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第四の魔術師 〜魔術を拒む異端者〜  作者: 第四
第一章:第一節 『平穏な――学院?』
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第三話 白髪の転入生


はぁ…


今日は本当に散々だった。

教室で浮くし。

突然、空から何か降ってくるし。


楽しみの一つだったオリエンテーションも中止になるし。


いや、それより――学校…いや校舎から出て、二人を見たとき直感した。


ゼルフィア=ノア、リヒト=アーウェル…何かある。

何よりあの目。あれは教師の目ではない――と。


あの冷徹な感じといい、どこか本音を隠すようなひょうきんさといい…


どこか引っ掛かる。


あの感じ…どこかで――


その瞬間、僕の後ろを付く影が一瞬西に揺れる。


まるで“意志”に背くかのように。

一体何だというんだ…



周囲に住宅地が増えてきた。道中には公園もちらほら――


ん?

クンクン…


鼻腔から空気を取り込む。

胃袋を刺激する、大好物の匂いがした。


まさか!


僕はドアまで走った。


「お母さん!」


勢い良くドアを開けた。


「わぁっ!びっくりしたぁ…おかえり。どうしたの?」


母は肝を潰したかのような様子だ。


「今日のご飯なに?」


「あ〜今日はビーフシチューよ。せっかくの“入学式”だからね」


「…ありがとう。お母さん」


“入学式”――その言葉を聞くだけで、胸が軋み出す。僕はすぐに返答できるほど、成熟していなかった。

なんせ、今日の入学式は僕の想像と違っていたから。


「さ、手洗って来なさい。早く食べよう」


「うん、洗ってくるよ」


空元気に返答した。母はその様子を見るや、手を耳下に当て、凄く心配そうに眉尻を下げている。


なんだか、母に申し訳ないな…


僕は洗面台まで向かう。鏡に映る僕は、今から大好物にありつけるとは到底思えないほど、暗かった。


「よし、食べようか」


居間に戻ると、母が夕食の準備をしてくれていた。


僕たちはいつもテーブルを囲んで、向かい合って夕食を食べる。会話を楽しむのだ。

やはり、食事は誰かと食べるに限る。

…いつもなら、そう思えてたけどな。



手を合わせて――


「いただきます」

「いただきます」


木製のスプーンを手に取った。

一口頬張る。


…美味い。

ホロホロと溶ける肉と、コクのある濃厚なソース、甘く煮詰まった人参、そして――この絶妙なバランス。最高だ。


一口、また一口と…次々に口に入れていく。


「ゼイル」


母が何かを聞き出そうと、僕に訊ねて来る。


「ん?」


「今日、学院どうだった?」


聞かれた瞬間、味覚がなくなったかのように、舌が反応しなくなる。


「…聞いちゃまずかった?」


「別に…」


本心とはかけ離れた返事をしてしまった自分を、心底責めたくなる。

出来ることならば、母に隠し事はしたくない。


「そう…」


気まずい。

母もばつの悪そうな顔を覗かせている。


「あ、そうだ。ゼイルも昼間の音、聞いたでしょ?…どうだった?」


母は、何かを試すかのようにこちらを見つめる。

昼間の音…恐らくあの轟音だろうな。

正直――『驚いた』としか言いようがない。


「別に…どうもこうもしないよ」


本音を隠したいという本能に促されるがまま、不貞腐れたように言い放った。


…本当にどうしちゃったんだろ、僕。

いつもならもっと素直に話せるのに。


「そう」


「(やっぱり覚えてないのね…)」


母がボソッと呟いたのを、僕は上手く聞き取れなかった。


〜数分後〜


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」


相変わらず、母の料理は美味しい。だが、今日は途中から味がしなくなった。

ビーフシチュー…もっと、ちゃんと堪能したかったな。


後悔を噛み締め、食べ終わった食器を水に浸け、自室に続く階段を上がった。その際、胸中の靄が収まらなかった。


重く受け止め過ぎなのかな…


そんなことを考え、本棚に孤立するが如く鎮座する『魔導書』が目に入りつつ、今日も夢路を辿る。


――あれ?そういや、『遅刻しかけたこと』謝ってなかったじゃん。それに、『水やりの約束』も忘れてる。

…まぁ、また今度、時間がある時でいっか。



――知らず知らずの内に学院の毒牙にかかったことに気づかない僕は、『日々の日課にすら手が付かない』という形で体に現れていた。


…… 


「あなた!なんで…」


「仕――だ。こう――、俺が――ない」


「あ、あぁ〜あぅ?」


ここはどこだ…

というより、“いつ”の記憶だ?


