天使の昇天
なぜか生きている。それが目を覚ましたばかりのシューノの偽らざる感想だった。
《デモンレイジ》を使ったのだ。シスイを助けることはもしかしたらできるかもしれない、とは思っていたものの、半分以上一緒に死んでやるつもりだった。自分が生きているなんてことは、想定外中の想定外だ。
上半身を起こして、辺りを見回す。それで全てを理解した。
「馬鹿野郎が……」
シスイが抱きかかえるエーリエルの亡骸に向かって、シューノはそうつぶやいた。そうとしか言えない。あの場面で自分が動かずとも、彼女はシスイを助けただろう。結局エーリエルがエーリエルである限り、いつかは起こる事態だった。それがたまたま今日で、助けられたのがたまたま自分だっただけの話だ。
長生きする聖人などいない。
だから、馬鹿だというのだ。
「お前はいつもそうだ……人の気持ちがわからない。俺がシスイを助けるのはいいんだ。俺とシスイの間には大きな借りがあったんだから。最後に不幸な誤解が解ければ、それで良かった。たとえ俺が死んだって、シスイは前に進めたはずだ……」
――だけど。
「お前が死んだらダメじゃないか……! さんざん恩だけ着せて、返す時間も与えずに死んじまうなんて。俺達いったいどうすればいいのか、わからないじゃないか! お前が死んだら、困るんだよ……」
亡骸はなにも語ってくれない。ただ仄白く光り始めて、その最後の名残すら、もう長くは保たないことを示していた。
最後までソリが合わなかった、とシューノは今までの彼女との想い出を回想する。敵として出会い、共に戦い、頬を打たれ、部下として働き……そして何度も助けられた。
思うことはいろいろあるが、これだけは断言できる。彼女は優しい人だった。この世界では、生きていけないほどに。
しかし、それは彼女が悪いのだろうか。
優しすぎる、なんて言葉がはたしてあっていいのだろうか。
シューノはいつしか、巨人の残骸が降りしきる空を睨んでいた。振り絞った声で叫ぶ。
「こいつが死んで――いいわけないだろッ!」
それは怒りだ。
欲のない透明な男が、人生で初めて渇望した。
この世界を変えたい、と。
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