5話 優先する理由2
クレマンが約束を破った理由を聞き、私はイライラとため息をついた。
(パトリシア、パトリシア、パトリシア! パトリシア!! いつもコレだわ!)
「……っ」
(クレマンは誠実で優しい人だから、親戚の頼みを断れなかったのも分かるわ。私だって婚約破棄された従妹がいたら、同じことをするでしょうから。でも、学園で噂になるほど女性(従妹)と親密な態度をとるのはどうかと思う)
これでは私と従妹のパトリシア嬢。どちらがクレマンの婚約者かわからない。
「そんなに彼女が苦しんでいるのなら、私がパトリシア嬢のお友だちになるわ。だってクレマンと私は結婚するのよ? 彼女があなたの妹のような存在なら。将来、あなたの妻になる私にとっても、彼女は妹だわ」
「ミレイユ……」
クレマンは驚いた顔で、パッと視線をあげて私を見た。私は手をのばして、そんなクレマンの腕をギュッと掴んだ。
「ね? あなたの重荷を私は分かち合いたいの! 二人でパトリシア嬢を支えましょうよ」
(純粋な善意で言えたら良かったけれど。今はそんな甘いことを、言ってはいられないわ! 私とパトリシア嬢が仲良くなれば……クレマンが従妹のパトリシア嬢と浮気をしているという、嫌な噂もきっと無くなるはずよ)
今まで婚約者の私とクレマンが、別々に離れて行動していたのがいけなかったのだ。
「そう言ってくれて、本当に嬉しいよミレイユ! やっぱり君は優しいね。僕もそれが良いと思っていたんだ……繊細な女の子同士の方がいろいろとね?」
「ええ、クレマン」
嬉しそうなクレマンの顔を見て、自分の意見が受け入れられたと思いホッと微笑んだ。
苦笑いを浮かべるクレマンの顔を見ると。クレマン自身もパトリシア嬢のことで困っているのだとわかった。私の中で淀んでいた浮気の疑いが薄れた。
──でも、ささやかな喜びを得たのも束の間。
「……けれどパトリシアが僕以外は他の誰とも、今は話したくないと言っているんだ」
「そんな……」
(つまりパトリシア嬢は私を拒んでいるのね? だからクレマンも私を遠ざけているの?)
クレマンは私の手を取り、指先にキスをした。
「だから……もう少しだけ、彼女をそっとしておいてやって欲しいんだ。僕も説得してみるから、お願いだよミレイユ」
「……っ」
結局、クレマンとの話し合いでは、少しも私の思い通りにはならなかった。
クレマンを上手く説得できたとしても。すべては従妹のパトリシア嬢の気持ち次第なのだということが、わかっただけである。




