34話 父との晩餐
王立騎士団の宿舎で暮らす、ルドヴィクお兄様は残念ながら欠席したけど。
久しぶりに早く帰宅したお父様が加わり、家族三人の晩餐を楽しんだ。
だけど食後のお茶を飲みながら、私はうっかりクレマンのことを思い出して。
ハァ―――ッ……と大きなため息をついてしまう。
「まぁ、ミレイユどうしたの? 何か悩みごとがあるのなら、お父様に聞いてもらいなさいな」
私と良く似た小柄なお母様は、そう助言をするとおっとりと微笑んだ。
「はい、お母様。悩みごとと言うほどではないの」
(うっかりしていたわ。クレマンのことでお母様が一番、私を心配してくれているのに。また煩わせてしまうわ)
お茶が半分残ったティーカップをカチャッ! と皿に戻し。
私はもじもじとカップのふちを指先でなぞった。
「お父様ならきっと、ミレイユの悩みを解決する良い方法を一緒に考えて下さるわ。……ねぇ、あなた?」
「今夜はどんな悩み事がミレイユの顔を、そんなに曇らせたんだ? もしかして、クレマン君のことか?」
お母様に言われてお父様もティーカップを皿に戻し、私にたずねた。
「お父様……」
(お父様はきっと最初から私の悩みなんて、お見通しよね? もちろんお母様も、わかっているはずだわ)
黙っていると心配させてしまうと、私はもう一度ハァ―――ッ……とため息をつき、苦笑を浮かべた。
「今日、クレマンがたくさん本を読んで、小論文を学園長に採点してもらうという話を聞いたの」
「おや。クレマン君は、そこまでたどり着いたのか! はははっ!」
お父様が珍しく驚いた顔をして笑った。
「そこまで……たどり着いた?」
(んんん? 何かしら。何かあるのかしら?)
「……ふむ。ずいぶん早かったな。少しは彼にも希望があるかも知れないな」
「希望? お父様、私にはわけがわからないわ。説明してください」
いつものことだけど。
高い知性を持つお父様とルドヴィクお兄様は、時々別の世界が見えているような……よく意味がわからない話をする。
だから私は戸惑ってしまうのだ。自分が幼い子供になった気分になるから。
「ミレイユ……週に何冊かの課題図書を自主的に読んで、クレマン君は論文を書いて教師たちに提出するのだろう?」
「はい」
「それは私とルドヴィクも、学園生時代にやったことなんだよ」
お父様はニコリと笑った。
「え? お父様とお兄様も⁉」
「最低限、これぐらいはやれなければ、クレマン君は下級文官の試験にも落ちるだろうな」
「ええっ⁉ でも学園の成績が10位以内ならと……?」
「それはあくまで目安であって、合格を約束するものではないよ」
「目安……」
「学園の成績が良いだけの、応用がきかない無能な者がよくいるんだ。……特に恵まれた環境で育った、上位貴族の子息に多い」
無能なくせに実家の権力を使い、職場で威張りたがる質が悪い者たちのことだ。
「それはつまり?」
「そんな愚か者が、間違って文官試験に受からないように。試験の面接官は一時間の質疑応答で、どこかの本に書いてある内容を、まる暗記したような答えではなく。……受験者本人の知識に基づいた考えを徹底的に求めるんだ」
他にも時間内にいくつかの論文を、その場で完成させる課題もある。
「面接官は受験者が動揺し迷うほどの、意地悪な問題を次々と出す。自分で考える力が無ければ、即刻不合格になるだろうね」
馬車の中で聞いたクレマンの話が、脳裏に浮かぶ。
『分析して、価値を評価したり。論理的に物事を解釈したり。……それとは別に僕自身の考えをまとめたり』
(クレマンは難しい本を読んで、内容を覚えるのではなく。考える力をつけるためだと言っていたわ)
「……ああ!」
(だからドミニクは難しい課題図書を読んで、論文を仕上げることをクレマンにすすめたのね? そしてこれをしたから、お父様とルドヴィクお兄様は、別の世界を見ているような、考え方ができるのだわ)