「お前らには悪いと思ってるよ。だから――」


男は僕たちに目を向ける。

そして、“何か”を手にする。


瞬刻の瞬きの後、鉄臭い温かさが頬を伝う。


「あなた!目を覚まして!」


「大丈夫だ。とっくに目は覚めている。それに、死にはしないさ」


男はまるで――この後、何が起こるか知っているような口ぶりだった。


「……悪く思うな」


その瞬間――

足元が消えた。 重力が裏切った。


おい待て待て待て…


この高さ普通に死ぬだろ!?


「大丈夫。お母さんがついてるから」


母はこんな時でも優しく言葉をかけてくれる。


「これで少しでも抵抗を…」


母の血流に、緑の魔力の流れが見えた。…こんなにはっきり流れが見えるのは、初めてだ。


風鎧(ウィンド・ベール)!」


周囲に旋風が巻き付いて行く。

その旋風は、空気抵抗を促し――



――ゴォォォォン



「衝撃波到達まで、三秒程度。

距離は……1.1km圏内。誤差±0.02」


「またですか」


「ああ」


「…また二人で見に行きましょうか」



「いたたたたたた…ゼイル、平気?」


「あ、あぃぃ!キャッキャッ!」


「ふふ」


我が子を愛おしく思う母の、優しさ溢れる抱擁。母の温かさは、慈愛に満ちていた。



「―――ル」


まさか、お母さんが魔法を使えたとは…


「―――イル」


そう言えば窓から誰かが見ていた気がする。それも、僕の学校の校舎から。

誰だったのだろうか…


「――――ゼイル!」


「うぉ!?びっくりしたぁ…もう朝か」


いつものように母と鳥のさえずりに起こされながら、布団を退かす。


「も〜今日もギリギリじゃない。早く朝ごはん食べて、行ってきなさい」


今日も美味しそうな匂いが部屋まで漂ってきている。…お腹空いたな。


「ああ、分かったよ。お母さん」


それにしたって、いい夢ではなかった。

母の温かさは感じられたが――


鼻につく血の匂い、落ちる感覚。


――思い出したくなどない。

夢の内容をなるべく思い出さないように布団を片付け、居間まで向かう。


居間まで続く階段が、なぜだか『落下』を連想させた。夢の内容が掘り起こされる。僕は少し気分が悪くなる。鼓動が速くなっているのを感じた。


…とりあえず、洗面台まで行くか。

気分転換に顔でも洗おうと、流水を浴びに行く。

――冷たい。

頭を冷やすには十分な冷たさだった。

…少しは落ち着いたか。


鏡を見る。紅蓮の瞳には青みが混じる。

歳不相応なやつれ顔に、自分でも笑ってしまう。


「…切り替えないと」


僕は両手で頬を叩き上げ、真っ赤に腫れ上がった顔で居間に向かう。


「もう準備出来てるから、早く食べようか。冷めちゃったらいけないし」


母の催促に促されるがまま、椅子に腰掛ける。今日は…和食っぽい感じだ。

僕は箸を手に取った――



「ごちそうさまでした」


――あっという間に平らげてしまった。

今日も美味しかったな。母の料理の美味さに舌鼓を打ちつつ、時間も迫っているので、学校の準備を急いで済ませるとする。


転倒しないよう留意し、階段を爆速ダッシュして、自室に戻った。制服――ベルト――鞄――スマホ――財布。必要なものは、一通り用意できた。


「じゃあ、行ってきます」


靴をきちんと履き切れぬまま、僕は扉を勢いよく開け放つ。

いつもなら履き慣れたローファーを履くことなど造作もないが、時間の無さが僕の出来の悪さを助長している。


