第七十話 無知と命
――破壊神がそのままの状態でいると思うか?
確かにその通りだ。破壊神があの状態で何も手を打たないわけがない。
「……」
考えていても仕方がない。私は破壊神を殺さなくてはならない。ネブラ、モラ、そして殺された皆の為にも。
「……行こう」
私は荒れ果てた荒野を歩き出した。
どれくらい歩いただろうか。私は隣国ヘラレクトル王国の街に辿り着いていた。そこには多くの人間がいた。
だが、人々は明らかに元気がなかった。隣の国が滅んだという事実に、不安と恐怖を抱いているのだろう。
近くで、一人の泣いている女を宥めている男の姿があった。
――夫婦だろう。
「……父さん、母さん」
女性は小さくそう呟いていた。
おそらく、あの国に彼女の両親がいたのだろう。
「……ねぇ」
声がした方に視線を向けると、一人の少年が私の服の裾を掴んでいた。
「……どうしました?」
私は咄嗟にそう言った。
実は私はこう見えても幼児が苦手だ。
「母ちゃんどこ?」
少年は迷子らしい。見た感じ、契約者でも魔でもない、ごく普通の人間の子供だった。
「一緒に探しますか?」
「うん」
少年は小さく頷いた。
「……君も」
この少年は私のことを何歳だと思っているのだろうか。
「うわっ」
私は袖を引っ張られ、仕方なく歩き出した。
だが、少年の母親は見つからなかった。
「……母ちゃん」
「死んだんじゃないでしょうか」
私は少年にそう言った。
「死んだって……なに?」
「肉体を離れた魂が、現世から冥界へと移行することです」
少年は首を傾げた。
「簡単に言うと、もう二度とその人には会えないってことです」
「嫌だ……母ちゃん」
少年はそう言うと、大きな声で泣き出した。
「ごめんなさい……でも、皆必ず死ぬ運命にあります」
私がそう言っても、少年は泣き止まなかった。
「イグ!」
視線を上げると、女性がこちらに向かって走ってきた。この少年の母親だろう。
少年は母親に抱きつき、声を上げて泣いた。
「うぁぁん、母ちゃん!」
「もう大丈夫よ」
母親は少年の背中を優しく撫でた。
「この子が怖いことを言ったの!」
少年がこちらを指差した。
「何ですって」
母親は表情を険しくして近づいてきた。
「あなた、親御さんは?」
「……」
「黙ってちゃわからないでしょう。そもそも親の教育がなっていないからこんな事になるんでしょうね。本当に親の顔が見てみたいわ。あのね、イグはね、あなたと比べてね――」
五月蠅い。
「とりあえず、親御さんを呼ぶからこっちに来て」
母親は私の腕を掴もうとした。私は咄嗟にその手を振り払い、強く突き飛ばした。母親は後ろに倒れ、地面に頭を打ちつけた。頭から血が流れ、母親はピクリとも動かなくなった。
「母ちゃん……?」
少年が母親の体にすがりつく。
「此れが死だよ」
私は血の溜まった地面を見下ろしながら、そう言った。周囲に人が集まり始め、ざわめきが広がっていく。私はその場を急いで離れた。




