可愛い子どもたち
王城のエントランスホールは、閑散としていた。
魔獣に悩んでいることは聞いていたが、想像以上に手が足りないのかもしれない。
「「せーの! はじめまして!」」
どこからか響き渡る子どもたちの声。
ポポポポポンッ!
ポップコーンが弾けるような音とともに、城内に飾られた花のつぼみが一度に開いた。
風が吹いてくる。花びらが運ばれて花吹雪みたいに降り注いだ。
「……魔法だわ」
レーゼ王族は、ほとんどの者が魔法を使うという。
一方オーランド王国では、魔法はほとんど廃れてしまっている。
もちろん私も魔法を使うことができない。
図書館で読んだ文献に寄れば、戦う必要がないから退化したとか、精霊がいなくなってしまったなど諸説あるが……魔法があるはずのこの世界で、魔法が使えず見る機会もないことは残念に思っていた。
王城の柱の陰から、男の子と女の子が現れた。
男の子の髪は銀色で瞳の色は紫色。
女の子の髪は金色で瞳の色はお揃いの紫色だ。
先国王夫妻が亡くなり、六歳の王弟と五歳の王妹が遺されていることは聞いていた。
この色合いに年齢、装いから考えてこの子たちがライナス様の弟妹なのだろう。前世の弟妹を思い出した私は思わず涙ぐんだ。
「あの……? レティシアさまだよね?」
「ねえ……。どうして泣いちゃったの?」
アベルとエレナは、まるでおとぎ話の中から抜け出してきたように可愛らしい。
「目にゴミが入ってしまったみたい――お二人がアベル殿下とエレナ殿下ね? 私はレティシアよ。よろしくね?」
「「よろしくお願いします!!」」
二人は仲良く声を揃えた。
二人ともとっても可愛いわね――それが私の第一印象だった。
「アベル殿下、エレナ殿下。魔法と祈りの時間ですよ」
「「……うん」」
先ほどまで天真爛漫な印象だった二人の表情が陰る。
魔法と祈りの時間とは――と、私は内心首をかしげた。
恐らくこの国独自の勉強の一種なのだろう。子どもというのは勉強よりも遊びが好きなものだ。二人の表情が陰ったのもそのせいだろう。
子どもといっても王族なのだから、私のように自由気ままに放置されて育つわけではない。
このときの私は、そう考えた。
「ねえ、レティシアさまは、ずっとここにいる?」
エレナが不安そうに声を掛けてくる。
「陛下のお嫁さんになるんだから、ずっといるよ!」
「そうなの……?」
まだ幼い二人が兄であるライナス様のことを陛下と呼ぶことに少しの引っかかりを感じる。
だが結婚式が終わるまで、私はまだ客人の扱いだ。対外的な呼び方をするのは、当然なのかもしれない。私は二人に視線を合わせる。
「これから、ずっとここにいるわ」
「「本当に……?」」
二人の声が揃った。
先ほどライラに声を掛けていたアベルも、私がずっといるのか疑問に思っていたようだ。
もしかすると、敵国の姫が嫁いでくるがすぐに帰らせるつもりだとでも言われているのだろうか。
それにしては、様子がおかしい気もするが……。
「「じゃあ、またあとでね?」」
「ええ」
子どもたちが去って行く。
目立たないようにするにしても、子どもたちのお世話をするくらいは許されるはずだ。
このとき、私はそんなことを思っていた。
* * *
城内は全体的に暗い印象だ。
飾られているのは武器ばかり。
物々しい印象だが、もしかすると魔導具なのかもしれない。
「これは、もしかして神代の魔導具かしら」
「一目で見分けられるとは。レプリカも多く出回っておりますのに」
「……だって、魔石に刻まれた魔法回路が神代のものだもの」
「……お目が高い。おっしゃる通りでございます」
つい、禁書庫で得た知識を披露してしまった。
ここに伝わっている私の情報は、部屋からほとんど出てこない無能な王女だろう。
「あら、偶然当たってしまったようね」
「さようでございましたか」
私は、ごまかすことにした。
執事長も、偶然だと思ったに違いない。
執事長の案内で、次の部屋へと向かう。
廊下の途中で、鉄格子の扉と石造りの階段が目に入った。
王城は古い造りだが、何となくこの場所だけ異界にでも通じそうなおどろおどろしさがある。
「この階段は?」
「……王族だけが立ち入ることを許される祈りの間に続いております」
「そうなの」
執事長は、軽く眉根を寄せて扉の前を素通りした。
私はこの王国に嫁ぐために来たが、結婚式を挙げていない今、客人の扱いだ。
執事長は王族でないからこの先に行くことはできないし、私自身がまだ王族とは認められていないから説明されないのだろう。
階段の先に何があるのか気になりながらも、私はなぜか足早になった執事長を追いかけたのだった。




