18話 秘密の約束2
誰にも言わないという約束で、僕がパトリシアから聞きだした悩みとは……
「本当に誰にも言わない? お父様やお母さまにも言ってはダメよ?」
「ああ、もちろんさ。君が自分の口で話したいと思うようになるまでは。僕も秘密にすると約束するよ」
「……クレマン。私……シャルルと婚約を破棄をした後で、すごく体調が悪くなって」
「え? 医師の診察は?」
「だから、それが嫌なの」
「どうして?」
「だから私は……クレマン。私……妊娠したかもしれないの」
(まだ、結婚もしていないのに? ……それにパトリシアはまだ、“成人の儀”も受けてない学園に通う未成年なのに、子供が出来るようなことをしたのか⁉)
「パトリシア……相手は?」
「シャ……シャルルよ」
「元婚約者の⁉」
「ええ」
──正直、嫌悪感を感じた。同じ男としてシャルル卿の恥知らずな行動と、パトリシアの無責任で軽率な行動に。
この話を聞いて、自分の顔にそんな感情を出さないようにするのが精一杯だった。
僕の説得でようやく泣くのをやめたパトリシアは自室から出て。僕の送り迎えで、また学園に行くようになった。
それを見てパトリシアの両親は、ホッと胸を撫で下ろして喜んだ。
その一方で僕自身は早くパトリシアのことを解決しないと。
パトリシアの両親やミレイユへの罪悪感に押しつぶされそうで、心から喜ぶことは出来ず焦りを感じていた。
「……クソッ!」
(パトリシアの秘密を強引に聞きだしたせいで、今度は僕自身が婚約者のミレイユに、言えない秘密を抱えてしまった! こんなことになるなんて……)
あきらかに僕の手には負えない問題なのに。
誰にも言わないと約束したから、パトリシアの両親や僕の両親にも、大人たちの知恵を借りることができない。
ミレイユとの平和で幸せな日々を、早く取り戻したいのに。
僕は秘密を聞いたその時から……毎日、毎日、パトリシアを説得する日々が始まった。
「パトリシア、早く妊娠したことをご両親に話した方が良いよ。今ならまだ、間に合うから……コッドソール伯爵家のシャルル卿と復縁するんだ!」
(婚約破棄をしたことが社交界に広がる前に、元通りの婚約状態に戻った方が良いに決まっている!)
「でも……まだ、妊娠したかは、わからないわ。……だってお医者様に診てもらっていないもの」
シャルル卿と婚約破棄をしてから、ずっと自室に閉じこもり泣いていたのは──
パトリシアは女性特有の月のモノが来ないと悩み。体調も悪くなって、怖がっていたからだ。
「だからパトリシア、ご両親に相談して医師に診察してもらおう?」
「嫌よ、きっと叱られてしまうわ! お父様やお母様には秘密にして! お願いクレマン。私と約束したでしょう?」
「パトリシア……!」
(ギリギリになるまで、両親には打ち明けない気だな?)
そんなパトリシアが心配で、僕は目が離せなかった。
「……っ」
(ああ、クソッ…! 約束のせいで、誰にも秘密を相談できないから。パトリシア自身が妊娠したかもしれないと、両親に打ち明ける決心がつくまで。僕は一人でパトリシアを支えるしかない!)
「だけど、パトリシア… ずっとこのままではいられないよ?」
「でも……妊娠していないかも、知れないわ?」
「パトリシア……」
馬車で送り迎えをし。学園の裏庭で友だちがいないパトリシアと、二人で昼食をとりながら僕は説得を続けた。
「いや、パトリシア! 僕も妊娠したらどうなるか… その時の症状を、何人かにたずねてみたけれど… 君と同じ症状が出るそうだよ」
「もう少しだけ様子を見たいの。お父様とお母様を、心配させたくないから……」
小さな子供のようなパトリシアを、いい加減我慢の限界にきて怒鳴り付けたかった。
……でも、お腹に子供がいる妊婦だと思うと。男としてそんな乱暴なことは出来ず、僕は歯を食いしばって説得の日々に耐えてパトリシアに付き合った。
「パトリシア……手遅れになる前に早くしないと。何か起きてからでは子供がかわいそうだよ」
「子供なんて、いないかも知れないわ」
「君自身がこんなに悩んでいるのに?」
「……っ」
「日に日に妊娠でお腹が大きくなるのなら、時間との勝負だと思うよ」
一緒にすごす時間が減り、寂しそうな表情を浮かべるミレイユの誘いを断り。僕は従妹のパトリシアを優先したのではなく……パトリシアの説得を優先しただけだ。
そんな毎日を繰り返すうちに、僕とパトリシアが『浮気をしている』…という、噂が広まってしまった。




