47話 ミレイユの決断
パトリシア嬢との騒動が起きた直後に両家で行った話し合いで。その時は動揺し迷いに迷っていた私に、考える時間を与えるため。
苦肉の策でファーロウ家側が出した条件が、クレマンが下級文官試験に合格して王立騎士団付きの文官になることだった。
……でも、文官試験の結果に関係なく。クレマンとの婚約を継続するかどうかは、最終的に私の判断で決めて良いと双方が納得していた。
その決断をお父様に促され。私はしばらくの間、考え込んだ。
「私は……クレマンが文官試験を合格したら、婚約を続けて結婚したいと思います」
(今、決めてしまうのは違う気がするわ。……だってクレマンは、あんなに頑張っているから。だから私は最初に決めた条件を達成できたら、クレマンの期待に応えるつもり)
「ミレイユ、クレマン君が試験に合格しなかったら?」
「その時は、私も約束通りに婚約を解消します」
正直、今でもパトリシア嬢のことを思い出すと、ムカムカ、モヤモヤとした怒りが込み上げてくる。
「本当にミレイユは、それで良いのかい?」
「はい、お父様。本当に私と結婚したいのなら、クレマンにはたくさん頑張って欲しいので」
パトリシア嬢との騒ぎで味わった屈辱は、クレマンが文官試験を合格したら。私も彼の頑張りと誠意に答えるために、全部忘れると決めていた。
だからパトリシア嬢を優先するために。私との約束をたくさん破ったクレマンには、今度こそ絶対に私との約束を守って、下級文官の試験に合格して欲しい。
私はギュッ! と拳を握る。それを見て、なぜかお父様はニヤニヤと笑った。
「おやおやおや、なんと私の娘は勇ましいのだろう……」
「お父様……こんなふうに考えてしまう私は、傲慢ですか?」
私は急に自分が恥ずかしくなり、顔を赤くする。
「いや! 私の可愛い自慢の娘には、それぐらいの価値はじゅうぶんあるよ。ミレイユの言う通り、クレマン君はもっと努力しなければいけない」
「……っ!」
(もしかして私……お父様に揶揄われているのかしら?)
「ふふふっ……たまには娘と二人で話すのも、良いものだね」
「はい。私もお父様とお話が出来て嬉しいです」
(言われてみれば、今までお父様とこんなふうに二人で、じっくりと話すことはなかったわ。いつもお父様は忙しそうで、何か話す時は夕食か朝食の時にだから)
「クレマン君にも今の話と夜会のことを、ミレイユから話しておいてくれ」
「はい、お父様。さっそく明日の朝に話します」
お父様は満足そうに微笑み、ピンクの布が張られた華奢な椅子から腰を上げる。
「ミレイユ。夜、おそくまで悪かったね……」
「いいえ。お父様こそお仕事で疲れているのに、私の部屋に来て下さりありがとうございます」
お父様は久しぶりに私の額に、お休みのキスをする。何となく私はお父様のお休みのキスに照れてしまう。
「お休み、ミレイユ」
「お休みなさい、お父様」
お父様は静かに私の部屋を出て行った。




