第八十話 破壊
「所有権を破壊神ペルデレに譲渡しろ。さもないと――境界を壊す」
「……脅迫か。壊せるとでも言うのか?」
「逆に壊せないとでも思ってるの?」
ルイーナは“破壊”の能力を持っている。今の私には、境界すらも壊せる自信があった。
「人間が滅べば、神も消滅する。……これは、一番アンタらが嫌がることじゃない?」
私はそう言った。
「……」
「アンタはいつでも私を殺せるんだろうね。でも――殺されたとしても、私は能力を発動する」
「……」
ハデスは黙ってこちらを見ている。
私は唾を飲み込んだ。
「……条件を飲むなら、受け入れてやろう」
ハデスが静かに言った。
「何だ?」
ネブラが問いかける。
「……破壊神は、世界を再構築しても記憶や状態の維持が可能だな。それは他者にも適用できるのか?」
ハデスはペルデレに視線を向けた。
「そうだ」
「条件は一つだ。記憶と状態を維持したまま、人間界に留まることだ」
「……何でそんなこと!」
モラが声を上げる。
「人間界で幽霊を見たことはあるか?」
「えっ……あんまりない、かな」
「それは神が屠っているからだ。境界が消滅すれば、魔は人間界に存在しなくなり、神も消滅する。そして、幽霊を屠る者もな。霊力の強い幽霊ほど、人間に害をなす。――言いたいことは分かるな?」
「……幽霊を殺す存在がいなければ、人間は滅ぶってことね。その役割を、私にやれってこと?」
私はそう言った。
「その役は我でもいいだろう?」
「悪魔は人の目にも見える。混乱を招くつもりか?」
「じゃあ、私も一緒にレナと――」
「二人以上の維持は出来ないだろうな」
ハデスが遮るように言うと、ペルデレは目を逸らした。
「……分かった。お願い」
私はきっぱりと言った。
「待ってよレナ……いいの?」
「そうだ……そこには何もないぞ」
二人がそう重ねて言った。
「良いんだよ。元々、私が始めたことだから」
私は静かに答えた。
「……破壊神と誓約を結べ」
ハデスがそう告げた。
「誓約……契約みたいなもの?」
「一方的に縛るものだ。口約束では意味がないからな」
ハデスはそう言って、ペルデレを見る。
「……チッ」
ペルデレは舌打ちした。
やがて、記憶・状態維持を私のみにすること、境界の存在を消去し世界を再構築すること。またその間は、私達に危害を加えない事が告げられた。
それを聞いたハデスが、ゆっくりと口を開く。
「異界の境界をここに、破壊神ペルデレへ譲り渡そう」
その瞬間、ペルデレの目が大きく見開かれた。
「……では、戻すとしよう」
次の瞬間――辺りは真っ白に染まり、私達以外のものが消えていく。
「……もしかして、もう消えていってるのかな」
モラが小さく呟いた。
私は服を強く掴んだ。
「レナ、昨日言ったでしょ?」
モラはそう言って、微笑んだ。
――あれは、昨日の事だった。




