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第十九話 不相応な甘党


鉄の感触が妙に冷たかった。

ドアノブを最後までしっかり握って、

ガチャン――と音を立てるまで見届ける。


店内は学生から貴族まで様々に賑わっていた。


「今日いくらまでいける?」


「いや〜今月金欠なんよねぇ…正直ルクスティーしか無理かも」


近くの学生集団が座ってるテーブル席の会話を盗み聞きした。


ルクスティーと言えば学生御用達の安いお茶だ。

ただ安いだけじゃないのがこのお茶のいいところ。値段の割に香り高い味わいが楽しめる。

原産地は様々らしいのだが、大体は南部領(ラフィリア)で採れるらしい。

覆下(おおいした)栽培というやつで日光を遮って育て、濃厚な旨味と甘みのあるお茶に仕立てるのだ。所謂、玉露というやつだ。

普通ここまで手間をかけたなら高くつきそうなものだが、何故か1ルクスという破格の値段設定で嗜むことができるのだ。

農家の方が赤字になっていなければいいのだが…


中央にはデカデカとカウンターが構えており、左右両側には最大四人は座れそうなテーブル席が店の奥まで続いていた。


奥行きからしてかなりの広さだ。


「いらっしゃいませ〜!」


開口一番、黒髪を後ろに結いまとめた女性店員の声が響いた。


バターと小麦の溶け合う香り。

青々と瞳に差し込む花々。


煎りたての珈琲。

匂いの出処が自然と見つかった。

凵字型のテーブルの奥に立つ青髪の人影。

先程の明るい店員の声とはまるで別人だ。

カウンター席は想像よりも空いており、右側に僕たちがL字になって座れるくらいの空席があった。

…黒青髪が見えたが、気のせいだと思いたい。


青髪店員は僕を見るなり、


「(え?なんでゼイル来てるの…と、取り敢えず隠れないと…)」


都合が悪そうに顔を歪ませると、そそくさと厨房に消えていった。


あの人…見覚えがある。

自然と瞳孔が靴を捉えた。

あれ?…って濡れてるわけないだろ。

馬鹿か僕は。


彼女が居た目の前には、チャコールローブに体が覆い被さった人物が居た。

…すぐに見つかって良かった。


ほっと息つく間もなく

「ちょっと、ヴァルド!何ですか、その食べ方は?はしたないですわよ」


黒青髪の少女が赤髪の少年に叱りつけていた。

ヴァルドはルクスブレッドを食べているようで、ハムスターのように頬いっぱいに溜めながら咀嚼している。

余程美味しかったのか、手にパンの粉をいっぱい付けてしまっている。

その手を…舐め取っている。

これはセレニアに叱られるのも納得の行儀の悪さだ。


…というかほんとにこの喫茶店に来てたんだな。見間違いじゃなかったらしい。


上を見上げると、青白い光が灯ったライトが旋回していた。

所謂、シーリングファンというやつだろう。プロペラの形をした回転体が、天井で光を連れ回している。


先程の声の主を探そうと目線を下げた。


黒ブーツに黒パンツ。

白シャツに黒ネクタイ。

その上に黒ベストを着ている。

全体的に黒で統一されているコーディネートだ。


ピアスやネックレスといった装飾品は身につけておらず、一切のチャラさが見受けられない純朴さがあった。

お盆を腕でしっかりと抱きかかえ、頭を下げることで誠意を表現している。

営業スマイルを息をするようにこなしている彼女を見て、つくづく自分にバイトは向いていないのかも知れないと思い始めた。


「あれ?リオン君じゃん!やっほ〜」


抱きかかえていたお盆を空席のテーブルに乗せ、柔和な口調で手を振った。

