第五十九話 常道
アニムスがペルデレへと迫る。しかし、ペルデレはその場から微動だにしなかった。――いや、動けないのか?次の瞬間、周囲の瓦礫が一斉に浮かび上がり、ペルデレへと猛烈な速度で飛来した。空気を裂き、弾丸のように襲いかかる。
いくつかの瓦礫が直撃し、ペルデレの肩を抉った。鮮血が飛び散る。
「……念能力の類いか」
ペルデレは低く呟く。だがその足は止まらない。傷口は数秒で再生し、抉れた肉も跡形もなく消えていた。
アニムスはさらに強力な念を放つ。ペルデレの動きを縛り、その場に押し留めようとする。しかし、ペルデレの歩みは、止まらない。
見えない圧力を押し返すように、一歩、また一歩と前へ進む。
「この程度か」
次の瞬間、ペルデレの姿が消えた。一瞬で距離を詰め、アニムスの胸の中心へ拳を叩き込む。だが――拳は空を切った。アニムスの身体を、すり抜ける。
「……ほう」
ペルデレは、わずかに眉を動かした。
「……魔力を纏わせてるんだ」
モラは小さくそう呟いた。
その刹那、アニムスが反撃に転じた。瓦礫が再び浮かび上がり、先程の倍以上の速度でペルデレへと殺到する。だが――ペルデレは動じない。右手を一振りするだけで、飛来する瓦礫をすべて叩き落とした。
打撃音が連続して響く中、ペルデレは静かに口を開く。
「魔力を反発し、霧散させる……それが其れの性質か」
たった一度の交錯で、ペルデレはアニムスの本質を見抜いていた。
アニムスはなおも攻撃を続ける。だが、ペルデレは構わず踏み込んだ。迫る瓦礫を砕きながら、そのまま拳を振り抜く。
――今度は、すり抜けなかった。
アニムスは粉々に砕け、身体から黒い光が引き抜かれるように溢れ出し、霧となって消滅した。
「……っ」
モラが息を呑む。
ネブラも、わずかに目を見開いた。
「……」
ペルデレはゆっくりと拳を下ろし、振り返った。
「次は、お前らか?」
その言葉が終わる前に――遠くで空間が裂けた。
遠方の裂け目から、円錐状の穂先を持つ槍が高速で射出される。幾重にも重なりながら、四方からペルデレを貫こうと迫った。
だが、ペルデレは、わずかに首を傾けただけだった。
すべての槍が、その軌道を外れる。
「……ほう。あの悪魔か」
嘲るように笑い、右手を軽く掲げる。次の瞬間、放たれた魔力が一直線に空間の裂け目へと突き刺さった。
裂け目の向こうでは、スパティアの身体が大きく揺れ、鮮血が宙に散った。
「っ……!」
そのまま空間は歪み、強制的に閉ざされた。
静寂が落ちる。
「……何が、起きたの?」
モラが眉をひそめる。
ネブラは答えない。
ただ、遠くを見つめていた。
ペルデレはゆっくりと二人に視線を戻し――口元に、薄く笑みを浮かべた。




