第二十四話 常識から逸脱した者
僕らの前を歩く少女の顔が、チラリとこちらを振り返った。その顔には眉間に皺が寄っており、僕を不審がっている様子だった。
「ん?」
意想外の響きを耳が捉えた。
そんなはずない。だって、そんなの…
焦りが脳裏を満たした。
額と掌から滲む冷や汗は、地面に滴り落ちる程に分泌された。
『和食』って何?
その言葉が意味することは、二通り考えられる。
一つは、単純にセリアさんが無知である可能性。
しかし、十何年生きてきて、それは考えにくい。
もう一つは――
「俺もそれ思った。そんな単語、聞いたこともないぞ」
「…そう」
リオン君の声が、僕の異端さを掻き立てた。
…やっぱりそうか。
セリアさんの言葉を聞いたときから、薄々勘付いてはいた。だが、実際に言辞にされると…堪えるものがあるな。
『和食』
それは一汁三菜を基本とした、栄養バランスの良さが生業の食事カテゴリーだ。
僕の家の食卓では、それはもうThe和食って感じの食事が多く出されている。
例えば、最近食べたので言うと――
・生姜焼き
・肉じゃが
――などがある。
たまに家内では、洋風の風がそよ吹く日もあるが、基本的には和の心を重んじている。
…僕の大好物はビーフシチューである。が、別にそれは洋の心に浮気しているわけではない。決して。
この命に誓って。
掌を胸の真ん中に置いた。
ドクッ、ドクッ――
脈動の周期が、いつもより早い気がする。
僕の知っている常識が、ここでは通じない。
僕だけが和食を知っていて、他は誰も知らない。そんな状況が、あり得てしまうなんて…
過去の記憶を遡ってみる。
…そういや、友達の家にお邪魔するってことが、今まで全然なかったかもな。
そうなれば必然、世間で言うところの当たり前の食事を知る機会も減る。
友達との会話でそれを知ることもあるだろう。だが、僕の場合は違う。
人の家庭の食卓を尋ねることも、相手から話されることもなかった。
正直、その頃は魔法のことで頭が一杯で、他のことが考えられなかったのかも知れない。
友達には、延々と魔法の上達方法を聞き及んだいた。
…一時から、とんと身が入らなくなったが。
不思議そうに覗き込むセリアさんたちに、僕は見つめ返した。
…聞き方を変えてみるか。それで、何か見えてくる可能性は十二分にある。
一口に『和食が分からない』と言っても、段階があると僕は予想する。
例えば『和食』と言う言葉事態は知らなくても、和食から連想される米や味噌汁の存在は知っているパターン。
…これは全然有り得そうだ。
もう一つ考えられるのは『和食そのもの』を知らないパターン。
この場合はもう、お手上げである。はっきり言って、説明の仕様がない。
実物でも持ってこない限り、教えることさえ叶わない。
可愛らしい身長の彼女を見やった。
…聞いてみるか。せめて、せめて前者であってくれ…!
「米とか味噌汁とかは分かる?」
「うん。そりゃあだって私、南部領出身だし。米と味噌の発祥の地だよ?食べたことくらいあるし、勿論知ってるよ。もしかして、馬鹿にしてる?」
リスのように頬を膨らませながら、プンスカと怒りの口調を露わにしている。
…やっぱり、何度みても小動物みたいだな。
「うんん。違うの。ただ、確かめたかっただけだから。気にしないで」
「そうなの?…なら、まぁいいけど」
不完全燃焼な様子で睨まれた。僕を、相当訝しんでいるようだ。
とはいえ、これでセリアさんの和食に対する認識の深さが知れた。
つまり、彼女は『和食』と言う言葉は知らない。だが、和食料理は知っている――そういうことだ。
ふぅ…
何だかどっと疲れてしまった。
普段から色々考える方ではあるが、今日は特に頭を酷使した気分だ。
脳がまた糖分を欲しているような気がする。
…帰ったら、しっかり休ませてやらないと。
右隣に居る、金髪青年の様子の微細を追った。
…リオン君には、まだ聞いてなかったか。
彼は、どこまで和食を知っているだろうか?そして、どこまで知らないのだろう?