先程までの完璧な接客を砕き壊し、タメ口を使っている。

いや駄目でしょ。

知り合いとはいえ、こういうのはバイトが終わってからするべきことだ。

こんな接客でいいなら僕でもできる。

なんだ、案外バイトも大したことないな。

…実際は緊張してコミュ障発揮しそうだけど。


「お!やっほ〜」


リオン君が普段通りの颯爽とした顔で返す。銀色のピアスが蒼白く灯り、その幻想的な光景に思わず釘付けになった。


…横顔も綺麗だ。

スラっと整った鼻筋に自然と上がる口角。

リオン君、絶対モテるよなぁ…


初等生・中等生時代から一切モテて来なかった僕には縁のない話だ。

バレンタインに義理チョコも貰ったことがない。しかも、親からもない。


さすがにおかしいと思い友達に聞いてみたことがある。


「え?お前貰ってないの?親からも?」


そう返されて、余計に虚しくなった。


母は普段から優しいのだが…

こういうときの厳しさといったら、ビターチョコぐらいの苦さである。

カカオの配合率で言えば、

みんなに対しては20〜40%程

僕に対しては70%以上

って感じだ。


母は現実主義的なところがあるから、こういう辛辣な対応も納得である。

親だからというのもあると思うが。


一方で僕は現実主義な部分と理想主義な部分の両方を持ち合わせている。

母は現実主義よりだから…

これは父の影響か。


たが一つ疑問なのは、幼少期に父と過ごした記憶が一切ないということ。

声はおろか顔も名前も、全く知らない。


母に聞いてみたことがあったが、


「…貴方に父親なんて居ないわ。

(思い出したくもない…)」


と言われた。

センターパートで分けられた長い白銀の髪が、分け目を失い貞子のように影が落ちていたのが印象的だった。


そういや母は一時期ホラー映画にハマってカニバリズム系の映画を見ていた気がする。


幼い僕には衝撃が大き過ぎて、見た日の晩は毎回泣いたものだ。その度に母が膝枕をして寝かしつけてくれた。…懐かしい。


制作会社はどこだったかな…

確か見たことのない文字列だったと思う。


どれも生まれてから目にしたことがなく、それも怖さを助長させたものだ。


百歩譲ってホラー映画はいいとしても、制作会社の詳細が不明とか恐怖以外の何物でもない。

今となってはこれが一番のホラーだ。


『現実は小説よりも奇なり』とはよく言ったものだ。

実際現実で起きたことの方が、よっぽどリアリティとそれに付随する寒気が痛々しかったりする。


「リオン君、この人と知り合い?」


「ん?あぁこの人はクラスメイトの

ミレイ・ノクスさん」


リオン君がスマートに彼女の背中に手を回し、僕の目の前まで歩かせた。


うわぁ…イケメンこわ…

顔が良いから多分許されてるだろう。


僕なんかがやったら

弁慶の泣き所からのみぞおち一発。

もしくは顔面ハイキックからの脳天踵落としでも食らってるところだ。

なんとも羨ましい。


「うぇ〜い!よろしく〜」


一瞬、間があった。

まるで言葉を思い出したみたいに。


白い歯を輝かせながら特徴的な八重歯に挨拶された。

右手を腰に当て、左手でピースを作ってこちらに向けられる。

なんとギャル属性であったか。

清楚な見た目に反して意外と緩い性格らしい。


「ミレイさん…こんにちわ」

セリアさんが彼らを気遣うように頭を下げた。


「あ、セリアさんじゃ〜ん。うちのリオンとあれからどうよ?ういうい!」


ミレイさんが肘でセリアさんの肋骨辺りを軽くつつきながら囃し立てている。

…ダル絡みか?

とはいえ嫌っていたらダル絡みもしないよな?

