41話 ミレイユの一歩2
私が相談すると司書のケニルワース卿が『領地運営の基礎』を学んでみてはどうかと、私にすすめる理由を丁寧に説明してくれた。
「領地の運営とはですね。……それは領地と言う名の『小さな王国』を統治することなのですよ」
「小さな王国……ですか?」
(意外な助言が返ってきたわ。まさか男子学園生たちが学ぶ科目をすすめられるなんて、思いもしなかったけれど。……でも、すごくワクワクするわ!)
「王国の縮図ともいえる、それぞれの領地……『小さな王国』について学ぶことで、自然と王国全体のことも学んで行けるはずです」
「私には……難しくはありませんか?」
文字通り、私には未知の分野だから。
ケニルワース卿はニコリと笑った。
「男子学園生たちも、初めて『領地運営の基礎』の本を開いた時は、今のミレイユ嬢と同じ気持ちだったと思いますよ?」
「ああ、確かに……そうなのかも知れませんね」
(何だか嬉しいわ! 私が女の子だからとケニルワース卿は、差別しないのね)
「ですが人には……向き、不向きということがありますから。一度『領地運営の基礎』に関する本を読んでから、あらためて教育の専門家である先生方に、相談してみてはいかがでしょうか?」
「ええ。そうしてみます! ありがとうございます、ケニルワース卿!」
(ケニルワース卿は司書であって、教師ではないから。本格的に私が勉強を始めるのなら、やっぱり先生に相談するべきなのよね……?)
目の前に私の進むべき道が、見えた気がする。相談して良かった。
「ふふふっ……」
クレマンとドミニクが図書室へ来るのを待ちながら。私はケニルワース卿にすすめられた『領地運営の基礎』に関する本を二冊ほど借りて、さっそく読み始める。
──その夜。
私は帰宅したお父様に、執務室でケニルワース卿とした話について報告すると。
「ああ、ケニルワースが学園の図書室に時々顔を出していると聞いたが。そうかミレイユも彼に会ったのか」
「はい、お父様! とても親切にしていただきました。お父様はケニルワース卿とお知り合いでしたか⁉」
国王陛下の最側近をしているお父様なら。普段からお仕事でいろいろな人たちと、交流しているから。
ケニルワース卿と知りあいでも、珍しいことではないけれど。
思いもよらぬところで繋がりを知り、何となく親近感を感じて嬉しくなった。
「あいつとは、学園生時代からの友人だよ。お互い忙しいから、あまり会うことはないがね」
「まぁ、そうでしたか!」
「それよりも、ミレイユ。……本当に『領地運営の基礎』を学ぶつもりか?」
「はい。……お父様も反対しますか?」
(クレマンやドミニクのように、複数の科目を同時にはできないから。この一科目しかできないけれど)
「いや、さすが聡明な私の娘だと思ってね。ミレイユがやりたいのなら、やれば良いよ。だが、無理はしないようにしなさい」
娘を溺愛する父親らしい言葉で、私は褒められた。
「嬉しい! ありがとうございます、お父様。……でもお母様には予想通り、反対されてしまいました」
期待で瞳をキラキラと輝かせて『お母様を説得して欲しい』……と見上げると。お父様は私の肩をトン、トン、と叩いた。
「わかったよ、私が後で説得しておくから、心配しなくて良い」
「ありがとうございます、お父様!」
(お父様ならきっと、私の我がままを許してくれると思ったわ!)
ケニルワース卿が学園生時代に『別世界が見えているような、話し方をする天才』と評した友人こそ、私のお父様のことだった。




