26話 毎日送迎2 挿絵クレマン
ガタッ、ガタッ、と馬車に揺られながら、私は向かい側に座るクレマンにたずねた。
「ねぇ……クレマン。あなたが下級文官の試験に落ちたら、お父さまは即刻、私たちの婚約解消を進めるつもりよ。わかっているの?」
(お父様もルドヴィクお兄様も、昨日の話し合いで、私が答えを出せなかったから。じっくり考える時間を稼ぐために、下級文官の試験を受けるよう提案しただけなのよ? 最初からクレマンが試験に受かることなんて、少しも期待していないのだから)
「もちろん、わかっているよ。ミレイユ」
クレマンは苦笑した。
「それに……あなたが下級文官の試験に、運良く受かっても。私がその時、あなたとの結婚が嫌になったら。やっぱり婚約は解消するのよ……?」
「うん。それも、わかっているよ。……だから僕は、勉強を頑張るだけではなくて。少しでも君の信頼を取りもどす努力もしなければいけないんだ」
向かい側の席からクレマンは手をのばし、私の手を取り軽いキスを落とすと。……フワリと両手で私の手を包み込んだ。
久しぶりにされたクレマンのキスと大きな手のぬくもりが、私の心臓をドクンッ! と跳ねさせた。
急激に恥ずかしくなり、私の顔はカァーッ……と熱くなる。
「……っ!」
以前は二人っきりになると、いつもしていたことなのに。なぜこんなに胸がドキドキするの⁉ ……きっと、久しぶりにされたからいけないのね)
クレマンの手の中から自分の手を引き抜きたいけれど。強引に手を引き抜いたら……私が敏感な反応をしていると、クレマンに知られてしまう。
真っ赤になるほど顔を熱くして、私が恥かしさに耐えていると。クレマンが手を放した。
「ごめん、ミレイユ! 急に触れたりして……嫌だった?」
鈍感なクレマンも、さすがに私の動揺を感じ取ったらしい。クレマンの顔も赤く染まっていた。
「嫌っ……嫌ではないわ。少し驚いただけよ」
「あっ、そうか! つい嬉しくなって、触れてしまったけれど。淑女の君にいきなり触れたら、不作法だったね。次からは君にたずねてから触れるよ」
「ええ。そうしてくれた方が、私も驚かなくてすむわ」
「本当にごめん。昨日の夜、父上にミレイユのことを良く考えろと言われたばかりなのに……自分本位な行動をしてしまって。本当にごめん」
「わ、わかってくれたのなら……私はそれで良いわ」
(ああ、驚いた! まだ胸がドキドキしているわ。顔もとても熱いから……きっとトマトのように真っ赤になっているわ。嫌だっ、恥ずかしい!!)
クレマンから取り戻した自分の手を、守るようにもう片方の手を上に重ねて膝に置く。
私がチラリと視線を上げると。
向かい側の席でクレマンも赤い顔で自分の手の指を組み合わせて、モジモジと動かしている。
「……ハァ」
(何だか……調子が狂ってしまったわ。もう、どうしましょう! 毎朝こんなふうに、緊張することになるのかしら? んんんんっ~……)
落ち着かなければ。こんなことでドキドキしていてはいけない。淑女なら動揺を隠して、軽く微笑んで流さなければ。
ピクッ、ピクッ、と頬をひきつらせながら。私は淑女のプライドをかけて、真っ赤な顔のままクレマンに微笑んで見せた。
「あ……あの、ミレイユ? 今日の昼食だけど。……僕も君と一緒にとっても良いかな……?」
「……ハッにゃっ!」
変な声が出た。『何かしら?』と言おうとしたのに。なぜかこうなった。
絶対に約束を破らないなら良いと。私はクレマンと昼食を一緒にとることを承諾した。
今さらですが……大急ぎで描いてクレマンの挿絵を入れました。
イメージ補強になれば幸いです。