セリアさんはB組の女子から除け者扱いされていると聞いていたから、なんだか意外だ。


「いやぁ…別に何もないですよ」


両手で何かを拒否するような動きをしながら答えていた。

その顔には少なくとも嫌悪は含まれていなかった。


「隣の席の子でさ、暇なときはこの子と話してるんだ。

まぁセリアさんと話す方が楽しいから、

休み時間は大体セリアさんの方に行ってるんだけど笑」


リオン君がミレイさんの肩を掴んで元の定位置に戻した。

彼女は受付の担当だろうから、きっとここで友達と駄弁ってる暇はないと思うのだが…

減給とかされないか心配だ。


…まぁ、気にするだけ無駄か。結果として選択をしたのはミレイさん。職務怠慢で減給されたとしても自業自得だ。


僕はそれを糧に反面教師にしたらいい。

丁度セリアさんと牧場バイトの約束をしたばかりだから、失敗を学べるならそれに越したことはない。


「ちょいちょい、ひどくな〜い?うちが邪魔者みたいじゃ〜ん」


ピースをした手の形から折りたたまれた指が頭角を現し、その勢いで彼女の手の甲がリオン君の顔面を引っ叩いた。

…ごめんリオン君。正直スカッとした。


「いったぁ…!ちょっと、何すんだよ!」


「女の子の気持ちを踏みにじった罰だ!とくと思い切ったか?べぇ〜」

両目を閉じながら彼女の突き出た舌がリオン君に怨念を刺した。


なんだかんだ仲が良いらしい。

相性が良さそうだ。


ただ…


「いつになったら案内されるの?」

セリアさんが僕の心を代弁するように告げた。


「あ〜めんご、めんご!すっかり忘れとった!じゃあ席に案内するね〜」


テーブルに置いてあったお盆を脇に挟み、

手を合わせて謝られる。


いや、軽いな。ギャルってみんなこんな感じなのか?僕のイメージではこういうのは小説の中だけだと思ってたのだが…

違ったか?


「テーブル席とカウンター席、どっちがいい?」


チャコールローブが頭に浮かんだ。勿論、答えは決まっている。


「テーブル席で。二人とも、それでいいね?」


互いに顔を見合わせ、頷き合いながらフードを凝視した。

ついに答え合わせだ。


「かしこまりました〜!三名様入店で〜す!」


手招き混じりに案内された。

ここで怪しまれる訳にはいかない。

なるべく平静を装うんだ。

早鐘を鳴らす心臓を押さえながら、息を殺す。

一歩、一歩とフードとの間隔がなくなってゆく。

…大丈夫。焦らなくていい。

いつも通りの僕でいい。変に繕った方が怪しまれる。


それに、すぐに話し出す必要はない。

タイミングを見計らって、最善を尽くすんだ。


「(――ほんと…やっと会えたよ)」


「(ごめん、ごめん。毎回違うんだも〜ん。許してくれよ〜!)」


右側の陳列されたテーブル席の奥の方から微かに鼓膜に行き渡った。


そのテーブル席の、向かい側の席の左手には荷物が置かれていた。

頑丈そうな黒のトートバッグだ。黒以外の色は見受けられず、質素な色合いともスタイリッシュとも言える絶妙なデザインだ。

…僕も鞄を使うならああいうのを選びそうだ。


残念ながら、座っている人の容姿は角度的に全く見えない。


一方で手前側に座っている人の髪の毛がはみ出していた。

オレンジ髪だ。


何の会話をしてるんだ…?

もう少し近ければ周波を捉えきれそうなのに…


「荷物置きはテーブルの下にありますので、適宜ご利用なさってくださいね。それじゃあまた〜」


最後の最後で安心し切って敬語が抜けていた。

ギャルって生き物は詰めの余さもあったのか?

…それとも単純にがさつなだけ?


ミレイさんの説明を受け、席の前に立つ。


このカウンター席の

中央にはチャコールローブの人。


左手の席には奥から

セレニア・ヴァルド・エルフィナ・レイヴンの順にL字を成しており、

レイヴンの二つ隣まで空席となっている。


僕も二つくらい間を空けた方がいいだろうか?しかし、離れすぎていると会話が生まれづらくなる。

どうしたものか…


「(もう隣座っちゃったら?)」

セリアさんの吐息がダイレクトに耳に当たった。その温度は鼓膜が溶けてしまいそうな程熱く感じられた。


「ひゃっ!」

耳の縁が見る見るうちに赤くなるのを感じた。咄嗟に耳を押さえた。

いきなりは反則でしょ…


「ん?」

フードから声が漏れた。

冷や汗が止まらない。

これだけ声を上げてしまってはもう隠せそうもない。

諦めて観念するしか…


「…これ美味いな」


え?

