかなる場合でも返還されることはございません。ご注意ください》
※ 転生ポイントの基準を500とし、その基準を上回るもしくは下回る場合、転生先の境遇に上方もしくは下方の補正がかかります。
上から下に一度目を走らせ、そこからもう一度注視しながら読み返す。一行一行と読み進めるうちに、監禁状態という今の状況が勘違いだったのだと改められ、逆に胸が高まり始めていた。
「そういうことか。転生書庫……ここってまだ転生した段階じゃなかったのか」
ここまでは、転生した異世界で扉を開けない部屋に監禁されていたと思っていた。しかし、それは間違いであり、正しくは転生する前の二つの世界の間にいたわけだ。いわば神の空間。案内人である神こそいないが、生まれ直しをするための施設であることに違いはない。
「でも紛らわしい! 完全に勘違いして詰んだと思ったんだけど? でも、まあ、うん。下げて上げる手腕は見事だよ。死んだっていうダメージがかなり忘れられた」
無駄に焦燥に駈られて汗をかいたが、今は完全にスイッチが切り替わった。
視線を再び紙面に戻すと淡い明かりが瞳孔をくすぐる。目を軽く擦って文字を見つめ、また一つずつ解釈を広げていく。
1 《この書庫では様々な生物への転生が可能となっております。転生する際には転生対象の名の記載されたページを開き、転生の意思を示してください。なお、転生の際には転生ポイントは消費いたしません》
「様々な生き物に転生できる……。これが転生特典か。強みを見切り、有利な生物を選ぶってこと。効力の判断しずらいスキル云々よりはシンプルでわかりやすいか」
転生と言われればおおよそ二つに分類されるだろう。スキルや能力が強い系、それとは別に生物として生まれ変わりその力を高めていく系。その後者にあたるのがこのビブライアということらしい。
「転生のための本ってこと。ドラゴンとかスライムとか人外を選べるのは魅力的か。……でも、何を選ぶかはもう少しあと。情報を先に頭に叩き込んで推測しよう」
2 《この書庫の閲覧権は所有している転生ポイントの数値により定まります。転生ポイントが要求値に満たない場合には閲覧はできません》
思い出せば最初のウィンドウでも転生ポイントの記述はあった。確か、俺の転生ポイントは6だったか。高いのか低いのかは基準がないので不明。けれど、現実的な価値観で言えば少ないだろう。
「あのー、えーとですね。じゃあ、その転生ポイント6ってどのぐらい閲覧できますか?」
焦って適当なページを持ち上げようとする。しかし、ここにも扉と同じような仕組みが組み込まれており、触れられずに指が滑る。結局最後に残った一ページだけが、俺の質問への答えらしい。
「早速この本の厚さが無意味になったね」
落胆。残りの分厚いページへの期待。そして、既にこの場で転生ポイントを得る手段がないことに気が付いてもう一度落胆。
「もういいや。この一ページの中から次の転生先を選べってことね。次にいこう」
虚しさに蓋をして、ページを戻して三つ目のルールへと目を向ける。
3 《転生ポイントは貢献度により加算もしくは減算されていきます。転生ポイントは種族変更いかんに関わらず、引き継ぎとなっております》
「これはまた……推測しがいがある文面だなー」
ブックスタンドに肘をついて何度か読み返す。一つ一つ頭で整理する必要がありそうだ。
転生ポイントは貯められる。ここはポイントという名の通りであり、疑問を挟む余地はないだろう。しかし、次だ。『貢献度』。はたして、これは何への貢献度なのだろうか。少なくとも俺は以前の世界において有畑奏真として6ポイントを貯めていたらしいが、それが何によるものかは皆目検討もつかない。さらには増減というシステム。何が貢献度を下げるかまで推測しなければならないと。
「わからないことだらけか。でも一つだけ。一つだけ明るい推測もできる。最後の文。《転生ポイントは種族変更いかんに関わらず、引き継ぎとなっております》ここだ」
種族いかんに関わらず引き継ぎ。字のまんまに受け取れば、この先どの生物に転生しようとも俺の今ある6ポイントを持っていけるということになるだろう。しかし、俺はここにビブライアの本質を見た。
「これは転生ポイントを貯め、転生しなおすことが前提の書き方だ。つまり、転生は『一度だけ』じゃない」
ゲームでもよくあるだろう。最初は弱くてすぐやられるが、次の段階では経験値などを駆使し初期キャラを強化したり、新キャラを解放するあのタイプだ。ビブライアの閲覧権や転生ポイントなどはそれに近い仕組みだろう。
「まぁ、どうやって転生しなおすかってところだけど、そこはうん。ね。」
ゲームであればまあわかる。しかし、今その状況に立たされているのは自分が操る初期キャラじゃない。自分の体と魂。それを組み込み何度も転生をしなくてはいけないのだ。そして、転生しなおす条件はなんとなくわかる。
