第七十九話 取引
気がつくと、私達は冥界にいた。
「……あれ?」
周囲を見渡したが、モラとネブラの姿が見えない。まだ来ていないのだろうか。傍には、ペルデレが浮かんでいた。
「……そういえば、何で肉体再生が封じられていたのに、肩から上は再生しているの?」
「意想外な力とだけ教えただろ」
「でも今、私達が殺されないってことは、魔力が使えないってことでしょ?結構時間も経ってるのに」
「……」
「……もしかして、全魔力を肉体再生と意識の維持に使ってるとか?でも、それなら私達を先に殺した方が良いか。考えられるのは……あの時、本当は一度死んでいて、蘇生に莫大な魔力を使った。でも魔力が足りなくて、その“負債”を今も返し続けている、とか」
「どうだろうな」
その瞬間、周囲にモラとネブラの姿が現れた。
「わっ……ルイじゃなくてレナ、もう着いてたんだ」
「行くぞ」
私達は淡く光を放つ場所へと向かった。魂の群れの間を縫うように進み、やがて――光のすぐ近くまで辿り着く。そこには、異形の存在が立っていた。
「人間、悪魔……精霊か」
異形はそう言った。私は今、能力でルイーナの姿へと変わっている。それでも見抜かれている。
「えっと……ハデス様?」
モラは恐る恐るそう言った。
「逕溘″縺ヲ蟶ー繧後k縺ィ諤昴≧縺ェ」
異形は、理解できない言葉を発した。
「……断る」
そして、はっきりとそう言った。
「何がだ?」
ネブラがそう問いかけた。
「境界所有権の譲渡だ」
「えっ……」
モラが驚いた声を漏らす。
私達は何も話していないはずなのに、何故分かったのか。――そしてやはり、こいつがハデス。
「それはこちらとしても困るんだ。知らないかもしれないけど、人間界の国が一つ滅んで、6000万人が死んだんだよ」
「それが理由になるか?……まだ人間は存在するぞ」
「……交渉は無理か」
私は小さく呟いた。
「そういえば、私達がスパティアと戦った時、ハデス様いなかったよね」
モラが袖を引き、小さく言う。
「いたぞ。彼処からは非常に離れていたがな」
(……見ていたのか)
「見てたの?」
「世界の均衡が保たれる限り、干渉はしない」
「じゃあ、今の私達は危険因子ってこと?」
私は微笑み、ポケットから手鏡を取り出した。開き、その表面に指を触れる。
「さて――取引をしよう」
私はそう言い放った。