彼は目を見張る程大きな器に入ったスイーツを次々と口に運んでいた。

まさに夢のような食べ物だった。


そのスイーツは三層に分かれていて、

上層部から

生クリーム・半透明ゼリー・珈琲ゼリーが重なっていた。


生クリームの上にはブルーベリーと葡萄が乗せられていて、申し訳程度にネモフィラが添えられている。


中心には透明なストローがぶっ刺さっており、下層部の珈琲ゼリーまで繋がっている。


全体で見たときにネモフィラを彷彿させる創意工夫が凝らされている。

青で統一しようという経営努力が感じられた。


パフェスプーンでクリームを掬う。

頬張る。

ストローを持つ。

かき混ぜる。

咥える。

混ざり合ったゼリーたちが、重力に逆らいストローの管を駆け上がり口腔内へと吸い上げられる。


「ん〜」

ニヤけた口元。

目元まで影を落としたフードは彼の口角までは隠せなかった。

恍惚とした表情が目に浮かぶ。


…これ、話しかけていいやつか?

機嫌を損ねてしまいそうで躊躇してしまう。


だが、臆していては何も進まない。

やるんだ…今、ここで。


椅子に手をかけた。

これは背もたれや肘掛けのない…所謂、丸椅子だ。


戦いの火蓋を引いた。

ギィィィ――

椅子の脚と床が擦り合い、摩擦を生んだ。


テーブルの下を覗いた。

手に持っていた鞄を荷物置きに入れる。

目線が落ちたまま左隣を見やると既視感のある匂いがした。

茶色の紙袋に包まれた突起物。

三つの丸い形が浮き上がっている。

この見た目と匂い…間違いない。

メロンパンだ。それも三つ。

これはほぼ勝ったと言えるだろう。


さて…いざ、尋常に参る!

椅子に腰掛けようとする。


僕は…

アルディウス公爵と一つの空席を挟んで座面に尻餅をついた。


…やっぱり僕はチキン野郎らしい。


「フッ」

セレニアで鼻で笑われた。

あのお嬢様はいちいち癪に触る奴だ。


初等生集団に視線を移した。

テーブルには右から順に

紅茶・ルクスブレッド・ルイボスティー・チキンサンド

が並んでいた。

あの集団の女子と男子では食欲や胃袋の大きさに差があるようだ。


さあ、僕も頼むとしよう。

ん?


メニューを開こうとすると、テーブルに円形と特徴的な紋様が刻印されているのに気がついた。


色はない。ただ刻み込まれている感じだ。


何か仕掛けでもあるのか?


「うわ〜全部美味しそうだねぇ〜!」


「でもあんまり使い過ぎると他の買い物できなくなっちゃうからなぁ〜」


二人はメニューとにらめっこしながら悩んでいる様子だ。


メニューを開いた。


―――――――――――――――――――


メニュー


『パン』


・ルクスブレッド      1ルクス


・白金鶏のコンフィサンド  3ルクス 


・燻製魔獣肉のホットサンド 4ルクス 


・蜂蜜バター蕩ける

 ルクスブレッド      3ルクス


・発酵魔力パン       2ルクス


『付属』


・温度維持バター      1ルクス


・魔導ジャム        1ルクス


『軽食』


・魔獣フィレの軽炙り    4ルクス


・低温ロースト       5ルクス


『スープ』


・魔導コンソメスープ    3ルクス


・青薬草のポタージュ    3ルクス


・低温煮込みの濃厚スープ  5ルクス


『飲み物』


・ルクスティー       1ルクス


・ネモフィラティー     2ルクス


・魔導ラテ         3ルクス


『デザート』


・青花蜜のレアチーズ    3ルクス


・魔導クリームブリュレ   4ルクス


・ネモフィラパフェ     6ルクス



『セット』


・ルクスブレッドセット   5ルクス

 

 ルクスブレッド

 ルクスティー

 魔獣フィレの軽炙り

 


・静謐プレート       8ルクス

 

 低温ロースト肉

 青薬草のポタージュ

 魔導パン



―――――――――――――――――――


見ているだけで食欲が湧き立てられる。


何を食べようか?