…まぁ、聞いてみないことには、何も分からないか。
「リオン君はどう?米とか味噌汁は知ってる?」
リオン君は、彼を挟む僕らの会話に、意識が持っていかれているようだった。
そんな彼の肩を掴み、目線を僕に向けさせた。
「俺?俺は『こっち』来てからは知ってるかな」
すまし顔で、平然と彼は答えた。
…今変なこと言ってなかったか?
すかさず問い詰めた。
「『こっち』ってどういうこと?」
『考える人』のような体勢を取った後、彼は『斟酌の人』になった。
『考える人』は、確か初等生の頃にとても流行った記憶がある。
みんなでそのポーズを真似して、賢ぶるというのが一種のブームになっていた。
…僕もやってたな。
一拍を置いて、彼は僕の聞きたいことを察したような態度を取った。
「ん?あぁ…そうだな…」
都合が悪そうな態度を取った彼は、焦りで滲んだ手を、ズボンで拭いている。
…怪しい。知られちゃまずいことなのか?
一瞬だったが、僅かに目の焦点が合わなくなっていた。
心配と同時に、訝しみの念に駆られた。
「ま、あんま気にするな。別に、重要なことでもないしさ」
いつもの顔に戻り、颯爽としたハンサムスマイルでにこやかに茶を濁された。
リオン君が言うなら…そうなのかな。
その表情に気を取られてしまった僕は、趣旨を見失ってしまう。
「あなた…何者ですの?」
セレニアが、獲物を狩る狩人のような目で僕を問い詰めて来た。
何者…と言われても、自分で説明の仕様がない。…まぁ、この世界で生きてきて随分経つわけだし、敢えて言葉にするなら――
「この地に根を下ろす者…かな?」
考えて、考え抜いた末に、僕はこの結論を弾き出した。恐らく、的を得た回答だろう。
軽く手を腰に当て、少し自信ありげに胸を反らせた。
さて、このお嬢様はこの回答をどう見る?そろそろ一回、ぎゃふんと言わせた――
「フッ」
――また鼻で笑われた。何か、おもしろポイントでもあったか?
結構真面目に答えたつもりなんだが…
「ほんっ…と、分かりやすいですわね。言動から言葉回しまで、私の予想通りでしたもの。それがおかしくって、おかしくって…」
高笑いされながら、上品に貶された。
なんと言うことだ…僕の発言など、予想の範疇だったとでも言うのか。
髪をくしゃくしゃにしながら、頭を抱えた。
僕はこのお嬢様に対して、二面性の感情を抱いている。
一つは鼻を明かしてやりたいということ。
あの余裕綽々で生意気な根性を、一度叩き直してやりたい所存だ。
あわよくば、セレニアには僕が“先輩'”なのだと分からせてやりたい。上下関係を、はっきりさせておきたいのだ。
もう一つは、対等でありたいということ。
前までの僕なら、若き才能や歳下の優秀な者を目にしたとき、『自分には無理なんだ』と線を引いてしまっていた。
どれだけ時間をかけようと、埋めることの出来ない決定的な差が、そこにはあると思っていたから。
でも――
決意の指を、掌に食い込ませる。
――『才無き者』としての自分は、もうここにはいない。今の僕にあるのは『上を見る覚悟』
地に伏している場合ではないのだ。
今出来る最善を尽くす。才能の有無を言い訳にしない――真の強さを得た自分の姿を想像しながら。
「それにしても変ですわね」
「何が?」
「西部領で暮らし始めてから、十数年。『和食』という言葉を耳にしたことは、一度たりともないのよ。それなのに、私より数年だけ長く生きているあなたが――いや、恐らくこの場であなただけが知っている」
腕を組んだ後、そのままの姿勢で右手だけが顎に添えられた。
なぜ今、西部領の話を持ち出したんだ?
