第八十一話 時間
「なんか、凄いことになっちゃったね……」
「それは最初からでしょ」
私はモラと、夜空が映る窓ガラスに寄りかかりながら、話していた。
「……私たちの選択は、大勢の人の人生を変えることになる」
モラは小さくそう言った。
「そうだね。魔に人生を奪われた人達は、救われる。でも、助けられた人達は……」
「私も、その一人かもしれないね」
「……えっ?」
私は思わず息を飲んだ。
「私は子供の頃、大きな事故に遭ってるから。もしあの時、悪魔が助けてくれなかったら……私はもう、この世にいなかったはずだからね」
「……でも、分からないよ。大きく世界が変わったら、事故があった未来も変わるかも!」
「……そうだね」
モラは窓に映る自分の姿を見つめながら、そう言った。
「でも、私たちはもう二度と出会うことはないと思う。私は契約がなければ不老じゃない。この時間軸では、私は存在しないから」
「……!」
その言葉に、私の胸の奥が締め付けられた。
「私は本来なら、とっくに死んでいたんだよ。ただ、死を先延ばしにしていただけ。もし、再び会えた時……私は、レナを覚えていないだろうね」
「……モラ」
声が震えて、言葉が出てこなかった。
目から、涙が溢れ落ちていく。
モラはそんな私の顔を見て、微笑んだ。
「そんな顔しないで!もし……もしも、また私に会ったら、話しかけてくれる?そして、もう一度……友達になってくれないかな?」
私は小さく頷くことしかできなかった。
モラは満足そうに頷くと、窓の外の夜空に視線を移した。
「……そうだ。ネブラにも、お別れを言っておかないと」
モラはそう言うと、私の手をそっと引いた。
そして、私達は静かに奥の部屋へと消えていった。




