第五十六話 存在
御稜威山に向かうと、小さな祠からパナケイアが現れた。その側には、上半身だけのスパティアが宙に横たわっていた。
「一ヶ月程度では到底、再生しきれないぞ」
パナケイアは淡々と言った。
「あと10日だよね」
モラがそう返す。
「この調子だと、二人で戦うことになるな」
「無理じゃない? 協力者を探しに行こうよ」
モラは軽く言った。
「……げほっ」
スパティアが小さく咳き込んだ。
「上半身しかないのに……普通に喋ってる」
思わず、私は呟いた。
「肉体再生により、意識を保っているのだ」
パナケイアが簡潔に説明した。
「……破壊神と直接対面することは出来ないが、援護はする。それに――君達の話の通りなら、破壊神は弱体化しているはずだ」
スパティアが静かに言った。
「なんで?」
モラが問い返した。
「世界や時間の干渉は、莫大な魔力を消費する。アモーレを失った日から300年間……実際に、破壊神は勢力を大きく落としていたからな」
スパティアはそう言って、遠くを見た。
「それに、力強い助っ人も呼んでいる。……おそらく、加勢してくれるだろう」
「誰だ?」
ネブラが問うが、スパティアは目を閉じ、それ以上は語らなかった。
「神様が無理なら、魔界でもいいから協力者を探そうよ」
モラがネブラに向かって言う。
「簡単に言うが……我らが誘ったことで、死人を出すかもしれないのだぞ」
「……そうだよね」
モラは視線を落とした。
「……私も、スパティアと共に援護に回る。皆で破壊神を倒そう」
私がそう言うと、二人は静かに頷いた。
城へ戻ろうとしたその時、パナケイアが口を開く。
「……待て。これを持っていけ」
差し出されたのは、水晶でできたイヤリングだった。
「……これは?」
モラが受け取りながら尋ねる。
「かつて、製造神から貰ったものだ。詳しい効果は知らんが、受けた災いを幸福に転換できるものだ」
「……水晶のネックレス……」
思わず、私は呟いた。
「どうしたの、レナ?」
モラが不思議そうにこちらを見る。
「……何でもない」
私は小さく首を振った。
モラはイヤリングを耳につけ、くるりと振り返った。
「ねえ、可愛い?」
「帰るぞ」
ネブラはそれだけ言った。
「えー、可愛いでしょ!」
モラが頬を膨らませる。
――水晶のネックレスは、破壊神に譲ったことで存在が消えたはずだ。それなのに――似た性質のものが、再び現れている。
元々パナケイアが持っていたのか、それとも――
私は小さく息を吐き、そのまま城へと戻った。