もしかして、セレニアには、僕の住んでいる地域が割れていた…とか?
いつ?どこで?
必死に思考を巡らせる。だが、思い当たる節は一つたりともなかった。
口調から、田舎臭さが出ちゃってたのかなぁ…
「その言葉は、いつ頃から使っていたのかしら?」
記憶の片隅にあるであろう、埃を被った発音の動きを辿った。
幼い頃から、お母さんはご飯時に、よく和食の話をしてくれた。それの影響もあるのだろう。気がついた頃には、日常的に使うようになっていた。
…懐かしいな。
感傷に浸りつつも、彼女への返答を考えた。
「物心ついた頃には…もう、使っていたと思う」
「…そうですの」
思考を整理するように、彼女はぶつぶつと呟き始めた。余計に悩ませる種を、蒔いてしまったらしい。
すると突然、セレニア節で話が展開された。
「幼少期の生活の仕方は、成長しても面影が残る場合が殆どかしら。…あなたもきっと、例に漏れずそうなのでしょう。行動の節々から、それが感じられるわ」
彼女の話の意図を掴み取ろうとした。
面影――大半の人にとって、幼い頃からの名残は残りやすいということだろうか。
そして、それは僕にも適応される。
…これ以上は読み取れなさそうだな。
「私が言いたいことは――」
次の開口を待った。
伏し目がちだった彼女の目と、僕の目が合う。
顎に添えられていた右手は腰に落ち、まるでアドバイザーのように柔らかい口調で彼女は告げた。
「――もし違和感を“違和感”のまま放置出来ないなら、親御さんに聞くことかしら。それが最も確実で、賢明だと言えるのよ」
親切心の塊みたいな眼光で、彼女は僕を睨みつけた。
…僕を心配してくれてたのかな?
その表情には、冷たさと温かさが絶妙に溶け合っていた。
「…そうだね。やってみるよ」
その気持ちには、こちらも相応の思いを返さなくてはならない。
『ありがとう』――感謝の意を込め、お辞儀した。
淡い金色の瞳孔が、大きく開眼された。
「お会計お願いします」
前方から、今にも代金を支払おうという赤髪公爵の姿が目に入った。
アルディウス公爵は、スイーツ以外は食べたのかな?
甘党なのだから、ガッツリ系に手を出していなくとも不思議ではない。…いや、むしろその可能性の方が高そうだ。
カルトンに落ちる硬貨を注視した。
さぁ一体どれだけの甘味を…
…え?
「2セリオ1ルクスになります」
青い絨毯に、青銀と銀が溺れた。
トンッ、トン、トントントントトトトトトト――
落下の弾みで跳ねた硬貨たちは、重心が変わらない。横から見たところ、カルトンに触れた硬化の端が波を描くように旋回した。
よく見る現象だ。これに名前があるのかは、定かではない。
それよりも…だ。
2セリオ1ルクスということは、ルクスに直すと21ルクスということだ。
仮にこの喫茶店のデザートを一品ずつコンプリートしたとしても、この金額にはならない。
だとすると…
後ろを振り返った。その空間は、学生や貴族で賑わっていた。
テーブルに乗せられた食事を見やる。
学生の多くは、お手軽なルクスブレッドやルクスティーを頼んでいる。
一方で、多くの貴族はセットやデザートを好んでいるようだ。
確か、この店で一番高価なセットは…
メニュー表を上から順番に思い出していく。
これだけ時間が経っていると、流石に詳細は覚えていないが、幾つかの名前と金額は頭に入れてある。
そこに『妙に高いな』という印象を受けたものがあった。
メニュー表の一番下――『セット』のカテゴリーに位置していた“あれ”。
そのセット名は――
「すまない。『静謐プレート』をいただけるかね?」
「かしこまりました」
左手奥側から、貴族っぽい声質をした男性が、例のプレートを注文している音が響いた。
――そうだ、そうだ。そんな名前だった。
この品だけ8ルクスだったものだから、ビビり倒したことを覚えている。
しかも、デザートをコンプリートした場合の合計金額は13ルクスだから――お!足すと合計で21ルクスになった!