「死んだら次に転生ね。寿命が尽きるまでに転生ポイントを貯めるってことか。先が長いよ」
体を目一杯反らして天井を見上げる。この転生攻略法や近道が見つからない。
「……そこは転生してから考えようか。残りはルール4とおまけか」
4 《転生ポイントの使用に関しましては、転生後にて可能となっております。また、使用した転生ポイントはいかなる場合でも返還されることはございません。ご注意ください》
※ 転生ポイントの基準を500とし、その基準を上回るもしくは下回る場合、転生先の境遇に上方もしくは下方の補正がかかります。
「これはあってもなくてもいい説明だな。転生ポイントの使用もキャラの強化の話だろうし、転生してからしかわからない。最後の基準はー、うん。6ポイントでごめんなさい」
普通は500もポイントを稼ぐらしい。仕事の勤務日数だとか寿命だとかがビブライアの言うところの『貢献』にあたるのかは知らないが、泥棒に殺された俺にはそれらを貯めるだけのふんだんな時間は存在していなかった。
めげる……とまではいかにいにしても妥当なポイントの数値に対して苦笑い。これが自分らしさであり個性でもあるのだからと胸に言い聞かせる。
「で、大まかにまとめると、これから転生して転生ポイントを稼ぎ、そこから強化、もしくは転生をしなおし再度キャラ選択をしながら、自分の求める最高な人生を掴むってこところか。正直望みは高くはないけれどね」
わざわざ死んでまで再度転生して、もう一度人生をリスタートしようなんて考えは、ゲームであればともかくとして、自分の体で実践したいかはわからない。さらに言えば、特段世界統一を目指すだとか、魔王を倒すだとかの目的も存在しない。次の人生で満足して終わりでいい気もする。
「保険ぐらいで考えておくべきか。やり直しが利く転生という認識でいい。問題はそこを踏まえて何を選ぶか。転生ポイントを貯めるつもりでいくのか、一発で満足できる人生を掴むのか」
その辺りを悩みはしたが、そもそもなりたい生き物がこの先の見開き一ページにあるのかもわからなかったので、転生先を探すべく早々にページを捲った。
注意書きから次のページへ。こちらは両面に様々な生き物の名前が記載されている。見慣れた生き物からちょっと見慣れない生き物まで。一ページに三列に並んで二十行。それが左右のページに同じように並んでいる。左右のページに些細な違いがあるとすれば、各々のページの下にある数字。左は『1』で、右は『5』となっているぐらい。
「普通に本だとしたらページの数字だよね。『1』ページと『5』ページ。……2から4はどちらへ?」
なんて冗談はさておき、多分これはページの表記じゃないんだろう。ページ表記に見立てた転生ポイントの数値だと推測する。片方が転生ポイント1で見れるページ。もう片方が転生ポイント5で見れるページ。そんな話だろう。
「だからこの次のページは開けない仕様なんだろうね」
持っている転生ポイントが6であれば、次にあるであろう6のページを開けるのではと思うかもしれないがそれは大きな間違いだ。本という性質上、最低でも見開きにはページが二つ振り当ててある。今開いているページは1と5。となると、次のページを開けば自ずと6と6以上のページ(多分法則的に10)を目にすることとなる。
「まあ、ここだけでも百二十種類あるわけだから、気落ちする必要もないか。さてさて、何を選ぶかな」
仕方なくと呼ぶには贅沢すぎるような数の生き物の名前に目を通す。草食の動物から肉食の動物。虫や魚まで。特に規則性なく思い出した順に書き綴ったような有り様だった。
「……ドラゴンとか悪魔はなし。王道の人間もなし……か。それにモンスターっぽいのもほぼなし。ゾンビ? ……ゾンビって生き物って認識でいいのか?」
転生の優先順位の上から三つどころか、上から十個程度消えた。異世界転生なのに異世界らしいものはほぼない。これが閲覧制限の弊害のようだ。
「人間になって、そこはかとなく王女様とか女騎士様と巡りあって運命的に結ばれる……とかは夢物語だったか。まあ、いいや。一見弱いと思われる生物で無双する展開とかもあるわけだし気落ちはしないよ」
指で差しながら一つ一つ名前を見ていく。さて、どういう方向性で動くか。
何度か転生を繰り返す可能性。そして、稼ぐ必要があるのは貢献度。ついでに貢献度は上昇も下降もするっと……。
様々な点を考慮しながら、動いていた指先がついに止まる。その左側に描かれた名前を指差したまま強く俺は頷く。
「そうだな。最初はこれにしよう」
ビブライアの転生方法を思い出す。まずは転生したい生き物の書いてあるページを開く。そして、あとは転生の意思を示すだったか。
緊張と警戒をし続けていたこの部屋で初めて頬を緩める。そして、指先で名前を示したまま、自分のスタートを宣言する。
――死んだ後のストーリーを……。――二度目のストーリーの開幕を……。
「転生!」




