第八十三話 この世界で
次回最終話です。
「はっ……」
意識が戻った時、私は見知った森の中に立っていた。だが、ネブラの城は何処にもない。魔の気配も、赤い霧も、何一つ残っていなかった。
「……ここが、再構築された世界」
私は静かに息を吐いた。風が木々の葉を揺らす音だけが響く。魔界と人間界の境界は完全に断たれた。この世界に、魔はもう存在しない。
「……」
ふと横を見ると、半透明の人影があった。――幽霊だろう。そして、冥界で見た無数の人影よりも姿がハッキリとしていた。遠目から見たら幽霊だと気づかないだろう。
私はゆっくりと近づき、その背後から静かに拳を振り下ろした。幽霊の頭部が裂け、姿が霧のように薄れ、消えていった。
周囲を見回せば、森の奥にも、街のほうにも、無数の幽霊が漂っている。全てを葬ることはできない。ハデスが言っていた人間に害を及ぼす悪霊。それだけを葬るべきだろう。
「あの子、どうしたんだろう?」
「……迷子じゃないか?」
遠くから、住宅街の住人達のひそひそ声が聞こえてくる。
私はルイーナの姿から自分の本来の姿へと戻った。
「……あれ、さっきの子は?」
「遠くに行ったんじゃないか?」
私は微笑み、人々の間を歩き始めた。
ネブラも、モラも、スパティアも、神々も、母も――この世界では、もう誰とも出会うことはない。だが、6000万人の命が、この世界の中に存在している。私はあの残酷な未来を変える事が出来た。
「……皆」
私は青く晴れ渡った空を見上げ、そう言った。
「……見ていてね」
風が頰を撫でた。遠くで、子供達の笑い声が聞こえる。命の価値は確かに存在する。だとしても、私は選んだ選択に後悔はしたくない。
私はゆっくりと歩き出した。此処には誰も私を知る人はいない。けれど、心の中には、確かに皆の想いが残っている。
この世は残酷だ。だからこそ、自分が……皆が愛したこの世界を、守り続けていこう。
「……頑張るから」
空は、どこまでも青かった。