「いってらっしゃい。気をつけてね」


母の温かさは健在だ。

その事実に、どこか胸が苦しくなる。



「――さてと。今日もギリギリだから、急がないと」


十分くらい歩いた頃だろうか。

駆け足で向かおうとした――そのときだった。


白髪の青年に声を掛けられる。

顔立ちは…Theこの世界の住人って感じだ。


「あの〜すみません。《セレスティア中央魔術学院》までの道って分かりますか?」


青年の服装を凝視すると――

濃紺のズボンに黒ベルトを携え、白シャツに身を包んでいる。

シャツの上には白ネクタイが結ばれており、上からベージュのジャケットを羽織っていた。

右胸ポケットの校章には、金色の方位磁針に両翼が生えたような刺繍が施されている。

足元を見ると、彼は茶色の革靴を履いていた。


見たところ、僕と同じ学校の制服のようだ。

僕はこの青年に、どこか安堵とシンパシーを覚えた。間違いなく好青年だ。


「あ〜あの学校ですか。僕もそこに通ってるので、よかったら案内しますよ」


好意的に尋ねられたので、同じように好意的に返す。


「本当ですか!ありがとうございます!」


白髪の青年は、少年のように目を輝かせ、喜びを体現している。

…僕の見立てに狂いはないらしい。


「ところで、あなた…昨日学校来てましたか?あなたのような人は、見かけていないと思うのですが…

あ、もしかして先輩でしたか?もしそうでしたら、すみません」


万が一のことも考え、訊ねてみる。このような好青年は見かけていないはずだが、世の中に絶対はない。後で後悔しないための…いわば、保険だ。


「いえいえ、顔を上げてください!

私は今年からあの学院に通うことになった一年生…つまり同級生ですから」


同い年なのか。

自分が情けなくなる。同い年にこんな立派な青年がいるなんて…


「じゃあタメ口でいい?」


この青年に興味を持った。できれば、仲良くなりたいと思ったのだ。


「はい!もちろんです」


そこから彼がこの学校に来ることになった経緯を尋ねた――


「なんで登校初日には来てなかったの?」


「もしかして…体が弱い体質で、体調不良で休んでたとか?」


――みたいに。


だが、その度に彼はのらりくらりと避け続けた。


どうして答えてくれないんだろ…やっぱり言いにくいのかな?


そんな会話をしていたら、教室の前まで来てしまった。


「じゃあ、また会ったら何か話そう」


「はい。またいつか――」


心にしこりを残したまま、彼と別れた。

彼は職員室に用があるそうだ。


…結局、最後まで彼の敬語は抜けなかった。


どこか距離を感じるな…

もっと仲良くなりたかった。



引き戸を引き、教室に入る。

今日も今日とて、窓際の席に座った。

自然が見えるこの席は、僕にとって至高の席である。



横目でチラッ――と様子を伺った。

作為的に空いている隣の席に目を向けながら、あの青年のことを思い出す。


また会えるかな…


そのとき、担任が引き戸を引いて教室に入って来た。


「よし。全員いるな。

わかっているだろうが、今日は入学式だ。新入生として、恥のない行動を頼むぞ」


担任は、いかにも教師らしいことを口にする。

…不審者っぽいところと口調が荒いことを除けば、結構出来るタイプなのかもしれない。


…あれ?その欠点って、教師として致命的じゃね?


