第五十八話 隔たり
「さあ――いざ、闘おうではないか」
ネブラはハルバードを顕現させた。刹那、地面を蹴り、ペルデレへと突進する。しかし、ペルデレは微動だにしなかった。ただ、ゆっくりと右手をハルバードに触れた――その瞬間、粉々に砕け、霧散した。
「なっ……」
モラの目が見開かれる。ネブラは怯むことなくハルバードを再顕現させ、低く呟いた。
「キロプテラ」
黒いコウモリの群れが空間を埋め尽くす。コウモリはペルデレへと迫る。だが、ペルデレは拳を振るった。その瞬間、周囲に衝撃波が走る。
「……っ」
モラは思わず腕で顔を庇った。
「……何?」
モラが目を開けた時、周囲には大量のコウモリの死骸が散らばっていた。
「この程度で粋がっているのか?」
ペルデレはそう言い放った。
「……何だって!」
モラは唇を噛み、両手を広げて大規模な魔力シールドを展開した。シールドを壁のように押し出し、ペルデレへと叩きつける。
だが、ペルデレが拳で軽く触れただけで、シールドは音を立てて砕け散った。
「感情に動かされるな」
ネブラが即座に動き、モラの前に立った。
「ステラ・テネブリス」
その瞬間、ペルデレの周囲に黒い穴が開き、強烈な重力がその身を包み込む。ペルデレの体が、わずかに傾いた――かに見えた。しかし、次の瞬間。
「ふん……」
ペルデレが拳を振るうと、黒い穴は内側から爆散した。風が四散し、ネブラの技はあっさりと無力化された。
「っ……!」
ネブラの顔に焦りが浮かんだ。その隙を突くように、ペルデレの視線がモラへと向く。
「まずは障礙なお前からだ」
ペルデレから魔力が放出される。モラを狙い、一直線に放たれた。
「モラ!」
ネブラが叫ぶが、距離が遠すぎる。モラは目を大きく見開き、咄嗟にシールドを張ろうとしたが、間に合わない。魔力が迫る。
――その瞬間、空間が裂けた。
アニムス――魂の集合体が裂け目から飛び出し、モラの目前に現れる。魔力はアニムスに触れた瞬間、霧散した。
「……頼んだよ」
モラはアニムスを見つめ、大きく息を吐いた。
ペルデレは、わずかに目を細める。
「……我を興じさせてみろ」
余裕の笑みを浮かべ、そう言い放った。