つまるところ、アルディウス公爵は――
・静謐プレート
・青花蜜のレアチーズ
・ネモフィラパフェ
・魔導クリームブリュレ
――の順で頼んだ可能性が高いわけだ。
…胃袋どうなってんだ、この人。
もはや店の在庫と戦ってるだろ、これ。
過大に表現してしまう程に、彼の言動は常識とかけ離れていた。
まぁ、あの筋肉を維持する為には、沢山食事を摂取しなくてはならないのだろう。
脂肪が無ければ、筋肉も付かないからな。
「…じゃあ俺は外で待ってるぞ、ゼイル」
アルディウス公爵の期待するような目が、僕の心を取り残す。
彼が言っていた『ここでは話せない』の意味を今一度考えてみた。
入学式で従者を連れてこなかった理由――話してくれるだろうか。心配だ…
でも「外で待ってる」と言ってくれているわけだし、話す気がゼロということはないのだろう。
不安と期待がブレンドされた感情を抱いた。
「次は、俺たちのお会計お願いします!」
ヴァルドたちは各々の手に硬貨を握り締め、レジに並んだ。この中には、流石に青銀硬貨を財布から出す者はいないようだ。
…安心した。アルディウス公爵が当たり前のようにセリオ硬貨を出すものだから、貴族の間では常識のように根付いているのかと思った。が、実際は違うようだ。
ほっと、一息ついた。
…セレニアとエルフィナって、紅茶とルイボスティー飲んでたよな。
あんなのメニューにあったか?
『飲み物』カテゴリーを、脳内で、過去の自分と共に追体験した。
…いや、ないな。一切の見覚えもない。
あり得ることとすれば――
裏メニュー?それとも貴族優遇?
どちらもありそうだが、断定は出来ないな。
…後で二人に聞いてみるか。
海馬の扉をノックした。
いつでも引き出せるように、脳内にしまっておいた。
「お〜い!次、リオンたちの番だよ〜!」
ギャル店員ことミレイさんが、僕らの鼓膜で蠢くような高い声で話しかけてきた。
一発で伝わるように、工夫してくれたみたいだ。
…ちょっと、耳がキーンとしたけれど。
それぞれに手渡された会計伝票を、ミレイさんに引き継いだ。
白黒の印刷紙を見て、ふと思ったことがある。
…これって別に、一グループにつき一つの伝票でも成り立つよな。何で一人ひとり別々なんだ?
至極真っ当な自問自答をした。
その結果、一つの結論にたどり着いた。
個人的には、『客の為を思った結果』がこの現象の正体ではないかと思う。
それぞれに伝票があると、支払わなくてはならない金額がひと目でわかる。それは僕たち消費者にとって、この上なく有難いことだ。いちいち計算する必要もなくなるからね。
ふむ…そうなると、わざわざ目の前に居るミレイさんに疑問をぶつける必要もないか。
もし僕の話を聞いて、僕が『伝票制度を変えて欲しい』と思っていると捉えられてしまっては、この喫茶店独自の良さが減ってしまう。
個性は消したくない。
ならば――
「これでお願いします」
四枚の銀硬貨をカルトンに触れさせた。
――淡々と、この場を立ち去ろう。
僕に続いて、七枚のルクス硬貨と…一枚のセリオ硬貨が出現した。
「あれ?ルクス硬貨じゃないの?」
「それがさ、さっき財布の中確認したらルクス硬貨が八枚しかなかったんだよ。だからやむを得ず、このセリオちゃんを手放す判断を下したってわけ」
頬をスリスリさせて別れを惜しんでいる。
――そうだった。そういえば、リオン君が「今日は7セリオ持ってきた」的な発言をしていた。しかも、僕らはメロンパン屋台で2ルクス使ってる。なら、ルクス硬貨だけで払えないのは当たり前の話か。
セリアさんはと言うと、そんな姿を見て、この世で考えられる限りでもトップクラスの軽蔑の眼差しを向けていた。それはさながら、変態セクハラ野郎を見るかのような目である。