「そして、もう一点。今日は特別な連絡がある。

――転入生がこの教室にやって来る」


「え!」

「この時期に!?」

「どんな子だろう〜」

「女子来い、女子来い!」


クラスメートがザワザワと騒ぎ出す。

一人不純な奴がいたが。


「と、いうわけで入って来てくれ」


教室の引き戸に目を光らせる。


予感した。

来る…


そのとき、引き戸の隙間から見覚えのある白髪が教室を覗かせる。

来たのだ。彼が。


彼は教壇に上がった。


「それじゃあ、自己紹介を頼む」


担任は空気を読み、教壇から降りて教室の脇に位置した。


「アサーシ=ゼルマインです。

え〜っと…特に秀でてることはありませんが、仲良くしてもらえると嬉しいです」


「よろしく〜」

「真面目だね〜」

「分からないことがあったら、何でも聞いていいからね〜」

「なんだ。女子じゃないのか…」


僕のクラスメートは優しいな。

相も変わらず、不純な奴が一人いるが。


「それじゃあ席に着こうか。

席は…お、丁度空いてるじゃないか。じゃあ、アサーシの席はゼイルの隣で」


その瞬間、アサーシは僕を値踏みするように見る。

瞬刻の間、すぐにもとの顔つきに戻った。


そして、一歩――また一歩と、歩を進める。

配置を把握しているかのような、自然な足取り。


静かな音だ。

まるでその道に長けているかのように。

さも当然かのように――


「あの〜こんにちは。というか、さっきぶりですね。見知った人がいて、なんだか安心します笑」


彼のこんな砕けた笑顔は、初めて見る。

さっきまで変にかしこまってたし、こっちの方が親しみやすい。


「全然知り合いが居なくて、困っていたところだったから、僕も嬉しいよ」


彼の表情に――掌で踊らされるが如く、すっかり警戒心が解けた、獲物のような本音をぶつけてみた。


「というか、まだ敬語は外してくれないの? 距離感を感じるというか…」


「あ、ほんとだ!(全然気づかなかった…)

じゃあ、なるべく意識しますね――じゃなかった。…するね」


「ありがとう」


タメ口というだけで、また随分と接しやすくなった。

…それに、アサーシのタメ口は、かなり破壊力があるな。


「さて、アサーシも加わったことだ。次は…っと、そろそろ入学式が始まるな。廊下に出て、出席番号順に二列で並んでくれ〜」


アサーシの(ラストネーム)は『ゼルマイン』だから――割と前の方か。


で、僕はレグナードだから…結構後ろの方だな。


もう少し、彼と話していたかったが…



引き戸を引き、廊下に飛び出した。クラスメートたちの足踏みが、廊下中に響き渡る。

そのとき、隣の教室からそのクラスの担任らしき人が出てくる。

昨日担任と仲良さげだった、怪しさ満点の教師だ。


「あ、ゼルフィア!君も今から体育館に行く感じですか?」


「ああ。ほんと、昨日は大変だったよな」


二人は顔を寄せ合った。それはそれはもう――蜜月な会話を繰り広げているのだろう。


「(アサーシの報告とか大変でしたよね…)」


「(ほんとそれ。校長が、一旦様子見するとか言い出さなかったら―――)」


「(まあ、君なら一人を匿うぐらい大丈夫そうですけどね。だって、ねぇ?笑)」


「(絶対馬鹿にしてるだろ)」


「(してませんよ〜)」


耳打ちで会話をしているため、僕たちには全然聞こえない。

昨日もそうだったが、何を話してるんだ?


僕は眉間に皺を寄せた。

ひどい顔になっていないといいが…

だって僕、結構な時間真顔だし。表情筋死んでそうだもん。


「よし。お前ら〜行くぞ〜」


僕らは歩みを進める。


体育館は二階にあるので、今いる三階からは階段を降りる必要がある。

クラスメートの足音が忙しなく聞こえてくる。喋り声も活発だ。


僕は耳を傾けてみた。みんな入学式の話ではなく、昨日の轟音の正体について気がかりのようだ。



体育館前までやって来た。

みんな会って間もないというのに、綺麗に整列出来ている。ここまでの一致団結には、感心も一塩だ。


担任が体育館扉の前に立った。


「今からこの中に入る。今朝にも言ったが、新入生として恥のない行動を取るように」


ついに入学式か。

いよいよ…この学校での生活が始まるのだ。


担任が扉を開く。


高揚と緊張を手汗に込め、ふぅぅぅ――と息を整えてから入場して行った。


――拍手喝采

恐らく先輩であろう在校生たちが、僕らに拍手をくれた。


みんなに注目されているこの状況は、なんだか緊張してしまう。


チューリップのアーチで覆われた花道を通りながら、右手と右足が同時に出てしまった。

…恥ず。


――てか、体育館デカっ!?

これ何人入るんだろ…

少なくとも、2000人は入りそうだけど。


「それでは、新入生は座ってくれ」


この入学式の司会役らしき人が言う。


教頭だろうか?


