第五十一話 記憶の輪郭
目を開けると、天井が見えた。側にはネブラとモラがいた。
「大丈夫、ルイーナ!」
モラが涙を浮かべている。
「一週間、意識を失っていたぞ」
ネブラが静かに言った。
「……そう」
私は短く答えると、そのまま城の外へ向かった。
「ちょっと、どこ行くの?」
「外の風に当たってくる」
引き止める声を背に、外へ出る。
そして、その場で立ち止まった。
「……思い出した」
小さく呟く。その瞬間――体の輪郭が揺らぐ。形が崩れ、ほどけるように変わっていく。――そして、“元の姿”へと戻った。
「……やっぱり」
――全て、思い出した。
私は駝荊毀壊城跡で意識を取り戻した時、記憶を失っていた。そして、そのまま記憶の川へと辿り着いた。あの時、私は川の水を吐いた。そして、その水をルイーナが口にしてしまったのだ。
聖なる水は破壊神の眷族には毒だ。だが――私の吐いた水は、既に性質が歪んでいた。その結果、本来起こるはずの魂の浄化ではなく、“記憶の流入”が起きた。
ルイーナの記憶が、私の中へと流れ込んだのだ。そして私は、その記憶と自分の姿が一致していたことで――自分自身をルイーナだと認識してしまった。
だから私は、“ルイーナとして”行動していた。森へ向かおうとしたのも、その記憶に引きずられた結果だろう。
だが、その後の記憶は欠落している。記憶の川での出来事と、森へ向かった記憶――その一連の流れが、丸ごと抜け落ちている。おそらく、流れ込んだ記憶の量が限界を超え、記憶そのものが分断されたのだろう。
記憶を取り戻せた理由も、ある程度は想像できる。私は血を流すたびに、微弱ながら再生する。その際、体内に残っていた破壊神の魔力が、徐々に私に適応していった。
回数を重ねるごとに、魔力は私のものとして定着していく。結果として、私自身の魔力量が増加した。魔力は認識力や記憶力にも影響を与える。それが増えたことで、これまで曖昧だった情報を再び拾い上げることができた。
途中で二人から聞いた“暴走”も、おおよその見当はつく。破壊神の魔力が一気に増えたことで、精神が耐えきれず、凶暴化したのだろう。
「……」
私は小さく息を吐いた。
記憶を取り戻した今、ここにいる理由はない。破壊神と戦うことはできない。それに――私は、ルイーナを穢してしまった。
こんなのは、死者への冒涜だ。これ以上、二人と一緒にいるのもおかしいだろう。だって――二人と友達なのは、ルイーナなのだから。
「……ごめんね、ルイーナ。……二人とも、バイバイ」
私はそう言い、城を一瞥する。
そして、その場を後にした。




