第六十九話 神域
しばらく経った後、体がようやく動くようになり、私はゆっくりと立ち上がった。破壊神を遁してしまった。――今から会えたとしても、もう戦える状態ではない。
「……」
そういえば、神々はどうしているのだろう。この国はもう完全に崩壊している。そうなると、神域も無事ではないはずだ。神域が破壊されれば、神々は別の場所へと移る。
私は神々の様子が気になり、運命神モイラのいる霽月池へと向かった。
「……ここは酷いな」
霽月池はもはや原型を留めていなかった。神秘的だった水面は干上がり、ひび割れた地面がむき出しになっている。周囲の木々は根元からへし折れ、祠は瓦礫と化していた。
その近くには、モイラが静かに佇んでいた。
「モイラさん?」
私が声をかけると、モイラはゆっくりと振り向いた。
「あら、貴方は……邪神の眷族かしら」
「……もしかして、知ってたの?」
「見るたびに気配が濃くなっていたら、嫌でも分かるわ」
モイラはそう言うと、ゆっくりと歩き出した。
「何処に行くの?」
「決まっているでしょう?場所を変えるの。この国に、もう人間はいないのだから」
モイラは少し哀しげに微笑んだ。
「待って!」
私が慌てて引き留めようとしたが、モイラは振り返ることなくその場を去っていった。
私は他の神々が気になり、数多の神域を回った。
しかし、誰も残っていなかった。最後に、私は鬼神ダイモーンのいる旧糾縄集落跡へと向かった。
旧糾縄集落跡は、崩れかけた石壁や朽ちた木造の残骸が至る所に散らばり、地面は大きく裂けていた。
――もう集落跡とも呼べないだろう。
その近くには、ダイモーンが佇んでいた。
こちらに気付くと、彼は静かに口を開いた。
「お前は破壊神の眷族か」
やはり、神々は皆私を知っているのか。
「破壊神の居場所を知ってる?」
「知らないな。貴様は探しているのか?」
ダイモーンの問いかけに、私は頷いた。
「貴様らは闘いに敗れたのだろう?探す意味などないのではないか」
「破壊神が弱っている今がチャンスなんだ」
「だから何だ。貴様は今、闘えないのだろう?」
「そうだけど……回復すれば」
「その間に破壊神も回復する」
ダイモーンは冷たく言い放った。
「それはないよ。左脚と左腕の再生は封じられているから」
「破壊神がそのままの状態でいると思うか?……まあ、せいぜい良く考えるが良い」
私が何か言い返す前に、ダイモーンは背を向け、その場を立ち去った。
淀んだ風だけが、この場所を吹き抜けていった。




