第六十二話 再開
「……そんな」
私は思わず、言葉が漏れた。
スパティアが強いと断言した助っ人でさえ、破壊神には通じなかった。――それでも、ペルデレもまた満身創痍だ。このまま押し切れば……。
「……行ってくる」
スパティアは短く告げると、そのまま空間の裂け目へ足を踏み入れようとした。
「待て。まだ回復は終わっていないぞ」
パナケイアの声が、静かにそれを制した。
「我が元々、始めたことだ」
スパティアは振り返らずに言う。
「……その有様では勝機はない。もう少し待て。完全回復させてやる」
「どうして、そこまでする?」
スパティアが問いかける。パナケイアは一瞬だけ視線を向け、淡々と答えた。
「破壊神を打ち滅ぼすこと――それが、神々の本懐だからだ」
それだけ言うと、再びスパティアへと手をかざし、黙々と再生を進め始めた。
「……ここまで窮地に立たされたのは、久方ぶりだ」
ペルデレは低く笑った。左腕と左脚を失った今も、その声音には余裕が満ちている。むしろ、その傷すら愉しんでいるようだった。
「いくよ、ネブラ」
モラがそう言い、両手を突き出す。巨大な魔力シールドが展開され、押し潰すようにペルデレへと突進する。同時にネブラが動いた。
「キロプテラ」
無数の黒いコウモリが空間を埋め尽くし、魔力シールドの死角からペルデレを包み込む。
だが――ペルデレは右腕を軽く振るっただけだった。
衝撃波が走る。魔力シールドは粉々に砕け、コウモリは一瞬で霧散した。
モラの目が見開かれる。
ネブラもわずかに表情を強張らせた。
「これで終わりか?」
ペルデレが一歩踏み出す。右足だけで地を踏み抜いたその瞬間、地面が波打ち、二人の足元から無数の岩が突き上がった。
「……っ!」
モラは咄嗟に魔力シールドを張る。ネブラはハルバードを回転させ、迫る岩を薙ぎ払った。辛うじて回避し、二人は距離を取る。
「ほら、来ないのか?」
ペルデレは退屈そうに言った。
「ステラ・テネブリス」
ネブラが呟くと同時に、ペルデレの周囲に黒い穴が開き、強烈な重力がその身を包み込む。
だが――ペルデレは微動だにしない。
「……またこれか」
ペルデレは右腕を軽く振るっただけで、黒い穴を内側から砕いた。生じた傷も、数秒で跡形もなく消える。
ネブラはハルバードを構え直し、モラも再びシールドを展開する。視線を交わし、二人は同時に踏み込んだ。
だが――次の瞬間、二人の体が同時に弾き飛ばされた。モラは石畳に叩きつけられ、ネブラは城壁へと激突した。
「……何が、起きて……」
モラの声が震える。
「……がはっ」
ネブラは血を吐きながらも、なんとか身体を起こそうとする。
「……もう、魔力が……」
モラはその場に倒れ込み、血を流していた。
ゆっくりと、ペルデレが近づいてくる。
「終わりだな」
右腕を振り上げる。ネブラへ、確実にトドメを刺す構えだった。
「誰か……助けて……」
モラが掠れた声で呟く。
――その瞬間。空間が、大きく裂けた。
「先刻は、過剰な挨拶ではなかったか?」
冷たい声が響く。
裂け目の中から――スパティアが姿を現した。




