(番外編) パトリシアの結婚
学園の食堂でミレイユが、卑怯な言葉で私を挑発するから。私がそれに反撃すると大きな騒ぎとなった。
怒ったクレマンが私との約束を破り。私の両親に、私が妊娠しているかもしれないと報告した。
幼い頃から診てくれている医師に診察され、私は予想通り妊娠していると診断された。
医師に診断結果を聞いたお父様は、まるで他人を見るような冷たい目で私を見下ろし。
「……パトリシア、しばらくお前は自室で謹慎しなさい」
学園の退学手続きも、この日のうちに始めたそうだ。
「そんなの嫌よ! クレマンに会わないと……」
「今後は結婚するまで、外出もすべて禁止する。来客も一切断るつもりだ」
「……結婚ですって⁉」
「そうだ」
「だ……誰と⁉」
(もしかしてシャルルと⁉ 私はクレマンとしか、結婚はしたくないわ!)
「コッドソール伯爵家のシャルル卿と、再び婚前契約が整い次第、お前を嫁がせる」
「待ってお父様、シャルルなんて嫌よ! ……絶対に嫌!!」
それまで淡々と話していたお父様が、いきなり大声で怒鳴った。
「よくも……そんな我がままが言えるな、パトリシア──ッ!!」
「お、お父様⁉」
「お前のせいで、どれほど私たち家族が恥をかいたか! お前の母親は心労で、持病の心臓病を悪化させてしまったのだぞ」
「お……お母様が⁉」
(私を慰めにお母様が来てくれないのは、なぜかと思っていたけれど。病気のせいだったの⁉)
「シャルルが不誠実な男なのはわかっている」
「だったら考え直して! 私はクレマンと」
「クレマンだと⁉ まだ、そんなことを言っているのか?」
「クレマンなら私と結婚してくれるわ!」
「だがお前はシャルルに肌を許し。純潔まで捧げてしまった! そのうえシャルルの子供まで身籠っている。あの男との結婚以外に、お前には選択肢はないのだ!」
「そんな……お父様!」
◆◆◆◆
自室で一ヶ月近く謹慎させられた後。
私の身の回りの物をトランクケースに詰め込み。荷物と一緒に馬車に乗せられ、数日かけて田舎の小さな神殿へ連れて行かれた。
「いったい……ここは何処なの? なぜ、こんな田舎に……」
聞いたこともない田舎の地名を、護衛の騎士に教えられた。
結局、聞いても、どの地方の地名かさえ、私にはわからない。
神殿の前でグズグズしていると、中から顔に見覚えのある男が出て来た。
私の夫となるシャルルだ。面変わりをしていたせいか、一瞬誰だかわからなかった。
シャルルは私の記憶よりもゲッソリと痩せ細り、疲れた顔をしていた。
「久しぶりだな、パトリシア」
「シャルル……⁉」
常に流行の最先端を追っていたシャルルは、洗練されたセンスの持ち主で、赤毛のせいもあり華やかな印象だったのに。
婚約破棄をする前のシャルルと、大きく印象が違う。
シャルルの好みとは思えない、質素で野暮ったい服装をしていて、そのおかげで五歳は老けて見える。
「まったく。妊娠しているのなら、黙って嫁いでくれば良いものを。君が大騒ぎして婚約破棄なんてするから。問題を複雑にして……クソッ!」
私の顔を睨みつけシャルルは罵った。
「何ですって⁉ あなたが使用人に手を出して、子供を産ませたからいけないのでしょう? 私を悪者にしないで!」
「いい加減にしろ、パトリシア! 大騒ぎしたお前のせいで、僕はコッドソール伯爵家の後継者から外されたんだぞ!」
楽天家でいつも笑っていた人だったのに。今のシャルルは悲観的になり、苦悩を抱えているようだ。それはたぶん、伯爵家の後継者ではなくなったからだ。
怒りで熱くなっていた頭が、ヒヤリと冷えた。
「……冗談でしょう?」
「ぜんぶ、お前のせいだ!」
「今の話は本当なの?」
「残念ながら本当のことだ。……今の僕にあるのは準男爵の地位と。生きて行くのに最低限の小さな土地だけだ!」
「そんなの……嫌よ! そんなの……」
「これからは次のコッドソール伯爵となる、弟の慈悲に縋って生きなければならない。全部……お前のせいだ!」
フンッ! ……とシャルルが鼻で笑った。
「先に行っておくが……結婚はしてやるが。お前を以前のように可愛がる気はないからな。妻の権利を主張出来るとは思わないことだ」
「何ですって⁉」
「オレの本当の妻は……」
シャルルはチラリと小さな神殿の信徒席を見た。
──そこにはシャルルと同じ赤毛の子供を抱いた、使用人らしき女性がいる。
私はハッ! と息をのんだ。
(まさか……愛人も一緒に、暮らすつもりなの……⁉)
この番外編は初投稿のさいは無かったお話で、今回加筆しました。
本編の話数に入れず(番外編)としたのは、単にポンコツな私がこの話以後、一話ずつずらして話数を入れるのが、間違えそうで面倒だったからです。……最終的にもっと面倒になるかも知れませんが。
パトリシアは本編には関わりが無くなったので、ちょうど良いかと……(-_-;)
ご容赦を。