促されるがまま、パイプ椅子に腰掛けた。

女の子はスカートが巻き込まれないように、しっかりと手をお尻に添えてから座っている。


おぉ…流石だ。男子とは違うぜ。

…あ、別に変な目では見てはいないから、安心してくれ。


「ただいまより――

噛み跡歴16,000年、第二十回《セレスティア中央魔術学院》入学式を始める。

司会・進行はこの、エドモンド=クラウゼンが務めさせていただく。

よろしく。礼――」


1、2、3――

身体に染み付いたリズムを心の中で唱えながら、頭を下げる。


「開式の言葉・式辞。エーデル校長、お願いします」


校長が壇上に上がった。さて、どんな人柄だろうか。


「桜が舞い、空が澄み渡る…このような日に入学式を行えたこと、感激である。

さて、新入生の諸君。

君たちは、ここで何がしたいかね?

そして、何を知りたいかね?

その答えによっては、きっと魔術師としての格が決まってくるじゃろう。

じゃが、焦ることはない。

答えはこの学院で見つければよい。

ただ…一つだけ、わしから伝えたいことがある。


――『魔術師であれ』

わしからは以上とする。

ご清聴、どうもありがとう」


万雷の拍手が巻き起こる。

この校長は人が良さそうだ。

この学院で何がしたいか…か。


そう言えば…なんでこの学校にしたんだっけな?

単純に、魔術教育の質が高いからか?

他にも理由があった気がするが…まぁ良いか。ゆっくり思い出せばいい。


それに、『魔術師であれ』――か。字面以上に、もっと深い意味がある気がする。


「エーデル校長、格調高き式辞を賜り、誠にありがとうございました」


司会の手に挟まれた奉書紙が、彼の目に次のページを示した。


「国歌斉唱。新入生、在校生、職員、起立――


本来であれば国旗に向かって歌うのが一般的だが、わが校では校章に向かって歌うことになっている。新入生は慣れていってくれ。それでは、国歌斉唱」


国歌が流される。


国歌斉唱――

歌詞は覚えている。

だが、国旗や国歌――ひいては国に敬意を払わなくてはならないというのが、いまいち理解できない。何のために忠誠を誓わされているのか、僕には分からなかった。


早く終わらないかな…


「来賓・祝辞。続いて、本日この学院にいらっしゃった、四大公爵陛下を紹介する」


公爵?

この国にそんな概念あったんだ。


――あ、“国”って言っても、めっちゃ面積広いから、そこは安心してくれ。

なんせ、この世界にはこの国しかないからね。

By 当時の担任


「公爵陛下は、本校設立当初から多大な金銭支援をして頂いている方たちだ。

在校生はもう知っていると思うが、新入生はまだだろう。

この学院で過ごすにあたって、密接に関わってくる。しっかりと覚えて帰れ」


まじか…名前覚えるの苦手なんだよな〜


「それでは、四大公爵陛下、壇上に――」


「…行くか」


体育館の空気が一変した。


――次の瞬間

天井に掲げられていた校章旗が、音もなく縦に裂けた。


赤黒い炎が、視界の端を掠める。

遅れて、圧が来た。


――いった…!

…っはぁ、はぁ、はぁ――

肺が潰れる感覚が身を襲う。


膝が笑う。

呼吸が…うまく…できない。

辺り一帯に、強力な魔力がのしかかった。


椅子から落ちた新入生も少なくない。

僕も足を崩しそうになる。危うく出鼻を挫かれるとこだった。…物理的に。


そんな中、白髪の青年は顔色一つ変えず一望する。


その拍子に在校生に目が向く。

――頭を下げていた。

まるで、恐怖に押し潰されるかのように。


瞬間、冷気がほとばしる――


音は消え、のしかかる魔力の重圧も治まった。


「相変わらずだな、アルディウス」



ゼルフィアは視線すら向けなかった。



「まぁな」



アルディウスは僕ら…いや“俺ら”を一瞥する。




――僕?

アルディウス公爵の目が止まった。

彼の目つきは、狩人のように鋭くなった。


アサーシはほんの僅かに目を細めた。


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