第六十五話 死に損ない
「……随分と魔力を略取された。魔力量も其処の悪魔と同等といったところだな」
ペルデレは低く笑いながら言った。
弱体化を受け、封印術で半分以上の魔力を削り取られたはずなのに――その魔力量は、まだネブラとほぼ互角に見えた。
「万が一の事態になったら……」
私は小さく呟いた。
「ネブラ、絶対勝つよ!」
モラが血まみれになりながらも、必死に声を張り上げた。
「そのつもりだ」
ネブラは短く答え、ハルバードを構えた。
二人が同時に動いた。ネブラが高速で間合いを詰め、ハルバードを連続で振り下ろす。ペルデレは右腕だけでそれを弾き返しながら、逆に強烈な拳を叩き込む。ネブラは辛うじて回避したが、衝撃で体が吹き飛び、石畳を砕きながら転がった。
「ネブラ!」
モラが叫びながら魔力を放ち、ペルデレの右足を拘束しようとする。しかしペルデレは軽く踏み込むだけで魔力を四散させ、モラに迫った。
ネブラが血を吐きながら立ち上がり、ペルデレの背後に飛びかかろうとした瞬間、ペルデレは振り返りもせずに蹴りを放った。ネブラは再び吹き飛ばされた。
モラが再び魔力を放とうとしたその時、彼女は大量の血を吐き、そのまま崩れ落ちた。
「ネブラ……モラ……!」
私は思わず叫んだ。胸の奥で、何かが熱く煮え立った。
「……」
私はゆっくりと前に歩み出て、スパティアの残した空間に入った。
――ここの空間だけ消えていないのは、スパティアが残したのだろう。彼は死ぬことが分かっていたのか……?
「レナ……?」
ネブラが掠れた声で呼んだが、私は答えなかった。
ペルデレがこちらに視線を向ける。私は倒れたモラのすぐ前に立ち、ペルデレと真正面から向き合った。
「……ごめん、二人共。これ以上は見て見ぬふりはできない」
私の声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
「痴愚な眷族ではないか。狎れ合いは愉快であったか?」
ペルデレはわずかに目を細め、嘲るように言った。
「黙れ、死に損ないが」
私がそう言うと、ペルデレは退屈げに表情を歪めた。
「……お前には興が乗らん。失せろ」
ペルデレが冷たく言い放つと、私はゆっくりと背を向けて歩き出した。
「……」
ネブラが黙ってこちらを見つめているのが分かった。
その瞬間、私はくるりと振り返り、ペルデレに向かって光の矢を放った。
「……!?」
ペルデレは間一髪でそれを回避し、鋭くこちらを睨んだ。
「……何事だ?」
「ごめん、モラ。借りさせてもらったよ」
私はそう言いながら、耳につけた水晶のイヤリングに指を触れた。
「其れは以前の首飾りに酷似した……なるほど。回環的存在物か」
「……回環的存在物?」
聞き慣れない言葉に、私は思わず問い返した。
「存在を抹消したとしても、新たにその存在に似た物が生まれる。それが回環的存在物というのだ」
「……何故、お前は首飾りを欲しがったんだ?」
「時間干渉には莫大な魔力を消耗する。俺は以前の世界干渉により魔力が枯竭していた。そこで、魔力を纏う首飾りを用いただけだ」
「……そんな事ができるの?」
私がそう言うと、ペルデレは嘲るように笑った。
「陳腐な其事よりも、その耳飾りの功能を示せ」
「後に殺す奴に教えると思うか?」
その言葉を最後に、私は静かに一歩、ペルデレに向かって踏み出した。




