ケース3
泡島零という男は少し潔癖な所がある。トレードマークの黒いキャップ帽を被り直すと、零は侑馬に近づいた。
「よっ! 今日の任務は終わったのか?」
人の往来が多い歩道でも、一際目立つ高身長な侑馬に声をかけた。
「零か。今日は非番だ」
「お〜! じゃあ、お前の家で新作のゲームやろうぜ」
自分よりも背の高い侑馬を見上げると、彼は頷いて了承した。
「良いぞ。秋斗も呼ぶか?」
「げっ! あいつは直ぐにベタベタしてくるからな」
秋斗の名前に明らさまに零は顔をしかめた。人に触られるのが嫌いな零にとって、距離感の近い秋斗は苦手な存在だった。
「別に嫌いじゃないけどなぁ」
「ん、メッセージが来た」
スマホを操作する侑馬の手元を、零はジッと眺める。
そして――
思わず吹き出した。
「あっははは!! お前、何でスマホの壁紙がスーパーの卵なんだよ!!」
お腹を抱えて爆笑する零を、侑馬は不思議そうに見つめる。侑馬のスマホの壁紙は、スーパーのパックで売られている卵の写真だった。
「秋斗が幸運になれる写真だと教えてくれた。お前もどうだ?」
純粋無垢な瞳で見つめてくる侑馬に、ますます笑いが止まらなくなる。
「ひ、ひぃ、ふはっ、お前、最高だよ」
零は無意識に侑馬の背中をバシバシと叩く。侑馬は首を傾げながら、零を見ていた。
「なんだ?」
「幸運を呼ぶスーパーの卵……面白すぎる……」
「まさか、また俺は騙されたのか……?」
ショックを受けた侑馬は、肩を落として目を伏せる。零は満面の笑みで、侑馬に言い放つ。
「お前は騙されやすいからな〜」
「そうか……」
「あ、龍一と秋斗だ」
侑馬は顔を俯かせていたが、零の言葉に勢いよく顔を上げる。
「どこだ?」
「ほら、あそこ。四人で昼飯を食べに行かないか?」
「いいな。そうしよう」
二人は龍一と秋斗に声をかけに行った。
◇
「それで、幸運の卵は効果あったか?」
秋斗はニヤニヤと意地悪げな笑みを浮かべて、侑馬に話しかける。短い黒髪に赤い瞳。凛々しい顔立ちの青年だ。
「ぶはっ!」
秋斗の言葉に零は吹き出して、机に肘をついて顔を押えながら笑いを堪える。
「秋斗、俺を騙して遊ぶな」
「効果はなかったか〜」
秋斗は悪びれた様子もなく、ニヤニヤと笑っていた。
「俺、ドリンクバーを取りに行ってくるわ。侑馬の分も取ってきてやるよ」
「やめてよ。また、変なジュース作る気だよね」
席を立ち上がった零に、呆れたような声で龍一が注意する。
「色んなやつ混ぜた方が面白いだろ?」
「それを侑馬に飲ませないでって言ってるんだよ」
半目で咎めてくる龍一に対して、零は雑に返答をする。
「はいはい」
くるりと背中を向けた零に、秋斗が言い放った。
「あ、零。ドリンクバーは、一度に一つしかコップを取ったらダメだぞ」
その言葉に――
侑馬は納得してしまった。
「そうだったのか」
その場にいた三人は口を半開きにして、侑馬を凝視した。
「どうした?」
「いやいや! 何で納得してるの?」
龍一は隣に座る侑馬の肩を掴んで言い聞かせる。
「そんなルールあるわけないから! 騙されないで!」
龍一の言葉を聞いて、侑馬は目を見開く。
「そうなのか……」
「あはは! 騙されやすすぎる!」
龍一と侑馬を見ながら、秋斗は額に手を当てて笑っていた。
「侑馬〜! お前ってやつは、本当に……」
零は侑馬に近づいて、彼の頭を撫で回した。
「ちょっと……」
龍一が零の手を掴む。
すると――
零は少し嫌そうに手を引いた。
「ああ、ごめん。そういえば触られるの嫌いだったね」
「あ〜。大丈夫……」
二人の様子を見て、秋斗が呟く。
「侑馬に触るのは良いのかよ」
「こいつは……なんかデカイ犬みたいだからな」
それを聞いた秋斗は、意地の悪い笑みを浮かべてジュースを口にした。
「へぇ……」
目を細めながら、秋斗は意味深な視線を送る。
<資料集>
沢田 侑馬 ⇒ 騙されやすいピュアな子。友人相手なら、何回でも騙されてしまう。
相川 龍一 ⇒ おかん気質。侑馬に対して少し過保護。
泡島 零 ⇒ 軽い潔癖症。侑馬はデカイ犬だと思っている。
水輪 秋斗 ⇒ 底の見えない愉快犯。色々理解した上で、人を転がすのが好き。性格悪い系男子。