「(キッショ…)」
声量を落としたせいか、彼の意識化には彼女の声は存在しないようだった。
え…なんでそんな目でリオン君を見てるんだ――
――と思うも束の間、一つの可能性を見出した。
あぁ…『セリオちゃん』か。硬貨にちゃん付けしてるのが、生理的に受け付けなかったわけだ。ほっぺたに擦り付けてたのも、同様に。
――多分、そういうことだろう。違うにしても、セリアさんはリオン君を嫌っているわけだから、それが作用して、余計にキモく見えてしまった…ということも考えられるだろう。
「よし、合計で…20ルクスだね」
レジの引き出しに、硬貨が収納されて行った。
それにしても、20ルクスか。
アルディウス公爵は、これより1ルクス多く支払ってるわけだもんなぁ…
彼の胃袋の底知れなさに、微々たる身震いを感じた。
「そろそろ行こっか」
「そだね」
「だな」
セリアさんの一声に続いて、扉の前までやって来た。
腕時計を確認してみた。
時間にしてみると…大体一時間くらいか。
すっかりおやつ時である。もう食べたから、別に良いけど。
ドアノブに手をかけた。
どうやらこの三人の中で、僕が一番外に近いようだ。
カランコロン――
入店音と同じ音が、脳内に再生された。
やはりこのThe喫茶店って感じの音は、僕の好みドンピシャだ。
喫茶店から屋外へと足を乗り出した。一時間ぶりの外は、なんだか凄く久々に感じる。
喫茶店に続く階段の下には、初等生集団が待ち構えていた。
「あ、やっと来た!」
赤髪少年の後ろには、チャコールローブの影に落ちた男がそびえ立っていた。
良かった…約束通り、待ってくれていたみたいだ。
万が一にでも、とんずらこかれてたら、かなりショックだった。
ヴァルドの『父親』である以上、それはないと思うけどね。
カランコロン――
後ろから入店音が聞こえてきた。
誰だ?僕らの前を通った人は居なかったけど…
扉を開けた人物を想像しながら、振り返った。
「またのお越しを、お待ちしております」
黒髪店員が両手を臍辺りに当て、綺麗なお辞儀を披露した。
周囲に大勢人がいるからだろうか。ミレイさんは外行きの言葉遣いで、丁寧に僕らを送り出してくれた。
「はい。…また来ますね」
階段を降りた。
体を東側に合わせた。視線を右方向に移動させた。
「…行くか」
男の声調で、皆の意志が一つになる感覚になった。
ここからは、初等生集団とアルディウス公爵、そして僕たち三人の、計八人で行動することにした。
陣形としては、初等生集団の後ろに僕ら三人、そしてアルディウス公爵――といった具合だ。
僕らはアストラ街の新たな出会いを嘱望しながら、一斉に歩き出した。
「一つ良いですか?」
アルディウス公爵の隣に位置した。
周りの迷惑にならない程度に、片手を挙げた。
まだ目的がしっかり決まっていないと思い、聞いてみたのだ。
集団行動は、明確な目的が定まっていないと統率が取りづらいからな…
「…なんだ?」
静かに淡々と返答された。正体バレを恐れているのだろう。
さっきメロンパンを買ったときよりも、人が多くなってきた。
「これから、どこに行くんですか?」
赤髪公爵の目線の方角は、僕の想像とは少しズレていた。
進行方向的には東一直線な気がする。
それでも、やはり目的地は明確化しておくべきだと思う。
「あぁ…それはな――」
ローブが持ち上げられた。頑丈そうな布は、彼の腕に引っ張られた。
彼の人差し指が指した方角に、体を傾けた。
あれって――
「――あそこだ」
チャコールローブから、少し小っ恥ずかしそうな声が漏れ出た。
――視界の先には、東部領の中央に位置する、赤黒いオーラを纏った、火山のような屋敷が異彩を醸し出していた。




