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Frange ruinam   作者: S
記憶編
50/85

第五十話 悪魔

……どれくらい、時間が経ったのだろう。再び意識が浮かび上がる。重い瞼を持ち上げる。視界がぼやけている。輪郭が定まらない。体も、どこか現実感がない。


けれど――


「……行かないと」


口が、勝手に動いた。理由は分からない。思い出せない。それでも、胸の奥に何かだけが残っている。


――殺さなければならない。


「……悪魔を」


言葉にした瞬間、それが“正しい”と理解した。私は立ち上がる。足元がおぼつかない。それでも止まらない。どこへ向かえばいいのかも分からないはずなのに、足は迷いなく森の奥へと進んでいった。



その瞬間、頭の奥に鈍い痛みが走った。視界が、急にはっきりとする。


森を抜ける風が、やけに冷たかった。足を止め、振り返る。そこには、以前と変わらない木々が立ち並んでいる――はずだった。


「……?」


違和感に、眉をひそめる。幹が太い。枝が高い。以前見た森より、かなり違って見えた。


「……悪魔の、影響……?」


そう呟いた瞬間、頭の奥がずきりと痛んだ。一瞬、視界が揺れる。何かがずっと引っかかっている感覚。思い出せない。けれど、確実に何かを忘れている。


名前だったのか。場所だったのか。

それとも——


「……っ」


思考を進めようとした途端、痛みが強くなる。まるで、記憶そのものを縛りつけられているような……私は深く息を吸った。今は、考える必要はない。考えるべきことは、一つだけだ。


あの城。赤い霧の向こうにいる、あの悪魔。

「……今度こそ、殺す」


あの赤い霧のもとへ向かった。



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