第七十六話 反魂墓地
意識が戻り、目を開けると、そこは御稜威山の山頂だった。目の前にはパナケイアが佇んでいる。
「……気がついたか」
「……何で此処に?」
「結末を見届けようと思ってな。其方と破壊神を探していたのだ。そこで瀕死の其方を見つけたという訳だ」
「そう助かった。……周りにネブラとモラはいなかった?」
「見ていないな」
「でも、いたんだよ。少し変だったけど」
「何処がだ?」
「言葉があまり上手く喋れていなくて……気のせいかもしれないけど、体が少し透けて見えていたし」
「……あの女か」
「あの女?」
「隣国にいる死霊使いだ。我の予想が当たっているのなら……そこに二人はあるぞ。反魂墓地にいる事が多いな」
パナケイアはそれだけ言うと、姿を消した。
死霊使い……死者や幽霊を操る能力を持つ者。反魂墓地は聞いたことがある。人間の間で語られる都市伝説の一つだ。その墓地では、死体が息を吹き返すと言われている。
「……待ってて、二人共」
私は隣国に向かった。そこで、ムリエルに反魂墓地の場所を聞き、辿り着いた。
「……ありがとう」
私はそう言い、ムリエルに頭を下げた。
日が落ち、辺りは静まり返っていた。
「……夜の墓地は不気味だな」
「そうかしら?アタシはここ、夜が一番輝ける場所だと思うわ」
声のした方へ振り向くと、一人の黒髪の女が立っていた。
「あなたが死霊使い?」
「そうよ。アンタはペルデレの眷族よね?聞いたわよ。破壊神を討ち取ったって。凄いじゃない」
「それで……」
私が口を開こうとしたその時、死霊使いは掌に淡い光を浮かべた。
「アンタが探しているのは、コレでしょ?」
「それって、もしかして……」
「――魂」
嫌な予感が走った。二つの魂。死霊使い、言語能力の低下、半透明化。――もしかして二人は既に死んでいて、幽霊状態の二人をこの死霊使いが操っていたのではないか?
「ネブラとモラ……」
「人間と悪魔の幽霊が彷徨っていてね。二人共、何かを呟いていたのよ。何て言っていたかしら。確か……『待って』とかかしら」
「……!」
「幽霊は基本的に言葉を発することはできないんだけど、よほどの未練があったみたいね。そこで、近頃耳にした話を思い出したのよ。ペルデレに喧嘩を売った愚人がいるってね」
「……愚人って」
「それがこの二人だとしたら、アタシの選択で戦況が変わるかもしれない。そう思って、二人を仮死状態にしたのよ」
「仮死状態?」
「えぇ。アタシは蘇生はできない。だけど、一時的に息を吹き返させることはできるわ。アタシの力を与えて、だけどね」
「それで言葉が途切れ途切れだったの?」
「えぇ。アタシから距離が遠いほど、力が弱まるからね」
「……もう一度蘇らせてくれない?」
「良いけど……別れの言葉かしら」
「えっ?」
「力を使い果たしたら幽霊に逆戻りするわ。そして今は、アタシの能力で魂として手に収まっている。力の許容量は決まっていてね。理由としては、魂が耐えられないのよ。蘇生の負荷に」
「つまり、もう……」
「えぇ。もう一度やれば、程なく消滅するわ」
「……」
私は言葉を発することができなかった。
――もう二人は。
「それで?早く決めてちょうだい。アタシは魂として保持しているだけで、かなり魔力を使うのよ。魂を操る能力って訳でもないからね」
「……」
もう一度会いたい。けど、そうすれば二人は消滅する。でも、このまま死霊使いが持っていれば、何か打開策があるかもしれない。それを探せば――
「……今決めて。あんたが決められないなら、この魂は離すわ」
「……!何で?」
「言ったでしょ。持っているだけで重りになるのよ」
どうすればいい。二人を失いたくない。けど――
「……あんたらは、人間達から極悪人と言われるのかしら」
死霊使いは笑ってそう言った。
「えっ?」
「そうじゃない?よく考えてみなさい。国一つが滅んでいるのよ。大体6000万人が死んだわ。あんたらのせいで」
「……何言ってんの?殺したのは――」
「破壊神ペルデレ。……本当にそうかしら?こんな大きな戦を起こさなければ、死ぬことはなかったんじゃないかしら」
「……」
「復讐ね。……良いんじゃない?命の価値は人によって違うものだし。まあアタシの事じゃないし、どうでもいいんだけど」
「……?」
何故、この言葉は私に響かないのだろうか?二人に会えないと考えると胸が締め付けられる。それなのに、人間が多く死んだことには何も感じない。
つい先日、人を殺した。そのことには罪悪感を抱いている。自分の手で殺したからだろう。魔は人間に興味を抱かない。――これが、そうなのだろうか。
「……蘇らせて」
「分かったわ」
死霊使いが手を開いた瞬間、辺りが光に包まれた。
再び視界が開けた時、ネブラとモラが立ち尽くしていた。
死霊使いはこちらを見て微笑むと、そのまま立ち去った。




