↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
従妹と親密な婚約者に、私は厳しく対処します。  作者: みみぢあん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/59

38話 淑女をやめる2


 驚いてピタリと足を止めてしまったクレマンに合わせて、私も足を止めた。


「ミ、ミレイユ。淑女をやめるって……??」 


「クレマン……私ね……いつもあなたには私のことを素敵な女の子だと、思っていて欲しかったから。ずっと完璧な淑女でいようと、今まで努力してきたわ」


 クレマンと向き合い。私よりもずっと上にある、戸惑いを隠せない褐色の瞳を、ジッと見つめた。


 自分が好きな女の子は誰よりも完璧だと。クレマンはクレマンらしい、素直な気持ちを口にした。


「うん、確かに僕が知っている中でも、ミレイユは一番の淑女だと思うよ……?」

「あ、ありがとう。クレマン」


 こんなふうにクレマンに褒められて、少し照れてお礼を言った。

 コホンッ! と一回、咳ばらいをしてから。私はすぐに気を取り直して、熱くなった頬をピンクに染めたまま話を続ける。


「と……とにかく私は、あなたがパトリシア嬢を優先していた頃も『パトリシア嬢なんて見ないで、私だけを見ていて』と、いつも心の中では醜い嫉妬心を燃やしていたの」


「そんなふうには、少しも見えなかったよ⁉ 本当に⁉ いつも君は穏やかに笑っていたから。でも、そうだったのか!」


 鈍いクレマンでも。自分がパトリシア嬢と一緒にいる時、私が寂しそうにしていたのは気づいていた。


 ──でも、クレマン自身がパトリシア嬢を、『妹のような従妹』『妊婦』としか見ていなくて。自分の恋愛対象から大きく外れていたから。

 私が嫉妬心を抱くとは、思わなかったのだ。


 

「そうよ。私は婚約者には『淑女』として見て欲しかったから。従妹を大切にするあなたに、嫉妬する醜い姿を絶対に見せたくなかったの。……だから強い怒りや屈辱を感じていてもクレマンには隠していたわ」 


 何度も腹をたてて。パトリシア嬢のように感情のまま、怒鳴り散らしてやりたかったけれど。

 ……でも淑女なら我慢するべきだと思っていた。

 お母様にも『殿方に女性の本音を見せてはだめよ。嫌われる原因になるから』と言われていたから。


  それに私にはクレマンの婚約者として、プライドがあった。


 

「ごめんよ、ミレイユ。本当に……何て謝れば良いか、わからないよ」


 腕をのばし私を抱きしめようとするけど。クレマンは自分の抱擁を拒まれるのではないかと躊躇ちゅうちょして、すぐに手を引っ込めてしまう。

 それを見て、『パトリシア嬢ならきっと、躊躇しないで抱きしめたでしょうね?』と。私の胸の奥から苦い思いが込みあげてくる。


(抱きしめたいなら、思うままに抱きしめて欲しい! ……と素直に言えたら良いのに。今の私はプライドが邪魔して、そういう言葉も上手く言えない)


 パトリシア嬢ならきっと、迷いなく言えただろう。こうして彼女と比べてしまう自分が嫌だ。

 

「だから私……あなたの前では淑女をやめたいの! もう、本音を隠すのはうんざりだから!」


 私はほとんど無意識で、自分を守るように胸の前で腕を組み。話し終えると視線を足元に落とした。


「クレマンがこんな私は嫌なら……今すぐ婚約解消しても、かまわないわ」

「ミレイユ!」


 緊張して私の身体は密かに震えている。クレマンはそのことに気付いたのか。

 下を向く私を今度こそ躊躇ためらいなく、ギュッと抱きしめた。


「あ……あなたに…たくさん、我がままを言うつもりだから。……だってパトリシア嬢は、いっぱい言っていたでしょう? 淑女だからって私は我がままを言えないなんて、不公平だわ」


「そうだね。ミレイユのいう通りだ」


 クレマンに抱き締められたとたん、なぜか私の目が熱くなり涙が滲みだす。


 パトリシア嬢なら同情をひこうと、顔を上げてクレマンに涙を見せつけるところだけど。完璧な淑女が抜けない私は、クレマンに見つかる前に指先でサッと涙を拭った。


「我がままを言っても、ミレイユは完璧な淑女だよ」

「どうして?」


「だって君は僕に何を求めているのか、親切に教えてくれている。……それって僕が君に好かれるための、重要なヒントだろう?」


 人よりも自分が鈍感な自覚があるクレマンには、私の我がままは指針にしか聞こえないようだ。


「そ、そうね! 私の我がままをたくさん聞いてくれたら。あなたのことを、もっと好きになるかも知れないわね!」


(拭っても、拭っても、涙がこぼれてしまうわ。……もう、嫌! 私の泣き虫! こんな時に、なぜ涙が出るの?)


 なぜ涙が止まらないのか? ……たぶんそれは、今まで私が我慢に我慢を重ねて、言いたいことを言えずに耐えて来たからだ。


「だからミレイユには、たくさん我がままを言ってもらわないとね……」


 私の背中を撫でながら、クレマンは私の頭にコトンッ……と顎をのせた。


「だったらクレマン。あなたのお言葉に甘えて、我がままを言わせてもらうけれど。……私も、あなたみたいに勉強がしたいわ」


「……んんん⁉」

「私もあなたと一緒に論文を出す、勉強がしたいの!」


(お母様に『賢すぎる女の子は殿方に嫌われるものよ』と、勉強をやり過ぎないようにと注意されるけれど。クレマンも賢い女の子は嫌いかしら?)


 淑女として完璧なら『少しぐらい愚かな方が愛嬌があり、女の子は幸せになれる』というのが……お母様が祖母から受け継いだ持論なのだ。



「僕たちがやっている……勉強をかい?」

「ええ。私もたくさん学んで、変わりたいの!」


 私はクレマンの腕の中で囁いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。