アルディウス公爵が先程食べていたのは

『ネモフィラパフェ』というやつだろう。


6ルクス…結構高い。

喫茶店のパフェと考えれば、妥当な値段だが。


リオン君の言う通り、この後の買い物も考えればここは軽く済ませておくのが安牌か。


そうだな…


「すみません」

メニューに目を通しながら店員さんを呼んだ。


店員さんが来るまでの間に注文の品を覚えておくとしよう。

その方が店員さんにとってもいいだろうからな。


……

………


腕時計を睨みつけた。

秒針が三週していた。


…遅いな。


「なかなか来ないねぇ…」


「寝てるんじゃね?」


二人とも不満げな声を漏らした。

何かあったか?

というかあの青髪の少女はどこへ行ってしまったんだ?


「(――どうしても駄目ですか?今だけでいいんです。キッチンと代わっていただけませんか?)」


厨房からひそひそと話し声が靡いてくる。


キッチンの人と揉めてるのかな?

それとも不都合なことでもあったか?


背中には嫌な予感が張り詰めていた。


「(はぁ…そうですか。分かりました。戻ります)」


心底気怠げな溜め息がカウンター席の僕にまで伝わってきた。


…ここのバイト嫌いなのかな?


嫌なら辞めればいいのに。


「(あの方、何か迷ってますわ。そしてさっきの発言…ゼイルさんが関連していると考えるのが自然ですわね)」


黒青髪の少女は、紅茶を片手に紅蓮の瞳を焼き付けた。


コツッ、コツッ、コツッ――


厨房から足音が響いた。

来たか?


「長らくお待たせして申し訳ございません」


カウンターに立って早々、両手を両足側面に張り付け頭を垂れた。


「いえいえ!大丈夫ですよ!」


セリアさんのフォローが炸裂した。

彼女の言葉は返って店員さんを責め立てることになりかねないが、何も言われないよりはマシかも知れない。


「というか…」


ずっと気になっていたことを意を決して吐き出す。さっきからこれが気になって普段通りの集中力が発揮できなかったのだ。


「クラスメイト…だよね?」


青髪の少女は気まずそうに俯きながら唇を震わせている。それは何かに怯えている表情だった。


このクラスメイトは一体何を恐れてるんだ?


「…はい。実力判定試験のときに水泡(アクア・スプラッシュ)を当てた者です」


…やっぱりそうだったか。

あの時、彼女の気配を探ることも叶わず魔法を当てられた。


当てられる直前まで、教室で見た彼女の魔力は実力判定試験の戦場…グラウンドに存在していなかった。


あろうことかグラウンドには二対の同じ魔力が立ち上っていた。

ずっと同じなわけじゃない。

定期的に同じ二対の魔力は変動していた。明らかな意志があった。

あれは偶然ではない。


…何か関連性があるか?


「…あなたの名前は?」


恐る恐る尋ねた。彼女の秘密に迫るような感覚に陥る。単なる善人かも知れないのに。

けど、この感覚…誰かを考えているときと似ている。

入学式から現在まで、ずっと闇を抱えた雰囲気を纏っていた者たち…

その人達と感覚的には同じだと感じる。


「私は…」


一瞬、僕の呼吸が止まった。



俺はこの名前を一生忘れることのできない名前として刻み込まれることになる。

それは希望か絶望か…はたまた両方か――


「リュネア=クロノスです」


瞳に、何もなかった。

生きているはずなのに――

“存在していない”ような目だった。


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